愛の十字架 After

  



濡れた躰を拭く素振りもなく、シャワールームを出てすぐ、サンジの手首を掴んで引っ張るゾロに。
サンジは驚いて、バスタオルの下から蒼い瞳を瞬かせた。





「…なんだよ」
「早くしろよ」
「体、拭いてねェじゃねェか」
「時間が勿体無ェよ」
「風邪引くだろ?」
「引かねェよ。待てねェんだよ。行こうぜ、もう、早く」
「待て待て待て!」




どうしたんだ。
まるで、子どもじゃねェか。
サンジは驚き、呆れながら、自分が被っていたタオルを、バサリとゾロの頭に掛ける。




「なっ…――」
「少しは拭いてけ。風邪引くし、部屋中ビショビショになっちまうだろ」
「――…」




ガシガシ、と緑色の髪を拭いてやる。
こんなふうに昔はよく、風呂上がりのゾロの体を拭いてやった。
膝を曲げ、屈んで、上気したちっちゃな体を拭いてやったのに、今じゃ爪先立ちしねェと届かねェなんてなあ…と
思いながら手を動かしていると、不意に手首を掴まれて。




「――…あ?」
「も…、ワザとじゃねェよな、テメエ…」
「なにが?」
「焦らすなよ。限界なんだよ、もう…――」




ガバ、と抱きつかれて、太腿に熱い高ぶりを感じて。
一気に熱が上がる。
思わず口元が緩む。
焦らすだなんて、そんなつもり、なかったけど…――





「――…悪かったよ、ゾロ」
「――…」
「ベッド、行くか…?」




耳元に囁いて、ちゅ、とキスを落としてやると。
真っ赤な顔をしたゾロが、ガバッと顔を上げて。




「――…行く」






ああ、もう。
――…これだから。






********





初めてのくちづけは、シャワーに打たれながら交わした。
最初は、触れるだけ。
次第に、深く、貪欲になって。




『…ッ、ん』




ゾロのキスは稚拙だったけど、必死で、何より酷く熱かった。
欲しい、と。
もっと、と。
こんなふうに求められるキスを、サンジは知らなかった。



『んん』



あまりに息継ぎなしに深く探られて、さすがに息苦しくなって身を捩る。
ハッとした表情をしたゾロが、慌てたように身を離し、サンジの顔を覗き込んでくる。




『――…悪ィ、…苦しかったか?』
『いや――…』




ハァ、と息をつき、びしょ濡れの緑髪をサラリと撫でて笑うサンジに、ゾロが眩しそうに目を細める。




『ゾロ。…も、出っか』





初めてなのかもしれない。
もしかしたら、ゾロにとっては――…何もかもが。





寝室のドアを開け、綺麗に整えられたベッドの上に縺れ込む。
ぎこちなく抱き締めてくるゾロの上に覆い被さるようにして、サンジが金色の瞳を覗き込む。
微かに強張った、ゾロの表情。
愛しさが突き上げてくると同時に、堪らなく不安になる。




本当に、いいのだろうか。
本当にこんな自分が、この、真っ直ぐで清廉な男に触れても――…いいのだろうか。





「――…なあ。…いいんだよな…?」
「え?」
「オレなんかが。テメエに触れちまったりして…――いいんだよな…?」




やっぱり止めた、とゾロが言えば。
急に正気に引き戻されて、踏み留まろうとするなら、自分は。
――…いくらでも、このまま…





「――…テメエ以外に、誰がいるんだ」





小さく、笑って。
ゾロがサンジの下で、ふ、と息をつく。





「でも、ゾロ…――」
「悪ィ。オレ…緊張して来ちまって…」
「初めて…か?」
「当たり前だろ。テメエみてェにホイホイ遊び歩いたりしねェんだよ、オレは」




ムッ、とした表情のゾロに、サンジが柔らかく笑む。




「――…そうだな。悪ィ」
「…おう」
「…大丈夫か?」
「事前学習とシュミレーションは、バッチリなんだけどよ…さすがに相手がテメエじゃ、背伸びしたってすぐバレそうだし」




気まずそうに笑うゾロの頬に、サンジがそっと手を伸ばす。





「テメエの思うように、していいぜ」
「オレの…?」
「そう。マニュアルなんて、関係ねェ。テメエが、オレにしたいと思ってたこと。テメエが、やりたいようにやればいい」




垂れ下がった前髪を掻き上げながら、サンジが艶やかに笑う。





「テメエが、オレのためにしてくれることなら。オレは、どんなことだって、気持ちイイんだからよ」





ゾロの顔が、一瞬で紅くなる。
優しく微笑んでそっとキスを落としてやると、ゾロの逞しい両腕が、きつくサンジの背中へと回される。




「――…夢、見てるみてェだ…」




ぎゅ、と抱き締められ、耳元でそう囁かれ。
サンジが紅い唇に、仄かに笑みを浮かべる。





「――…おいおい。本番は、これからだぜ?」
「…クソ。わかってるよ」




口を尖らせてそう答えるなり、いきなり体位を入れ替えて。
組み敷いたサンジの金色の髪を撫でつけながら、ゾロが、ふっと笑う。





「いただきます」
「――…ッ!」
「召し上がれ、は?」
「――…クソ、テメエ…」




親父くせェんだよ、と続けようとしたサンジの悪態を。
ゾロは、唇ごと塞いで閉じ込めた。






*******






「あ、…ン」




ギシ、とベッドが軋む。
ぺろ、と舌先で胸の尖りを転がすと、白い躰がビクビク、ッと跳ねる。





何度も一緒に風呂に入ったし、何度も一緒に眠った。
大好きな大好きな『おにいちゃん』。
あれからもう10数年が経つというのに、サンジの躰は、記憶の中と何も変わらない。
白くて滑らかな肌は瑞々しくて、汗に濡れると、しっとりと吸い付くようで。
すんなりとした肢体は相変わらず細くしなやかで、余計な肉などまったくない。





髪や瞳の色と比例するのだろうか。
乳首も、金色の茂みに慎ましく覆われた場所も、綺麗なピンク色で…――




「あ、ァそこばっか、テメ」
「――…いいだろ。テメエも、気持ち良さそうだ」
「は、…はァ、…ゾロ」




紅い唇から零れ落ちる自分の名前。
その度にゾロが、どれほど嬉しいか。
泣きたくなるほどの喜びに心を震わせているか、この男は…本当に、わかっているのだろうか。




そっと手を伸ばして、サンジの中心を握り込む。
甘く緩やかな疼きを、軽く瞳を閉じてやり過ごしていたサンジが、ビク、と躰を震わせて瞼を開く。





「、ァ!」
「すげ…濡れてる」
「あ、あ、…あァ」
「サンジ…、すげェ可愛い」




ゆっくりと扱かれて取り乱すサンジの耳元にくちづけて、ゾロが髪を撫でながら囁く。
潤んだ蒼い瞳をぼんやりと向け、仄かに上気した頬で、サンジがゆっくりと呟く。





「可愛い…?」
「ああ、可愛い。オレの手の中で、こんな感じてくれて…すげェ、可愛い」




ちゅ、ちゅ、とくちづけを落とし、半開きの唇を喰む。
すぐに離して、間近でふっと笑いかけると、サンジの頬が真っ赤に染まる。





「クッソ…、テメエ、本当に初めてかよ…?」
「褒め言葉か?」
「バカ…」





ぐちゅ、と握り込んで、ぺろ、と耳朶に舌を這わせる。
ビクン、と跳ねる躰に手のひらを這わせ、さっき散々舌先で弄った乳首を、そっと、指先で摘む。




「あァ、あ!ンッ!」
「エロい声……」
「だっ、…誰の、せいだッ」
「――…オレだ。オレだよ、オレだサンジ…!」
「はあ、ァ…ッ!!」





わかるか、サンジ、オレだ。
今、テメエを抱いてんのは。
そんなツラさせてんのは、そんな声出させてんのは、オレだ…――!!





ぐちゅぐちゅと扱く手の動きを速めていきながら、サンジの唇を犯し、柔らかな舌を絡める。
ちゅく、と吸って奥まで探ると、サンジが切なげに眉を顰め、快感を追うようにゾロの舌に吸い付いてくる。




「う、ゥん、ン」




サンジの声はゾロの唇の中で甘くくぐもって、ゾロの想いを滾らせる。
絡めていた舌を解くと、サンジの口端から零れた唾液を舐め取り、滑らかな首筋へと舌を這わせて、紅く色付いた乳首を、
そっと唇に含む。




「あ!」




コリ、と歯を立ててやると、サンジの躰が跳ね、先端からとぷ、と涙が零れる。
ちゅく、と吸い上げ、乳輪に沿って丸く舐めてやれば、サンジの躰がヒクヒクと戦慄いて、言葉にならない
甘い吐息が零れる。




――…男同士だから、わかる。
どうしてやれば、気持ちイイのか。
どうしてやったら、悦ぶか…――




「あ、あァもう、ゾロ」
「――…ん」
「あ、やめ、イ…ッ」
「いいぜ…、イケよ…!」
「やだオレだけッ」
「イク表情見てェ!イケよ、サンジ…ッ!」
「ゥあッ」





ぐぷ、と先端に指を割り入れ、思い切り乳首を吸い上げてやった瞬間。
サンジが、ひくん、と仰け反って。





「あ――…あ、ああァ!」





ビュク、ビュク、と白い粘液を吐き出しながら。
蒼い瞳は恍惚として潤み、唾液に濡れた紅い唇は、しどけなく
開いたまま震えていて。
ビク、ビク、と震える真っ白な躰は、例えようもないくらいに妖艶で、いやらしくて。





(エロ…――ッ!!)




あまりにも淫靡な、その表情に、姿態に。
思わずつられてイキそうになり、ゾロは思わず顔を歪め、体の奥にグッと力を込める。





「ゾ、…――ロッ」





ヒクヒク、と震えながら、サンジの唇から零れた自分の名前。
ぐあっ!!と躰が燃え上がる。
ガチガチにいきり勃ったモノが、早く、早くとゾロを責め立てる。





「サンジ…ッ、挿れてェッ」
「――…は、…あァ」
「どうすればいい?テメエを傷つけたくねェ」
「…ああ…、そこの…、小引き出し」




まだ、微かに快感の余韻に震える指でサンジに指差され、ゾロがサイドボードの引き出しを開ける。




「どこだ」
「二段目…――オイル、入ってっから…」
「――…何か――…ムカつくな、コレ」
「…昔のだよ」
「昔のでも、だ」




むう、と眉を寄せるゾロを見て、サンジが苦笑する。




「――…嫌なら、使わなくてもいいぜ」
「え、でもそれじゃ」
「さすがに、間空いてっし。スンナリいかねェとは思うけど」




サンジがふわりと笑んで、ゆっくりと身を起こす。




「――…サンジ」
「テメエも1回イッてくれりゃ、滑りが良くなるんだが」
「嫌だ!テメエん中でイキてェ」




慌てて答えるゾロにサンジは笑い、ギシ、と四つん這いになって、ゾロを見つめる。




「じゃあ――…コレぐらいは、許してな…?」





ぱく、と。
いきなり温かな口内に銜えられ、ガバ、とゾロが跳ね起きる。




「な…、なっ」
「いいから…――じっとしてろ」




自分のモノに舌を這わせながら、ニヤリと上向くサンジの蒼い瞳が堪らなく淫らで。
あまりの強い快感に、ゾロは思わず目を閉じ、大きく息をつく。




「は、……ァ」
「しかし、デケェな、テメエの…。あんなちっちゃくて可愛かったのに、生意気な…」




ブツブツ言いながら舌で辿り、はむ、としゃぶる。
舌先で擽られ、ちゅ、とくちづけられ、ゾロはもう為す術もなくて。




「あ、あ、…――ンジ」
「ん……」




思わず声を上げる度、サンジの唇が宥めるように先端に優しくくちづけてくれる。
サンジだ。
サンジなんだ。
これから、自分と繋がるために。
今、自分を高めてくれているのは、夢にまで見た…――




「あ…――、も、やべェ、サンジ…」




思わず呻いて、うっすらと目を開き。
目の前にある光景に、ゾロが愕然とする。




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