「忘れてェんだろ」
耳元に響くのは悪魔の囁き。
「忘れさせてやる」
ねっとりと熱い吐息が首筋から耳元へと這い上がる。
夜のしじまをゆっくりと船が進む。暗闇に包まれた中で揺れる波を見つめながら、サンジはゾクリと肩を震わせた。
サンジは今、どうして自分がここにいるのか判らない。
それはサニー号が寄港した島の宿の一室。ゾロが船を下りた瞬間、ゾロは確かにサンジを見て、ニヤリと哂ってみせたように思う。強い視線でサンジを射抜き、誰も気遣いくらい微かに顎しゃくってみせた。
気付かない振りも見なかった振りも出来た筈なのに、サンジはまるで魅入られたように船を下りていた。
島の宿の一室。
窓から夜の街の灯りを眺めながら、今ならまだ引き返せる筈だと、何度心の中で呟いただろう。先にシャワーを浴びていたゾロが浴室から出てくる気配がするのに、サンジは振り返ることも出来ない。
何の為にここにいる?・・・ゾロに抱かれる為だ。
その事実があまりに滑稽で、信じがたいものなのに、サンジは動くことも出来ない。かと言って、それを望んでいるのか、と聞かれれば頷くことも出来ない。
ゾロがゆっくりと背後から近づいてくるのが判る。
ゾロがどうしてこんな誘いをかけてきたのか、サンジには全く判らない。ただ、サンジは今、自分の中に存在してくすぶって、今にも破裂してしまいそうな、この許されない思いから開放されたかった。いっそ自分自身を打ちのめして、太陽を太陽のあるべき場所に返したかったのだ。
いつからゾロがそのサンジの思いに気付いていたのか判らない。
ある日、ゾロは言った。
「忘れてェか」
振り返ってはいけない、と思った。
「忘れさせてやる」
振り返って、その手を取ってはいけないと判っていた。
けれど。
ゾロが後ろからサンジの肩を両手で掴んだ。びくり、とサンジの肩が震える。サンジは窓の桟にしがみつくようにして、硬直したまま立っていた。ゾロが背後で微かに笑った気配がした。
「男は初めてか」
「たりめェだ」
サンジは目一杯の虚勢を張って、低い声で答える。ゾロがまた、微笑ったような気がした。
「そんなにルフィが好きか?」
「テメェの知ったこっちゃねェ」
ゾロに抱かれて一体、何が変わるのかサンジには判らない。何かに自分を投げ出してしまいたかっただけかも知れない。
ゾロの手ががゆっくりと肩から腕へと、サンジを撫ぜるように下りてゆく。
「シャワー、浴びてくる」
サンジが振り返りもせずにそう言うと、
「いらねェ」
と、ゾロは短く言って、サンジの耳の裏にねっとりと舌を這わせた。
「よせッ」
思わず振り払おうとして、ゾロの力強い腕に体ごと戒められる。耳元にかかるゾロの息が熱い。
「ゆっくり、てめェを犯してやるよ」
ゾロの言葉に、サンジは観念して目を閉じた。
ゾロはサンジをベッドの上に放り投げると、腹の上に跨るようにして圧し掛かってきた。乱暴な仕種でサンジの上着のボタンを外していく。サンジは何も感じたくなくて、何も見たくなくて、ただ目を閉じてゾロの為すがままにさせている。ゾロは上着を剥ぎ取ろうとして、サンジの身体が固くベッドに沈み込んだまま、その重みに邪魔をされて脱がせられないことに気付き、「ちっ」と舌打ちをした。ならば、と、下着ごとズボンを剥ぎ取り、シャツ一枚の姿にサンジをしてしまうと、ゾロは薄く哂った。それはそれで卑猥な光景だ。シャツの端からちらりと見える陰部に、ゾロが舌なめずりをするように唇を舐めたことをサンジは知らない。
ゾロは体をサンジから浮かせると、腰に巻いていたバスタオルを勢い良く床に投げ捨てた。そしてサンジの片足を持ち上げると、不意にその足の親指に舌を這わせてゆく。
「な・・・っ」
思わぬ部分への柔らかい感触に驚いて、サンジが目を開けた。ゾロは見せ付けるように、サンジの足の甲に唇を落として、食むようにして足先に歯をたてた。
もっと強引な、荒々しい行為を予想していたサンジはゾロの行動に自分の身体が一気に熱を持ってゆくのが判る。
「ゾ・・・・っ」
片方の手でサンジの片足を持ち上げながら、もう片方の手でサンジの両足を這うようにして撫ぜる。太ももの外側を情欲の篭った手のひらで撫で回されて、思わず息を吐きそうになり、サンジは唇を噛んだ。ゾロの唇はサンジのつま先から、少しずつ上がってくる。くるぶしを噛み、踵を舐め、サンジの滑らかな筋肉のついた脹脛に吸い付く。熱い舌と息に足を舐め回され、一方では体温の高い手のひらで撫で回されて、堪えきれずサンジは僅かに身体を震わせた。内股をベロリの舐めあげられ、敏感な部分に熱い吐息がかかる。
「うっ・・・」
サンジは思わず呻いた。
感じている自分が信じられない。勃ち上がりかけているサンジの性器は直接的な刺激を欲しいと思うのに、ゾロは肝心な部分にはふれようとせず、ゾロの唇は今まで唇で愛撫していたのとは逆の足の付け根を強く吸うと、今度は下へと這っていった。膝頭に優しく唇を落とされ、つま先がびくんと揺れる。
ゾロの目は挑発的な強さをもってサンジの目を捉えていた。逸らすことも出来ずに、サンジはゾロを見つめた。
ゾロの目の奥に何があるのかを見極めようとするかのように。
ゾロの手がゆっくりとシャツの隙間からサンジの割れた腹の上を這う。サンジがヒュッと息を吸って、ほんの一瞬、腹がへこむのを手のひら全体で感じている。ゾロはサンジの両足に余すとこなく唇を這わした後、サンジの足の間に身体を入れ込んで、サンジの身体に圧し掛かった。その頃にはサンジの息が絶え間なく唇の端から漏れるようになってきていた。
シャツの裾から背中に腕を入れ、少し持ち上げるようにして、臍の辺りに舌を滑らせる。不安定な上体にサンジは肘をベッドについて自分の身体を支えるものの、ゾロの愛撫に段々と漏れる息が荒くなり、噛み締めた唇から幾度となく熱い息がこぼれ始めてゆく。じっとりと背中を撫ぜられながら、ゾロの舌がサンジの胸を縦横無尽に嬲る。乳首に吸い付かれて、サンジは仰け反って、首を横に振った。身体を捩れば、纏ったシャツが邪魔で、サンジを拘束する。
「はっ・・・あ」
逃げようにもゾロの手が背中に回っていて、許されない。
どんどん熱くなってゆく身体が止まらない。
ゆっくりと身体中を高められて、サンジはいつしか、漏れ出る息をかみ殺すことも出来なくなっていた。
そんなサンジをじっと見守っていたゾロはベッドにサンジを寝かせると、汗に濡れてきた髪を一度だけ撫ぜ、ぺたりと身体を合わせる。
「あっ・・・」
いつの間にかゾロの愛撫に応えて勃ちきっていた、今まで放っておかれたその部分をゾロの熱い塊と一緒に握り込まれて、サンジは目を見開いた。ゾロが勃ってたのも驚いたが、あまりに官能的なその接触にサンジの頬にさっと赤味が差す。
「ちょ・・・ゾロ、待・・・・っ」
何かを言おうとしたサンジの唇をゾロの唇が塞いだ。
「うー、うー、う・・・」
ゾロの手がいやらしく蠢くのに、サンジは流されて、ゾロの背中にしがみついていた。
唇を塞がれ、吐息までも封じられて、ゾロの与える感覚にひたすら飲み込まれた。
重ねあった互いの性器からぬめり堕ちる雫が、ゾロの手が行き来するたびに音を立て、さらにサンジを追い立てて息苦しさを感じると言うのに、ゾロはサンジの舌を強く絡み付いて、呼吸さえも自由にならない。そしてそれがまた、サンジの熱を煽るのだ。
ゾロの熱棒が硬くなるのをダイレクトに感じながら、サンジ自身のソレも同じだけ硬く熱くなってゆく。
「うはっ」
サンジが極まってゾロの背中に爪を立てて、ゾロの唇から逃れるように顔を仰け反らせた瞬間、ドプリと互いの性器から白濁したモノを放った。サンジのシャツにどちらが放ったとも知れない精液が飛び散った。
身体中で呼吸をするサンジにゾロはドロリした精液で指を湿らせて、サンジの太ももの間から奥へと腕を伸ばす。
呼吸の整わないサンジを薄笑いを浮かべながら見下ろして、ゾロはサンジの蕾に指を突き入れた。
サンジは快楽の恐ろしさをはじめて知った。
少しずつ開かれた体はゾロをずっぽりと飲み込み、ゾロが擦りあげるたびに身体が跳ねる。ゾロに抉られるたびに、身体中がゾロで満たされて、ゾロの熱さ以外何も考えられなくなる。
サンジの奥を暴くゾロの指は決してサンジを傷つけようとはしなかったが、容赦もなかった。いつの間にか拡げられ、完全にゾロのペースに巻き込まれて、気付いた時にはゾロの一物を奥まで飲み込まされていた。
「ふっ、ふっ、ふっ・・・ふっ」
ゾロが突き上げるたびにサンジの唇から喘ぎ声が漏れる。侵略されて、暴かれて、逃げを打てば、引き戻され、全身を苛むような快楽を植えつけられる。じらされていたかと思えば、感じる場所を一気に攻められて、翻弄される。
その手で何度もイかされて、脳みそまで溶かされて、ただゾロにすがりつく。
腹の中は既にゾロが出したもので熱く重く、つらいのに、ゾロの張り詰めた塊で擦られれば、身体はなおも快感を求めて勝手に揺れる。
ゾロに揺さぶられるままに、サンジはゾロを求めた。
ゾロの与える快楽だけを追う。
目を閉じて、眉根を寄せ、苦しげにも聞こえる吐息を吐き出しながら、ただ、ゾロを求める。身体の内側でゾロの熱を感じ、身体の皮膚でゾロの熱を感じて。
突然ゾロが身を起こすと、そのまま、サンジの背中を抱き上げた。
驚いて目を開くサンジの身体を反転させ、膝裏を持ち上げる。自分の重みでさらに奥にゾロの肉棒が沈み、サンジは「ああっ」と悲鳴を上げた。思わずゾロの身体に凭れかかれば、シャツ一枚の隔たりが邪魔をして、ゾロの湿った熱を感じきれないのをもどかしいと感じる。
ゾロの内股をサンジの蕾から溢れ出た己の放ったモノが伝ってゆく。サンジ自身を握った手がサンジの性器から、達しても、達しても溢れるモノで濡れる。
快感の中でのたうつサンジの耳元で獲物を追い詰めた肉食動物の目をしたゾロが囁く。
「ルフィの名前を呼んでみろよ」
何て残酷なセリフだろう。
これだけ全身で愛されていることを知らされて、何もかも奪われて、その存在を隙間一つないくらいに埋め込まれて、今はもう、自分を今抱くこの男のことしか考えられないと言うのに。
「オラ」
と、無理やり口を開かされて、口内に指を入れられる。
朦朧としながら、サンジはその指を舐めた。
後ろから突き上げられれば、また知らない悦びを身体が覚えて、溺れるようにして、サンジはゾロの腕に指を食い込ませる。
ルフィを思っていた筈の自分が今、自分を埋め尽くす男以外の何も考えられなくなっていることが信じられない。いや、信じられないと思う隙間もなく、心ごと攫われて、ただゾロで満たされ、その存在の中で浮遊している。
いつの頃からか、ゾロはサンジの見つめる先にルフィがいることに気付いていた。
そして、いつからか、それが欲しいと思っていた。
その目が。その心が。
ルフィを思って、でも恋い慕うにはその存在はあまりに遠くにありすぎて、それを口にすることも出来ないまま、日に日に自分を追い詰めていくサンジをゾロは黙って見ていた。
暗い夜のサニー号の上。薄暗い気持ちを抱えて波を見つめるサンジの後ろから近づいて、ゾロは囁いたのだ。「忘れてェんだろ」と。「忘れさせてやる」と。
獲物はあっけなく自分の上に落ちてきた。
後は、大事に大事に抱いて、身体にも心にも己を植えつけてしまえばいい。
もう手放す気はない。
『ゾロ』
その時、サンジの口に含ませた指がその音を感じた。
『ゾロ・・・』
サンジの舌がゾロの指にその名を告げる。吐き出される吐息とともに。恍惚とした目が宙を彷徨って、ただその名を呼ぶ。
「身体だけでもいいんだぜ」
その耳に意地悪く囁いてみるが、もうサンジはそれを理解する余裕もない。ひたすら腰をくねらせて、溺れて、全身でゾロを求める。ゾロはニヤリと笑うと、そのままサンジの背中を突き倒して、その背中に乗り上げた。
「ん・・・ん・・・んっ」
サンジの唇がゾロのリズムで音をつむぐ。
ゾロが動くたびに、サンジのシャツが揺れる。
サンジの内股には絶え間なく、どちらが放ったとも判らない精液が白く流れてゆく。
ゾロの動きが激しさを増し、サンジはベッドに頭をこすり付けて、絶え間なく訪れる愉悦に歓喜して声を上げた。ドクン、とゾロがサンジの中で弾けた瞬間、サンジもまた放ち、そしてずるずるとベッドに崩れ落ちた。その上に覆いかぶさるように、ゾロもまた倒れ込む。
二人の荒い息だけが響いていた。
サンジは今、幸せを噛み締めている。
ゾロにしてやられた感はあるのだが、あれだけ愛されていることを身体で教えられたら、もう叶わなかった恋の残骸など形もない。ゾロは気付いていないようだが、ゾロは結構やきもち焼きだ。サンジがナミやロビンにメロメロになっていても大して気にとめていないようなのに、ルフィを甘やかすと目がギラリとしなる。愛されている実感に「参ったな」と思う。
今はただ、自分がついていくに値する船長だと、そう思うだけなのに。
全身で愛情をぶつけて、あまりあるものを返してくれる彼氏にサンジは今、夢中だ。
セックスも上手いし。
一方、ゾロは、と言えば。
ゾロもまた今、満足している。
昼寝の合間、クルーたちと騒いでいる時、食後の一時、ふと目を向ければ、いつも他を見ていたその目が自分を見ている。
いつも誰かを見つめる横顔、後姿を見てきた。
それが今は自分の方を向いている。
ニヤリ、と笑ってやると、少し唇を尖らした後、イーッだ、っと返された。
ちょっと甘えたようなその仕種がおかしくて、ゾロは今晩も可愛がってやろう、とサンジが聞いたら、速攻でアンチマナーキックコースが飛んできそうなことを、今日も考えている。
The End
某サイト様の絵茶会でNatsuさんと初めてご一緒した時に、
「エロ絵が描けたら贈りますね!」と約束し、描いたのが”三点責め”
その拙いイラストにこんな素敵なSSをつけて下さいました!
いやん、サンジ、エロ!
ゾロったらそんなにサンジが好きなんだ〜!!
冒頭からはとてもそんなラストに辿り着けるとは夢にも・・・。
こんなに愛されちゃってたら、いくらアホのサンジでも分かるし、
ほだされちゃうよねえ!!
Natsuさん、素敵な作品をありがとうございました!!