コンパートメント 2
















ゾロがサドルに跨りサンジが荷台に座る。
ペダルを漕ぎ始めてスピードに乗るまでは、荷台のサンジは脚をアスファルトの地面に引き摺ったままだ。
やがて自転車がふらつかなくなるのを見計らって、スタンド部分に足を掛けた。

「俺の自転車に乗せてやってるってのに、何で俺が漕がなくちゃいけねえんだよ」
「勝負に負けたんだろが。それにお前鍛えてえんだろ、丁度いいじゃねえか」

「お前だって足腰鍛えなくちゃなんねえんじゃねえのか」
「俺はこのままで十分なのー」

肩越しにサンジの声が聞こえる。
傍らの車道を走る車の走行音に負けないように、顔を近づけて怒鳴っている。
耳のすぐ後ろにサンジの顔があって、やけに近いように感じた。

絡まりあうようにして遊んでいた子供の頃と違って、
喧嘩をするとき以外はそれほど近くによることは無くなった。

急に止まったときにごちんと当たる頭であるとか、
信号待ちのときに風向きによって感じる、シャンプーとか、かすかな汗の匂いとか。
そういうものにちょっと戸惑う。

呼吸も鼓動も少し早くなる。
手のひらににじむ汗もそんなのも全部、漕いでいる自転車のせいだ、とゾロは思った。

「なあ、てめえいつ自転車直すんだ、」
「あ?ああ、俺ああいうの苦手で。どこがどうぶっ壊れてんのかよくわかんねえんだよ」

「俺が直してやろうか」
「え、ホント?ボランティア?」

「馬鹿言え。大体タダより怖えもんはねえんだぞ。
 本来なら俺が要らねえっつっても寄越すくらいのもんだろ」
「えー、じゃ、お前、何が欲しいの、」


本当に欲しいものは、いっこだけ。
でも絶対に口には出来ない。


「考えておく。・・・そうだな、爆弾ハンバーグ一回ってのはどうだ、」
「えー、今俺金無えってのにー、ジョイフルじゃ駄目かよ、」

「ジョイフルじゃ足んねえよ」
「じゃ、山田うどん」
「ランク落ちてんじゃねえか!」

信号が変わり、自転車が再び走り出す。
サンジの値切り交渉はゾロの家の前まで続き、
結局、小遣いが入ってから改めて考えることにして、
週末にゾロがサンジの家に修理に行くことで落ち着いた。






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