コンパートメント

自転車屋から部品が入ったと連絡があった。
サンジがゾロに「取って来てくんね?」と訊いたところ、
「やなこった」と即答された。

取りに行くのは断っておきながら、「取りに行くんなら付き合うぞ」
とゾロが言う。
サンジはまた「お前さあ、」と言いかけた。
「何だ」
悪びれず訊き返すゾロに、サンジは諦めたように嘆息する。

二週間に渡って二人乗りで通学するゾロとサンジの姿は傍目に面白く、
恰好のからかいの対象だった。

「お前ら随分仲いいじゃん、デキてんじゃねえの?」
最初はクラスメイトがはやし立てる度にサンジがブチ切れていたが、
次第に面倒くさくなったのか相手にしなくなった。
そのうちに連中も、男二人のタンデムという異様な光景に慣れたのか、
あまり言わなくなった。

じゃんけんは相変わらずパーとグー。
いつでもゾロが自転車を漕ぎ、サンジが荷台に跨る。

「なぁ、小遣い入ったけど」
サンジが後ろから声を掛ける。

「決めたか?」
「何を、」
「礼だよ、修理の」

ああ、とゾロが考え込む。

言えよ。欲しいモンあんだろ。
金で買えるモンじゃなくて、でも俺からもらいたいモンが。

短い信号待ちの間沈黙が流れ、やがてゾロがボソリと言った。

「市民公園」
「は?」
「行こうぜ、二人で」

サンジは再びため息をついた。
ああ、やっぱり。
ゾロは言うつもりはねえんだ。

欲しいって言えば、くれてやってもいいと思ってる。
でも欲しいって言わなきゃ、やれるモンじゃねえじゃんか。
どうやったら貰ってもらえんのか、わかんねえよ。