コックを無理やり抱いたのは数日前のことだ。
些細な喧嘩を口実に押し倒して犯した。
奔放な身体は想像以上で、やたらに敏感な反応に夢中になった。
体中余すところ無く舌先で触れながら、自分が本当に欲しかったのは、
これだったのだとようやく気づいた。
どんな仕返しも覚悟していたが、ヤツは、たまになら相手をしてやっても良い、と言う。
その代わり、必ずイかせろ。
それがヤツの条件だった。
以来たまにどころかほぼ毎晩のように肌を合わせている。
普段のヤツは怖ろしいほど素っ気無い。
昨晩腕の中で喘いでいたのと同一人物とは思えない程だ。
今もキッチンでりんごの皮を剥いている。
コンポートを作るのだとかで大量に買ってきていた。
かなりの量がまだ残っていて、相手をしてもらえるのはまだ先らしい。
鼻歌なんか歌っているけど、これっぽっちも色気の無い歌だ。
俺はリズミカルに動くヤツの腕を見ながら、少し調子っぱずれの歌声を聞いていた。
コックが不意に振り返り、りんごの切れ端をポンと放る。
「ナマでもイケるぞ、食え」
俺は受け取った切れ端を口に入れ、咀嚼する。
ほのかに甘い味が広がり自然と表情が緩むのが自分でもわかる。
それを見てヤツが少し笑う。
こんな時間も最近は少しだけ増えた。
「今夜、いいか、」
聞くとコックは少しだけ嫌そうな顔をして、
「昨日もやったじゃん」
と言う。
「今日お前見張りだっけ?」
そうだ、と答えると、しょーがねえなぁ、寒いからってカイロ代わりにすんなよ、と笑った。
笑いながらフと思い出したように言った。
「そういやお前、最初の約束覚えてっか?」
「・・・ああ、てめえを毎回イかせられなかったらてめえが俺に突っ込むってヤツか」
「おれ、イッたことねえんだけど」
は?
「─────そんな訳ねえだろ」
行為の度に、2回は達しているのは確認済みだ。
「前扱かれりゃ出んのは当たり前だろ、そうじゃねえよ、後ろでイッたことがねえって言ってんだよ」
・・・イけるもんなのかよ。
なんでコイツそんなこと知ってんだ。
俺の顔に浮かんだ表情を見てコックの顔色が変わる。
みるみるうちに眉間に青スジが立ち、目に怒りの色が浮かぶ。
「おいおい、随分なツラじゃねえかよ。
バラティエにいた頃コック仲間にたまたま聞いたことがあんだよ。
経験があるわけじゃねえよ、男はお前が初めてだっつったろうが。」
ちょっとホッとしている自分を自分で笑ったが、
コックの言うのが本当であれば、俺自身がちょっと不味い状況にあった。
多分そのまま表情に出ていたのだろう、ヤツはますます不機嫌なツラになって低い声で言った。
「─────てめぇ、自分は俺に突っ込んでおいて、俺に入れられんのはそんなに嫌かよ、
覚悟しとけよ、今晩イかせらんなかったら、わかってんだろうな、」
イかせられるあては無い。
俺は言葉が出てこなかった。
ただ気圧されないように、ひたすらコックを睨みつけるしかなかった。
誘えばヤツは拒まない。
全く乗り気でなさそうな風でいて、始めてしまうとかなりの乱れ様だ。
最初の時から反応は良かったが、回数を重ねるごとに身体が変わっていくのが
相手をしている俺からもわかる。
夕飯の喧騒の後、クルーがそれぞれ眠りについてから、
風の吹き抜ける見張り台で俺たちは抱き合う。
唇を貪りあって互いの身体を弄りあい、もどかしげに服を取り払う。
合意の上での行為となってからはコックも積極的だ。
生来の負けん気からか、俺にも声を上げさせようと仕掛けてくる。
喧嘩かセックスかわからないくらいの激しい愛撫の応酬。
そこまでは激しさの違いだけで、女相手のセックスと一緒だ。
ここから先の、繋がるまでの前戯が、おおきく様相が異なる。
女の身体と違い、手間無く濡れてはくれない。
いくら丁寧にしても、毎回慣らし始めは苦痛のようだ。
それでも慎重に続けるうちに、ヤツの声に甘い響きが混じり始める。
このときの表情が好きだ。
苦痛とない交ぜの快楽に流されまいと耐えているそれは、凄絶なエロスだ。
いつもならこの表情に煽られて、程なく捩じ込んでしまう。
入り込みたい衝動を必死で抑えて、コックの内部を執拗に探った。
指の動きにつれて押さえきれない声が漏れる。
だがイきそうな様子ではない。
必ずどこかにポイントがあるはずだと、焦る自分を叱咤しながら賢明に探す。
浅めの位置からもう一度、と指を引き抜きかけたとき、ビクリとコックの身体が跳ねた。
「・・・ぅあッ」
一段大きな声が上がり、明らかにソレまでと様子が違った。
直感が間違いないと告げた。
指先にコリコリとした手触りがあたる。
撫でる様に刺激しながらコックの表情を確かめると、目が焦点がブレるように泳いだ。
「・・・あ、やめ・・、ゾロ、・・・そこ、」
一気に息が上がり、イヤイヤをするように首を振った。
癖のない金髪がバサバサと揺れる。
「イイんだろ、ここ、」
少しだけ強めに撫でると、コックが大きく喉を反らせて喘いだ。
間歇的な喘ぎ声の合間に、やめろ、抜け、と抗議の言葉が混じる。
「・・・ッ、イヤ、だ、ぞろ、出る、出ちまう、イヤだ、俺だ、け、やめ・・・あ。あ」
どうにか指を抜こうと身を捩る姿が凄絶だった。
あまりの視覚的な刺激に俺自身も限界だった。
「入れるぞ、いいか、」
指を引き抜いたあとに砲身をあてがい一気に貫いた。
「ん!あ、あ・・!」
コックの内部はずるりと抵抗無く俺を受け入れた。
その熱さだけでイッてしまいそうだった。
さっき探り当てた場所に当たるように抽送する。
もはやコックの口からは意味のある言葉は出て来ない。
やがて、触れてもいないのに完勃ちだったペニスの先端から、
トロトロと白濁した液体が溢れ始めた。
「すげぇな、何だこれ、垂れ流しじゃねぇか」
「あ、あ、見ん、な、うぁッ」
締め付けがキツくなる。
ヤツは完全に理性を手放している表情で、腰だけが別の生き物のように淫らに揺れていた。
俺はあまり長くは耐え切れず、早々にコックの中に放った。
中出しも確か禁止事項になっていたような、と思い出したのは
それから少しして、コックがようやく平静を取り戻してからだった。
「てめえ、なんつうことしやがんだ。中出しまでしやがって」
まだ名残惜しげに繋がっていたら、おら出てけ、と腹を軽く蹴られた。
抜く瞬間にコックのまだ半立ちのモノがぴくりと揺れ、
ふぁ、という声とともに最後の一滴を吐き出した。
「外で出せっていつも言ってんだろうがよ」
悪態を吐き、体内に残るゾロの体液を掻き出そうと下肢へ手をのばす。
とてつもなく淫らな眺めだった。
思わず喉が鳴る。
「・・・てめえ、今自分がどんなツラしてっか知らねぇだろ。
すげえぞ、やべえ、エロすぎだ」
「俺が知るか。誰のせいだと思ってんだ」
無茶しやがって、そんなに俺にヤられんのがイヤかよ、と
ぶつくさいいながら白濁を処理している。
その姿を視姦しながら、俺は考えを巡らせた。
コックの持ち物もかなり立派なシロモノだ。
長さがあって、カリがデカイ。
突っ込まれたら俺のより痛ぇんじゃねえかと思う。
正直怖くないと言えば嘘だ。
他人に身体の内側に入り込まれ、意思とは無関係に揺さぶられ、
喘がされるのだ。
男ではありえないセックスのかたちだ。
コックにばかり負担を強いているのもわかっている。
それでも絶対に譲れない。
「ちゃんとイかせてやったろ?どうだった」
欲しくて焦がれて、無理やりに手に入れた身体だ。
手放したくない。
誰にも渡したくない。
この感情は─────。
「覚えてろよ、てめえ、人のカラダ好きなように変えちまいやがって」
目の縁を赤くして睨みつけてくる小生意気な表情も、
減らず口もひっくるめて。
愛しているって言っても、
いいんじゃねえかと俺は思う。
END
『俯くな、・・・』の二人、続編です。
エロがとにかく書きたくて・・・エロ純度95%くらいを目指しました。
でも芳賀の作品なので大したことないですが。
2008.6.10