「なあ?」
再び問われて、ゾロはあわてて答えた。
「ああ、部品が少し足りねえ。
抜き取られたのか落っことして来ちまったのかわかんねえけど。
自転車屋で頼んできたほうが良さそうだ」
サンジはええー、と面倒くさそうな顔をした。
近隣に自転車屋は無いので、少し離れた商店街まで行かなければならない。
普段の買い物のときにも行く商店街だが、足が無いので尚更億劫に感じられるのだろう。
「お前、帰りに銀座通りに寄って注文してってくれよ」
「俺の家は隣だ。全然帰り道じゃねえ」
速攻で断ると、奥の方からサンジの祖父の声が聞こえた。
「ちびナス!てめえ自分の不始末を他人様に押し付けてんじゃねえ!」
耳だけはいいんだな、クソジジィめ、とサンジが毒づく。
奥から特徴的な足音が聞こえ、ゼフが縁側に出てきた。
「ウチのバカがいつもすまねえな、
おいコラ、ちびナス、ついでに買い物も行って来い!」
「ええ~?あそこまで歩くとかなりあンだよ~」
「自業自得だ。ぐだぐだぬかすとメシ抜きだ。オラ、行って来い!」
買い物リストと財布を渡されて、しぶしぶとサンジが玄関に回る。
「おい、乗っけてってやる」
工具類を片付けながら声を掛けて後を追う。
「あ、コップ」
縁側に出しっぱなしのコップ類に気づいて戻ろうとすると、
ゼフがいいから、とばかりに手を横に振った。
一礼して踵を返して自宅へ向かい、工具を玄関先に放って自転車を引っ張り出した。
すでに数十メートル歩き出していたサンジに追いつき、「乗れ」と後ろをあごで示す。
「何だよ、お前さっき行かねぇって言ってたじゃん」
「パシリはごめんだっつったんだ。
帰り荷物もあンだろ、ありがたく思え」
サンジは少し複雑そうな顔をして、「お前さぁ、」と呟いた。
「何だ、」
奇妙な形の眉尻をへにゃりと歪めてひとつため息をついた後、自転車の荷台に跨る。
「ま、いいや」
「何だ、気味悪ィ」
サンジは無言だ。
道がゆるい上り坂に差し掛かったので、ゾロはそれ以上気に留めてもいられず
二人分の体重の乗った自転車を漕ぐのに集中した。
「まぁ、いいや」
背中でサンジがもう一度呟くのが聞こえた。