ちょっと腰が怠いが、サンジは温泉旅館での朝をさわやかに迎えた。
横では久々の陸でタガが外れ気味だったゾロが、ぐうぐうと寝こけている。
何で船を降りてまで男の自分と寝なくてはならないのかは知らないが、
アレ程激しく求められれば悪い気はしない。
昨夜の情交を思い出して、サンジは、もしかして俺ってば愛されちゃってる?
なんてちょっとにやけたりしていた。
辺りに散らばっていた浴衣を着込んでカーテンを開けてみると、
窓の外には冬の名残の雪をいただいた山が見えた。
朝の露天風呂から見る景色は格別だ、とか言ってたな。
ゾロの言葉を思い出し、一風呂浴びることにする。
汗やら何やらでべたべたになっている身体を洗い流すのに丁度善い。
ゾロも入った方がいいのだろうが、昨日の今日で何だか気恥ずかしいし、
公共の場で悪戯でも仕掛けられたら堪らない。
戻ってきてから起こすことにして、ひとりで大浴場へと向かった。
洗い場で手早く身体を洗って、内湯に浸かった。
早朝だと言うのに、大浴場は思ったより人がいる。
昨夜ウソップやルフィたちも一緒に入ったときに比べれば少ないが、
温泉初体験のサンジにはちょっとした驚きだった。
部屋からも見えた山並みが、大きな窓一杯に見ることが出来た。
昨夜はもちろん真っ暗で、そこに山があるという事すら分からなかった。
成程、これを風呂に浸かりながら見られるのはちょっと良いな、とサンジは思った。
ガラス越しではなく直接眺めてみたくなり、露天の方へ移動することにした。
内湯から上がろうとすると、何故か視線を感じた。
「?」
辺りを見回すと数人が目を逸らす。
知り合いかとも思ったが、特別知った顔でもない。
気のせいか?
サンジは軽く首を捻りつつ、露天風呂へと移った。
朝のピリッと清冽な空気と、内湯より少し熱めのお湯。
そして明るい屋外という開放感。
確かにゾロの言うとおり、朝の露天風呂は格別だった。
上機嫌で湯に浸かっていたサンジだが、やはり視線を感じる。
何だ?俺の顔に何かついてンのか?
顔射された覚えは無いし、そもそも顔はさっき洗ってある。
視線が合うと気まずそうに目を逸らす連中をまじまじと見たが、
やはり知り合いでは無い、と思う。
しかし、よくその視線の先を辿ってみると、顔ではなく身体を見ている気がする。
何だ?俺のセクシーボディに釘付けってか?
つうか、男に惚れられても嬉しくねえんだけど。
アホなことを考えながら、何気なく自分の身体を見下ろしたサンジは凍りついた。
「─────ッ!!」
多少上気した色白な身体の、そこかしこに点々と残る紅い痕。
前だけか?!
そういえばさっき、背後から歩いて来たヤツが、俺の顔を覗きこんで行かなかったか!?
サンジは勢いよく外湯から上がり、洗い場の鏡に突進した。
さっき身体を洗ったときは鏡が曇っていたし、それほどよく自分の身体を見なかったのだ。
胸、腹、内股。
身体を捻って確かめてみると、やはり背中の方にも。
明らかにキスマーク、あるいは噛み跡だった。
男の身体に跡を残す女はあまりいない。
まして、背中側に。
ってことは今の俺の身体って、いかにも昨夜は男に抱かれました、みてぇな─────。
「・・・・・あンの、マリモヘッドのクソ野郎がぁぁ!!」
どうやって部屋まで帰ったのか、サンジには全く記憶がない。
かろうじて浴衣は着て戻ったようだ。
まだ眠っていたゾロに殺人的な威力の蹴りをお見舞いしようとしたが、
殺気を感じたゾロが間一髪起き上がって避けた。
当然抜刀したゾロと凄まじい乱闘を繰り広げたため、物音に気づいたウソップが
隣室から飛び出してきた。
しかし二人のあまりの剣幕に、ウソップは間に割って入ることが出来ず、
結局少し遅れて駆けつけたナミの拳骨によってようやく騒ぎは沈静化した。
ちなみにこの時、ゾロはフリチンの真っ裸。
サンジも浴衣がなんとか引っかかっている、という半裸状態であったと言う。
のちにウソップはしみじみと語った。
「あのバカップルには、俺たちの与り知らねえところで乳繰り合って欲しいよ、ホント」
ま、二人とも乳は無いのだけれども。
どっとはらい。
END
2008.5.8
温泉旅行中に、朝の大浴場で大妄想。
なんつうモノを書いてんだ、私は。