帰還 -2-

ゾロは立ち上がり、サンジの両手首を左手でまとめて引っ掴むと、
壁際にだん、と音を立てて押し付けた。

そのまま空いたほうの右手でサンジの乳房を鷲掴む。
丁度手に収まるサイズで弾力も申し分なかった。
シャツの薄い生地越しに、手のひらに伝わるツンと立った乳首の感触がくすぐったい。

サンジが息を呑むのがわかった。
ゾロは乱暴に口付け、口内を蹂躙した。

わずかに煙草の苦味が残るその感触は、以前のままだったけれど、
応戦する舌も心なしか小ぶりで、ひどく頼りなげに感じた。

「───んう、」

サンジが苦しそうな声を上げて身じろぎしたのでゾロは唇を離し、
手の力を緩めて言った。
「力じゃ勝てねぇだろ、わかったか」

「・・・ああ、そうだな・・・」
サンジは拍子抜けするほど素直にそう答えた。
いまだ束ねられたままの手が小刻みに震えていた。

「───悪ィ」

ゾロはサンジの手を解放し、静かに言った。
掴まれた手首をさする仕草が痛々しく、
ゾロは改めてサンジが変わってしまった事を実感した。

サンジは何か考え込んでいるようだった。
手の震えは止まらず、押さえ込むように力を入れているのが見て取れた。


「おれが怖ぇか?」
流石にちょっと乱暴だったかと反省しながらゾロが訊いた。
だが、サンジの反応は想像していたものとはかけ離れたものだった。

きょとんとした表情で「怖い?」とゾロの言葉を繰り返した後、
ケタケタと腹を抱えて笑い出した。

「・・・何が可笑しい」
「だってよ、だって、怖ぇかって」
ムッとするゾロには構わず、サンジは笑い続ける。

「怖いわけないじゃん。
 マリモだよ?迷子だよ?腹巻だよ?」

目尻に涙すら浮かべてさらに笑い続けるサンジに、
ゾロはちょっとムカッ腹を立て始めていた。
ひとしきり笑った後、涙を拭いながらサンジは言った。

「俺の可愛いひとだよ。
 怖いわけないじゃん。」

このときサンジの顔に浮かんでいたのは、
小憎らしくて不敵で挑発的な、男の彼がよく見せていた表情だ。

「テメエ、あんまり俺を見くびるンじゃねぇぞ」
「見くびってンのはソッチだろ」
凄むゾロに怯まず、サンジは真正面からゾロを見据える。

「俺はお前ってヤツを知ってる。
 嫌がる女の子にムリヤリどうこうとか。
 おまえの矜持からは出来っこ無ぇって知ってるんだよ。」

「・・・怖いんじゃ無ぇんだったら、何で震えてんだ、」
「ああ、これ?」

今気づいた、というように、サンジは自分の手を見やった。

「いや、おまえホモだからさ、
 女のおれには興味無ぇんだろうなって思ってたからさ。」
「別におれはホモじゃ無え」

憮然としてゾロが言い返す。
「てめえ以外の男は興味ねえ」

「えー?」
サンジは唇をアヒルのように尖らせながら言う。
「だっておまえ近寄っても来ねえし、」

「しょうがねえだろ、あんまり変わっちまってたんだから」
「それもそうか、」
ゾロの言葉にサンジはふっと笑みを浮かべた。

「だから、触ってくれたから、安心した」
サンジの指はまだ小さく震えている。

「なぁ、ゾロ、」
「・・・何だ、」

「お帰りって、言ってくんねぇの?」

節目がちなその瞳を縁取る金色の睫毛も以前より濃い影を落としていて、
その表情はひどく寂しそうだった。

ああそうだった、肝心のその一言を伝えていなかった。

ゾロはサンジをしっかりと抱き寄せた。
「─────無事で、良かった」

「はは、これって無事って言えんのかね、」
自嘲気味にサンジは笑い、ゾロの逞しい首筋に腕を回してすがり付いた。
ゾロはさらに強くサンジを抱きしめる。

サンジの温かな乳房が胸に押し付けられ、その柔らかさにゾロは戸惑う。
硬い胸板に抱かれた記憶はすでに遠く、一抹の寂しさがゾロを襲う。

以前より低い位置にあるサンジの頭をかき抱きながら、
「生きてりゃ、それだけでいい」
そう伝えるので精一杯だ。

サンジもまた、泣き出しそうに顔を歪め、
「そっか、」
とだけ言った。


「おれがさ、抱かれる立場になんのかな、」

震える声でサンジが呟く。
涙声に聞こえるのは気のせいか。

「優しく、するから」

「いいよ、今更、」
ゾロの言葉に照れくさそうにサンジが笑う。

「そうもいかねえよ」
ゾロは抱きしめる手に力を込めた。

大事にしたい。
男同士であることなどすっ飛ばして、一線を越えることを選んだ。
それほどに惚れこんだ、大事な、大事なひとだから。

「てめえの決心がつくまで待つ」
「──────」
「てめえが、おれに抱かれても良いって決心がつくまで、」

「阿呆、だから今更なんだって、そんなもん」

サンジはまた照れくさそうに笑い、ゾロの肩口に顔を埋めた。

「おまえと初めて寝た時から、覚悟は決まってんだよ」
「は?嘘言え、最初からてめえがタチだったろうが」

「ばか、そりゃおまえがまっさら童貞くんだったからだろうが。
 いきなり男は犯れねえだろ。
 だから『とりあえずまずはおれな?』って言ったんだろうが」

「知らなかった」
「それなのにおまえ、全然引っくり返す気、無えんだもん」
「クソ、やっときゃ良かった」
「もう遅ぇよ」

再び自嘲気味にサンジが笑う。

こんな表情をもうさせたくなかった。
ナリがどんなに変わってしまおうと、自分の気持ちは変わらない。
伝われば良い、そう願いながらサンジをひたすら抱きしめる。

「・・・ヤる?」

腕の中、耳の傍でサンジがささやく。
息にくすぐられ、下半身も疼くけれど今日はしない。

「今度、陸に上がったら」
「うん」

「抱かせろ」
サンジの身体がビクリ、と跳ねる。
「・・・うん」

おかえり。

ようやく腕の中に戻ってきた、と思った。
小さな嗚咽を聞きながら、ゾロはいつまでもサンジの身体を抱いていた。


End.

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サンジがカマバッカに飛ばされた、とわかった時に
妄想が止まらず一気に前半部分を書きました。

その後、見事なオカマちゃんになってるらしいと知って
HDDの中ですっかりお蔵入りになっていたんですが、

カマバッカ王イワさんの帰還フラグが立ったので、
「今しかない!!」
てな感じで再び妄想のままに書き上げましたww



裏部屋へ続きのエロを近日アップ予定です。
本編以上の変態度となってます・・。

ホントスミマセン、変態で。(え