コンパートメント 6
















自転車屋で部品の取り寄せを頼むと、一週間ほどかかると言われた。
それまではむさ苦しいタンデムが続くのかと、サンジは不平たらたらだ。

「嫌なら乗らなくても構わねぇぞ」
「ガッコまでは乗んないと行けねぇだろ」

「だったら文句言うな!」
「うるせぇ、文句ぐらい言わせろ!」

店先で掴み合いを始め、二人は店主にとっとと帰れと叩きだされた。



自転車を押したゾロと買い物袋をぶら下げたサンジは、
夕方のオレンジ色の光が包む商店街を歩いていた。

めぼしいものを見つけたり、綺麗な女の子を見つけたりすると、
サンジはふらふらと吸い寄せられていく。

ゾロは忠実な飼い犬のように、その気まぐれな主人の寄り道を
じっと待っている。

時折同じ学校の生徒が通りかかった。
塾への行き帰りの途中の者や、友人と遊び歩いている者。
その中に、一級下のウソップの姿があった。

ウソップの家も近所で、小学校、中学校と一緒で高校も一緒だ。
子供の頃から口達者でおしゃべりで、大変なお調子者だが、
意外と口が堅いところもあって、憎めないタイプの男だ。

同じく口数の多いサンジとは気が合って仲がいい。
高校生になると、一学年の差が上下関係を大きく左右しがちだが、
ウソップは二人に対してタメ口だ。

「よう、お前ら相変わらず仲いいな、日曜日にまで一緒に買い物か?」

声を掛けてきたウソップにゾロが真顔で答える。

「おう、夕飯の買出しだ」
「・・・二人でか?」
「おう」

「・・・お前荷物持ち?」
「おう」

「・・・夫婦みてえだな」
「コラァ、長ッ鼻ぁ!気色悪ィこと言ってんじゃねぇ!」

会計中で会話に出遅れたサンジがすっ飛んで来るなり怒鳴った。

「てめえもだ、ゾロ!お前基本的に言葉が足んねぇんだよ!
 『俺の家の』夕飯の買出しで、お前は『手伝いで』荷物持ち!
 ちゃんとしゃべれ、タコ」

「うるせぇな、嘘は言ってねぇだろが」
「そういう問題じゃねぇよ!」

往来で二人はまた掴み合いを始めた。
ウソップはいつものことなのでもう止めもしない。

夫婦喧嘩みてぇだなあ、とぼんやり思ったけれど、
とばっちりが来るのでそれも言わなかった。

通りにある時計を見て、「ヤベ、こんな時間だ」とサンジが言った。

「おい帰るぞ、じゃ、またなウソップ」

ゾロの方を振り返りもせずにすたすたと先に歩き出す。
じゃあな、と言って後を追うゾロを、ウソップは突っ立ったまま見送った。

サンジもおしゃべりで楽しい男だが、毒舌で気が短く手が(というか脚だが)
早いので敵も多い。

怒らせると怖いが比較的温厚なゾロとは、何度も絶交クラスの喧嘩をしていて、
続いているのが不思議なくらいだ。

ウソップはなんとなく気づいている。

わがまま勝手なサンジ。
何度喧嘩をしようと、荷物持ちをさせられようと、ゾロがその傍にいる理由、

そんなものは、ひとつしか無い。






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