公然の秘密であるが、ゾロとサンジはわりない仲である。
普段寄ると触るとケンカばかりしているのだが、
それ自体もスキンシップの一環らしく、
夜のキッチンで、展望台兼トレーニングルームで、
二人が肌を重ねて睦みあっているのを目撃した者は少なくない。
お互いに、同じ男である相手を扱いかねているのか、
普段の関係は非常に素っ気ないものなのだが、
いざ相手に言い寄る者でも出て来ようものなら、
嫉妬やらやきもちやらで大ゲンカに発展する。
そんなはた迷惑なバカップルの片割れ、暴力コックさんの誕生日が近いと知って、
仏頂面の迷子剣士は、何か連れ合いが喜びそうなモノを、と考えたらしい。
次の島で旨い酒でも買って一緒に呑むかと、
己の願望も満たして一石二鳥なコトを思い付いたはイイが、
腹巻きの中から引っ張り出した、巨大ながま口の中身のあまりの心許なさに、
思わず眉間にシワを寄せて空を仰いだ瞬間、
こちらの手許を覗き込んでいる長身の考古学者と目が合った。
ロビンは、少し離れた位置にあるデッキチェアで読書をしていた。
近くで昼寝をしている緑髪の剣士がむくりと起き上がり、
しばしぼーっとした後で突然腹巻きの中を探り、
バカでかいがま口を引っ張り出すのをつぶさに見ていた。
幼い頃に見た絵本の中の、猫型ロボットの四次元ポケットを
目の当たりにしたような心持ちで、ロビンは成り行きを見守っていたが、
財布の中身を確認したゾロの表情が曇るのを見て、
読みかけの本を閉じて立ち上がった。
普段は気配に敏いゾロだが、ロビンが近づいても一向に気づかない。
余程真剣に悩んでいるのかと、ロビンはほほえましく思った。
ゾロが大事そうに抱えている、大きながま口の中を覗き込んだロビンは、
その内容物を視認して、大きくため息をついた。
「・・・・・なんだ、」
ゾロが凶悪な表情でロビンの方を見やった。
気弱な少女であれば卒倒しかねない程のしかめ面だったが、
それは彼がバツが悪いときに浮かべる表情であると、ロビンはもう知っている。
ロビンはニコリと笑い、スカートの裾を押さえて、ゾロの隣にしゃがみこんだ。
「コックさんへのプレゼント?」
ロビンが訊くと、ゾロはしぶしぶといった表情で頷いた。
「酒でも買ってやろうかと」
仲間に加わったばかりのころであれば、関係ねぇだろ、
と一蹴されていたかもしれない。
だが今のゾロは、ぶっきらぼうにだが素直に答えを返す。
「お酒をプレゼントと言うよりも、一緒にお酒を呑む口実なんでしょう?」
くすくすと笑いながら言うと、ゾロはにやりとイタズラっぽく笑った。
強面の普段の表情からは想像もつかないような、年相応の笑顔だ。
それにしても、この大きながま口の中に入っていたゾロのお小遣いは、
お酒を買うのならばせいぜいワンカップ止まりだろう。
「何も品物にこだわらなくてもいいのじゃなくて?」
そう言うとゾロは訝しげにこちらを見た。
ロビンは笑みを深くして、さらに続けた。
「何か彼が喜びそうなことをしてあげたらどうかしら?」
「喜ぶこと?」
「そう」
「あいつが喜ぶことなんざ全くわからねえ」
「あら、それは困ったわねぇ・・・」
料理をちょっと褒めただけでも、彼がとても喜ぶのは明らかなのに。
この朴念仁の剣士にはそれが分からないのかと、ロビンはサンジのことを
ちょっぴり不憫に思った。
苦労させられてるでしょうねぇ、この剣士さんには。
「ねえ」
「・・・なんだ」
「彼が喜ぶことを考えるから難しいんだわ。
あなたがされて嬉しいことを、してあげたらどうかしら」
「されて、嬉しいこと?」
「そう」
「嬉しいこと・・・」
あとはゾロ自身が考えることだ。
ロビンは考え込んでいるゾロを残し、そっとその場を離れた。
なんだかんだ言っても、誰かが喜んでくれることを願って頭を悩ませることは、
幸せなことだとロビンは思う。
*****
ゾロはネコである。
タチの経験はまだ無い。
彼の故郷ではいまだ婚前交渉を良しとしない風潮が残されている。
また、彼の通っていた道場では、剣の道には色欲は邪魔なものであるという教えもあ
り、ゾロはサンジとこういう関係になるまで他人の肌を知らなかった。
女を抱いた経験すらない自分には勝手がわからないし、
身体の頑丈さだけは自信があったので、
まぁ最初は自分が掘られる方でもいいかと、
豪胆にもゾロは考えた。
だが実際にサンジの指が内部に入り込んで来たときには、
その異様な違和感に自分の浅はかさを激しく後悔したし、
心の準備が出来ないままにサンジが捩じ込んで来たときには、
殺す、絶対殺すと思ったものだ。
だが、自分の上で腰を振るサンジがあまりに必死だったので、
なんだかおかしくなって、つい笑ってしまった。
そうしたらサンジがあまりに幸せそうにへにゃっと笑ったものだから、
ゾロは受け入れることを許してしまったのだ。
慣れるにつれて少しずつ気持ちよくなってきたし、
回数を重ねるごとにうまくなるサンジのおかげで、
今では一人でするときとは比べ物にならないほどの
快感を得ることの方が多い。
そうだアイツは知らないのだ。
あの頭の中が真っ白にスパークするような激しい快感を。
いつも自分を気持良くさせようと一生懸命なサンジに、
あの感覚を教えてあげたい─────。
ゾロの決断は早かった。
それがサンジにとってどれだけありがた迷惑であるかなど、
全く頓着しちゃいなかった。
*****
忙しく自分の誕生祝いの宴席の後片付けをしていたサンジに、
呑みなおそうと声を掛けたのはその日遅くのことだった。
手にしていたのはバーのワインラックから失敬してきた酒で、
それに気づいたサンジは苦笑したけれど、
まぁいいかと笑って一緒に酒を酌み交わし始めた。
ザルどころかワク状態のゾロと比べるのが酷というもので、
一般的に言えばサンジも相当イけるクチである。
ほろ酔い加減になるまで呑んだサンジが、
うとうとと舟をこぎ始める頃には、月が空の中央に差し掛かっていた。
ゾロは手早くサンジを後ろ手に縛ると、上衣をはだけさせた。
胸元が外気にさらされ、サンジの意識はふと浮上したようである。
なに、とかすれた声で訊ねる。
「いいから大人しくしてろ、悪いようにはしねえ」
「は、なに、あ───、」
鎖骨のくぼみに舌を這わせながら、ベルトに手を掛ける。
ここに至ってようやく、サンジは自分の身に起きようとしていることを
把握したらしい。
「ちょ、何だよおまえ、ヤりてえんならちゃんと、あ・・・、」
ボトムと下着を一気に剥ぎ取り、
あらわになったまだやわらかなサンジ自身を口に含んだ。
「おい、んっ・・・」
口の中でもてあそんでいるうちに、次第に芯を持ち熱を帯びはじめる。
硬く張り詰めてくるのを感じると、知らず後ろが疼いた。
身体が快楽の味を覚えているのだ。
ゾロは上に乗って腰を振りたい衝動を必死に抑え、
丁寧に愛撫を続けた。
「畜生!なんだよ!仕返しかよ!」
そう、サンジは行為の際にゾロを縛ることがある。
やめろと何度言っても聞かない。
「だってお前この方が興奮してんじゃん、すげえよ今」
というのがサンジの弁だ。
毎回では無いので、まあいいかと赦している。
それに、実は縛られるのは嫌いじゃない。
興奮する、というのも認めたくはないが本当だ。
むしろ好きなんだと思う。自分は。
縛られるのが。たぶん。