どこか無邪気なその行為に。 1



お前さぁ、何か欲しいモンある?

仲間たちのバカ騒ぎの喧騒から離れ、
船縁に寄りかかって酒をあおっていたゾロに、
微酔い状態のサンジが聞いてきた。

「誕生日じゃねぇの、今日。
 まぁ、どうせお前に聞いてもさぁ、
 酒、ぐらいしか言わないんだろうけどさぁ」

「当たり前だ。欲しいものは自分で手に入れる。」

大剣豪の名も、目の前の金髪のコックも、
今までずっとそうしてきたのだ。

「そうだよなぁ?お前いつでも力ずくだもんなぁ」
どこか楽しそうにサンジが言う。

そう、力ずくで抱いた。
女好きで軽薄そうで、クソ生意気なこの男が欲しかった。

盛大に抵抗するサンジを、ゾロは無理矢理組み伏せて犯した。
当たり前だが、男であるサンジの身体は骨張っていて硬くて、
抱き心地なんてちっともいいもんじゃなかった。

それでも。

苦しい息の下でわずかに漏れ聞こえる喘ぎ声。
苦痛だけではない何かに歪む表情。
煙草の香りが微かに残る肌の感触。
金色の恥毛の下でゆるく立ち上がっている性器。

そういったものから受ける刺激は、
今まで幾度か経験した女とのセックスとは比べものにならない程強烈で、
ゾロをすっかり夢中にさせた。

実のところサンジがゾロをどう思っているのかはわからない。
2度目以降は誘えば簡単に脚を開いた。
さして積極的なわけでもないが、反応も悪くない。

身体だけでも手に入れられたのなら十分だ。
この女好きの心の部分までは、
どのみち手に入れるのはムリだと思っているから。





なぁなぁ、本当に無ぇの?
とサンジは目の前でウンコ座りをしている。

「俺、とか、は?」
ちょっとニヤつきながら訊いてきた。

性質が悪い。
ゾロが困るのを見たくて言っているのだ。
本当に全部くれる気なんかないくせに。

強請るのは癪だ。
必要最低限は手に入れている。

「そんなモン、とっくに貰ってる」

そう言うとサンジは一瞬瞳を見開いたあと、ケラケラと笑った。

「わかってないね、お前。
 あれで手に入れたと思ってんの?」

思ってねぇよ、と内心毒づきながらゾロが黙っていると、
サンジは顔を近づけ、低い声で耳元で囁いた。

「じゃあさ、ホントに俺をあげよっか?
 全ッ然違うぜ?本気の俺」

サンジの目が据わっていた。
ゾロが思っていた以上にサンジは酔っ払っているようだ。

顔がやたら近い。
周りでは連中がまだ元気に酒盛りをしているというのに。

話を替えるか場所を替えるか、とゾロが思案していると、
「じゃーあげる」
とサンジは自らの衣服に手を掛けた。

「な・・・!てめえッ!」

サンジが脱ぎ始めたのは何故かボトムの方だった。

何で下から脱いでんだ─────!
お前はどこぞの隠密機動のねえちゃんか!

心の中では即ツッコミを入れながら、ゾロは瞬時には動けずにいた。

酔っ払っているせいかサンジは上手く服を脱げず、
真剣な表情でバックルと格闘していた。

その表情が意外に子供っぽくて、思わず見とれた。

バックルが外れ、ジッパーが下ろされ、
サンジの息子が顔を出す寸前のところでゾロは我に返った。

「阿呆!!出すなぁぁ!!」

勢い良くサンジのズボンを引き上げると、ゾロはサンジを肩に担ぎ上げ、
武器庫へと猛然とダッシュした。

「あら、ゾロ、サンジ君どうしたの?」
ナミが見咎めてゾロに声を掛けた。

「酔っ払って寝ちまったんだ・・・!!
 暴れるから武器庫に突っ込んでくる!!」


酔っ払って寝てるのに暴れてる・・・・・?


ウソップの頭にほわ、と疑問が浮かんだが、
まぁここは奇跡の海グランドラインだからな!と
ムリヤリ思考を停止させた。

横でロビンが
「大変ねぇ、ゾロも、」
とくすくす笑うのも、

聞こえない、聞こえない。

チョッパーが
「何でベッドのある男部屋じゃなくて武器庫なんだ?」
ともっともな疑問を口にしたが、

なーんにも聞こえないもんねッ。





ことの起こりは三日前の見張台だ。
不寝番だったウソップのもとに、サンジが差し入れを持ってきた。

その日は珍しく酒も持ってきていて、少しだけ、と言って
サンジも一緒に飲んでいた。


サンジは酒はあまり強い方ではない。
いや、そこそこに普通には飲めるのだけれど、
ゾロとかナミとか、
馬鹿みたいに強い連中に比べれば弱い方だ。

持ち込んだのが比較的度数の強い酒だった所為もあって、
すっかりサンジは出来上がってしまっていた。


「なーなーウソップー、ゾロの誕生日って何かあげんのー?」

三日後のゾロの誕生日、島には到着しないので
船上で宴会と決まっている。

クルーの誕生日は必ず宴会が催されるけれど、
改まって何かを贈ったりはあまりしない。

「あん?別になにもやらねぇよ?」
「そっかー」

酒が入るとサンジは少し素直になる。

「俺、とか、要らねぇかな」

「・・・・・はぁッ?」

そして、少しというか、かなりガードがゆるくなるのだ。


サンジとゾロがそういう仲であることも、
以前酔っ払ったサンジから聞かされた。

もっとも、狭い船内のことだ。
うすうすは皆知っている。

現場に出くわしかけたことも何度かあり、
ウソップも知ってはいたのだが、

回数やら体位やら角度やら大きさやら何やら、こと細かにサンジは喋ってくれて、
知らなくてもいいホモ知識もたっぷり刷り込まれた


わぁ、また始まっちゃうのかよ─────!!
ウソップは涙目になりながら来る衝撃に備えた。
こうなるとサンジは聞き手がいようが居まいが語りだしてしまうのだ。







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