コンパートメント

ゾロがサドルに跨りサンジが荷台に座る。
ペダルを漕ぎ始めてスピードに乗るまでは、荷台のサンジは脚をアスファルトの地面に引き摺ったままだ。
やがて自転車がふらつかなくなるのを見計らって、スタンド部分に足を掛けた。

「俺の自転車に乗せてやってるってのに、何で俺が漕がなくちゃいけねえんだよ」
「勝負に負けたんだろが。それにお前鍛えてえんだろ、丁度いいじゃねえか」

「お前だって足腰鍛えなくちゃなんねえんじゃねえのか」
「俺はこのままで十分なのー」

肩越しにサンジの声が聞こえる。
傍らの車道を走る車の走行音に負けないように、顔を近づけて怒鳴っている。
耳のすぐ後ろにサンジの顔があって、やけに近いように感じた。

絡まりあうようにして遊んでいた子供の頃と違って、
喧嘩をするとき以外はそれほど近くによることは無くなった。

急に止まったときにごちんと当たる頭であるとか、
信号待ちのときに風向きによって感じる、シャンプーとか、かすかな汗の匂いとか。
そういうものにちょっと戸惑う。

呼吸も鼓動も少し早くなる。
手のひらににじむ汗もそんなのも全部、漕いでいる自転車のせいだ、とゾロは思った。

「なあ、てめえいつ自転車直すんだ、」
「あ?ああ、俺ああいうの苦手で。どこがどうぶっ壊れてんのかよくわかんねえんだよ」

「俺が直してやろうか」
「え、ホント?ボランティア?」

「馬鹿言え。大体タダより怖えもんはねえんだぞ。
 本来なら俺が要らねえっつっても寄越すくらいのもんだろ」
「えー、じゃ、お前、何が欲しいの、」

本当に欲しいものは、いっこだけ。
でも絶対に口には出来ない。

「考えておく。・・・そうだな、爆弾ハンバーグ一回ってのはどうだ、」
「えー、今俺金無えってのにー、ジョイフルじゃ駄目かよ、」

「ジョイフルじゃ足んねえよ」
「じゃ、山田うどん」
「ランク落ちてんじゃねえか!」

信号が変わり、自転車が再び走り出す。
サンジの値切り交渉はゾロの家の前まで続き、
結局、小遣いが入ってから改めて考えることにして、
週末にゾロがサンジの家に修理に行くことで落ち着いた。