市内の中心部にある小高い丘のうえに、小さな市営の遊園地がある。
入園無料の回数券制で、一番高い乗り物はジェットコースターと観覧車の、
回数券4枚分だ。
ジェットコースターは回転こそしないものの、結構高低差があって大人でも楽しめる。
観覧車はどこかの万博から譲り受けたとかで、これまた思いの外大きくて立派だ。
まわりには桜の樹が十数本植えられていて、花見の時期には行楽客で賑わう。
高校生となった今ではあまり行かないが、子供の頃はよく行った。
左手に見えるこんもりとした緑の上に、シンボルの観覧車が見えた。
「公園、しばらく行ってねぇなぁ。」
自転車を漕ぐゾロの後ろで、サンジがボソリと呟いた。
「何だ、行きてぇのか?」
「んー、久しぶりに行ってみてもいいかなぁ」
彼女でもいない限り、高校生の男子が遊園地に自発的に行くことはあまりない。
お互い女性に興味が無いわけではないがそれほど縁が無く、
当然遊園地にもここのところ縁が無かった。
「ナミさんかロビンちゃんが一緒に行ってくんねぇかな」
ナミは同級生の女子で、活発でちょっと金にがめつい美少女だ。
世界史の教師のロビンは神秘的な雰囲気の美女で、どちらもサンジのお気に入りだ。
よく歯の浮くような称賛の言葉を投げ掛けているのを見かける。
もちろん二人とも全くサンジを相手にしていない。
「ナミはともかくロビンは無理だろ、センコなんだから。」
忠告するゾロの言葉など聞いちゃ居ない。
まずはコーヒーカップだろ、それから急流くだりでぇ、最後は観覧車だよな。
サンジの楽しげな妄想はとどまるところを知らない。
「ふたりきりでさぁ、夕焼けの見える個室でさ、
愛を語り合っちゃったりなんかして、くぅ〜」
後ろでくねくねとしているサンジにゾロは呆れる。
「お前、実現しそうも無いこと妄想して楽しいか」
「うるせえな、想像するのは自由だろ」
「そんなに行きたきゃ俺が一緒に行ってやろうか」
「男同士で行っても楽しくねぇだろ」
「いや、そうでもねえ」
一瞬沈黙が降りる。
「・・・お前さぁ」
「何だ」
サンジが小さく溜息をついた。
「何でもねぇよ」
ようやく商店街の入口につき、サンジは荷台から降りた。