コンパートメント 9
















金曜日に帰り支度をしていたサンジは、ウソップに呼び止められた。

「土日どっちか空いてるか?
 映画のチケット手に入ったんでさ、行かねぇか?」

言われたサンジは一瞬考え、
「ああー、日曜なら」
と答えた。

「へえ、土曜は先約?店の手伝いか?」
「んーにゃ、マリモと市民公園」

「ししし、市民公園!?」

ウソップが驚くのも無理は無い。
市営の小さな遊園地は大人には少々物足りない。

利用客はまだ子供が小さい家族連れか、
付き合い始めて間もないカップルくらいだ。

とても高校生男子二人が仲良く出かけるような場所ではない。

ウソップがひどくためらいがちにサンジに訊ねた。

「なぁ、ゾロとお前ってさ、どういう関係?」
「どうって・・・」

らしくなくサンジは一瞬口ごもった。

「ダチだろ。他にどういうカンケイがあるんだよ」
「そりゃお前のほうはそうかもしんねえけどさ、
 ゾロの方はどうなんだよ」

サンジは答えない。

「お前だってホントは気づいてんだろ、あいつのお前の扱い方って」
「─────黙れ」

「何だか惚れてる相手に対してみたいで」
「聞きたくねぇ」

「あいつのお前を見る眼だって」
「黙れ、ウソップ!」

サンジは椅子を蹴立てて怒鳴った。

「わかってる!わかってるからってどうすりゃいいんだよ!」

「ああやって散々甘やかしておいて、あいつ何にも肝心なことは
 言わねえんだぜ?

 どうすりゃいいんだよ、本人が何も言わねえのに
 俺に何がしてやれるってんだよ!

 それともあれか、俺のほうから股開いて、
 抱いてくれって頼みゃあいいのかよ!?」

どうすりゃいいってんだよ。
俺もあいつもチンコついてんだぜ?

頭を抱えてしまったサンジを見て、ウソップはサンジを誤解していたことを知った。
奔放なサンジがゾロを振り回しているのだと思っていた。
振り回しているのはむしろゾロだ。
あまりにも曖昧なゾロの態度に、サンジはとまどっているのだ。

問題が問題だけに、自分から踏み込むわけにも行かないのだろう。
短気なサンジにとって、白黒つかない今の状態がどれだけ辛いものなのかは
想像に難くなかった。


「悪かったよ、サンジ
 俺はまた、お前があいつの気持ちわかってて
 利用してんのかと思ってた」

サンジはのろのろと顔を上げ、力なくウソップを睨んだ。

「俺だってそこまで鬼畜じゃねえ」

いや、お前結構鬼畜だけどね?

ウソップはそう思ったけれど、まだ命は惜しいので黙っていた。






BACK/NEXT