彼に抱かれる理由

  

あの行為に意味を見出したのは意外な事に自分の方が先だった。

目の前の金髪の男の想いに自分との温度差があるとは思わない。
なぜなら、何度も重ね合わせた体でゾロが慎重に測ったからだ。

それでも、「野郎同士で甘ェ言葉を吐けっつうのかよ」と、照れ隠しにか甘さなど微塵もない視線を寄越しながら足を開く男に、ゾロは今夜も問いかける。
目に見えるもの、触れられるもの、そして聞こえてくるものだけが真実ではない。

感じるものの中にも真実はある。
力だけでは操れない刀と同じで。

そう頭では分かっているのに、ゾロは全身でそれを納得したいのだ。




「なあ、最近回数が多くねェか?」
見張り台の床の上でお互いが息が整うのを待って、サンジがひょいとゾロの上に腕を回し、そこにあるジャケットを引っ張った。
ジャケットはゾロの顔の上を遠慮なく通過し、ゾロは思わず目を瞑る。

サンジは悪ィと小さく呟くように謝ると、ポケットから煙草を取り出し、素っ裸のまま片方の足を立てて床に座ったまま、ぼんやりと窓から見える砂金のような星々を見上げた。

「てめェ、前は性欲は強くねェとかなんとかぬかしてなかったか?」
「そんな事、言った覚えはねェ」
「そうだったかねェ?」
サンジはふうと溜息を吐く。

今、この姿を人が見たら、ほんの数分前まで、この男が、大きく広げた足の間にゾロを迎え入れ、ゾロの背に腕を回し、我を忘れ、揺すられ、喘いでいたなど誰が想像出来るだろう。

この関係に至るほんの短い蜜月、この男から恋人めいた言葉を聞かなかった訳ではない。
体を繋げる事が二人の間で当たり前のようになっているのに、この男は毎回毎回本気でない抵抗を示し、最後はゾロに押しきられた形でゾロを受け入れる。

男同士の方法は、やはりサンジには負担をもたらすもので、ゾロは当然大切な相手だからこそ、サンジを労りたいし、もっと優しく触れたいと思う。
それなのに、二人で深く繋がり、得られる快楽が大きくなればなるほど、この男はかたくなになって行く気がしてならないのだ。

サンジのみてくれに先に強烈な性欲を感じたのは確かに自分だ。
その事がサンジの男としてのプライドを傷つけているのだろうか?

「お前、最近不満そうだな?」
ゾロは上体だけ起き上がり、サンジの唇から煙草を抜いた。
そして、それを自分の唇に挟むとすっと肺に煙を吸い込む。
相変わらず不味いと思ったが、鼻から抜ける香りはいつも嗅ぎ慣れた男の香りだった。

「不満っつうかよ」
サンジがゾロから煙草を取り返した。

「確かにてめェとのセックスは悪くねェ。まあ…てめェも上手くなったし…。でもよ、なんつうか…、まあ、単純にだな、いくらおれらの歳とは言え、回数多くねェか?いや!多い!おれたちゃこんなになっちまってもう1年がくるんだぜ?そろそろ、落ち着いてもいい頃だと思うが、余程の事がねェ限り、毎日ってのもなァ。お前はおれの体がどうのって言ってる割には、言う事とやる事が全然違うんだよ!」

サンジの言い分も尤もかもしれない。けれど、サンジと抱きあう時間の多さがゾロには問題な訳ではない。サンジが男としての矜持を曲げて自分を受け入れてくれている事も知っている。それが、サンジなりの精いっぱいの応えだと言う事も。

それでも、恋と言うのは貪欲な物で、人と人との関わりにおいて、言葉など薄っぺらいと思っていたゾロでも、そう言うものが欲しくなるのだ。なにもかもを自分に明け渡したサンジを少しでも多く感じていたいのだ。

どうすれば、こいつにそれが分かるだろう。
ゾロは、珍しく思考を巡らした。サンジからそれらしい言葉が欲しくて、言葉攻めにした時は本気でキレられ、真っ裸で深夜喧嘩した事もあった。
サンジを抱く事の意味を伝えようにも、「性欲魔人」だとののしられ、深刻な別れ話にまで発展した事もある。

想いの深さは測れない。それでもゾロの心はサンジの心を知っている。ただ、ゾロはサンジに気付いて欲しい。

「なら、お前がやってみるか?」
「は?」
「おれらは男同士だ。そもそもどっちがどっちと役割が決まっている訳じゃねェ。今の形はたまたまこうなっただけで、お前さえよけりゃ、お前が突っ込みゃいいだろ?」
「おれが、てめェに?」
サンジが目を見開きゾロをじっと見返した。




そんな事、考えなかった訳じゃない。
最初は男に欲情するなど変態じゃねェかと思っていたサンジも、自分の上に覆いかぶさる男の欲望に濡れた瞳を見るだけでビンビンに下肢が感じる程にはゾロに欲情する。

けれど、サンジはこの関係を受け入れた時から、ゾロがサンジをあんな形で受け入れるのは無理だと思っていた。それに、ゾロが急所を全部曝し、足をおっ広げる姿をなんとなく想像も出来なかった。
ゾロが、戦闘員でありながら傷一つない美しい背中を無防備にサンジに向け、サンジを受け入れる事が出来るなど到底思えなかった。

サンジとてゾロを受け入れる事に抵抗がなかったと言う訳ではない。

ゾロがサンジに優しく触れる時、サンジはそれが男女の関係なしに、ゾロの純粋な愛情からだと分かっていても、それを受け入れる加減が分からず、意識的に突っぱねてしまう。それは、サンジの心の中にまだ男としてのこだわりが横たわっているからかもしれない。


「うし!決まりだ!」
「決まりって…てめェ」
「まだ、時間もジェルもあるろ?」
「お、おう」
サンジが展開に付いて行けぬのも構わず、ゾロはサンジに見せ付けるようにそそくさと股を広げた。

彼に抱かれる理由イメージイラスト

ゾロのペニスはいつものように早い回復を遂げ、赤く太いそれが腹に添うように勃起している。緑の茂みの下の色の濃い袋の後ろ。そこがサンジに見えるようゾロは少し腰を上げた。

ゾロの筋肉に覆われた太ももの付け根にまで緑の茂みが伸び、思わぬ卑猥さにサンジは思わずごくりと唾を飲み込んだ。

「ほら、やり方は知ってんだろ?」
ゾロの挑発のような誘いにサンジは煙草を灰皿に押し付けると、ゆっくりと手を伸ばした。



痛みに慣れたゾロは、この種類の感覚にも強いのか、サンジほどに表情を崩さずサンジの指を受け入れた。だが、額にじっとりと滲んだ汗が、その違和感を物語っている。

「痛くねェか?」
苦しい思いをさせたくない。サンジにその想いが溢れる。最初から感じる事は無理でもせめて、痛い思いは一切させたくない。

それに、どうだろう?

一たび戦闘になれば、その存在だけで他を圧倒する男が、サンジに向け、足を開き、体の一番の急所を醸している。

今、この世にこの男を殺す事が出来る人間がいるとすれば、それは間違いなく自分だろう。

指を増やしたサンジにきゅっと思わず目を瞑ったゾロは、サンジにすべてを預けている。


そう、信頼しきって…。


「なんだ?おれが…ちょいと優しくすりゃ、火ィ点いたように暴れやがる癖に、おれには随分と丁寧じゃねェか?」
ゾロの言葉にサンジははっとした。

ずっと対等で喧嘩仲間だった。同い年でライバルで。戦う実力も五分と五分。
いたわり合うような、生温い仲じゃない。

でも、これは…。

「クソ野郎!!人の親切は黙って受け取っとけ!」
サンジはジェルを塗り込め、丁寧にゾロを解す。次第に柔らかくなったそこはまるでサンジにおいでをするように魅惑の孔になった。


「まじで…いいのかよ?」
サンジはもう一度聞いた。

あの、ロロノア・ゾロだ。バラティエで海賊狩りの噂を聞いていた。どんな男だろうと思っていた。
本人は想像以上に破天荒で、無謀で、そして、真っ直ぐな男だった。

それが、どうだ?この姿は。同性に、挿れてくれと強請っているように足を開いている。

「ああ、お前だからな。ほら、さっさとしろよ」
ゾロが、ニッといつもの悪人面で笑う。

サンジは、その物騒な笑顔に思わず何かが込み上げて来た。

「ゾロ…!」

サンジは、生まれて初めて、好きな男に自分を埋めた。

そこは、熱くて、熱くて、溶けて、自分ではなくなってしまいそうな程。

「ゾロ…、痛くねェか?」
「おう。てめェの…中で感じんの初めてだな…」
「バカ野郎…」
ぐっと腰を前に進めると、
「うっ」
とゾロが唸る。

「ゾロ…、おれだって…、てめェだから!だから、やってんだ…。あんなに感じんのも、お前だから!」
「わかってるって…。…ほら、アホコック、お前の自慢の腰使い見せてみろよ…」
「クソッ!…てめェ、初めてなのに…その余裕なんだよ…?」

二人は顔を合わせて笑った。

サンジは、夢中でゾロを感じた。
もちろん、外からの刺激に弱い男のモノは、ゾロの内壁に擦られ死ぬほど気持ち良かった。

けれど、サンジが感じたのは、これを、自分だけに許された事の喜び。


ゾロ…、お前も同じなんだな?

サンジ自身も知らなかった自分の感じ易い体。ゾロに暴かれ、女のように優しく扱われる事への抵抗が、ゾロの愛情さえも否定していた。


「ゾロ…、ずっと…おれ、てめェが…好きだった」
サンジがゾロの緑の髪をさすりながら囁くように言う。

「アホ。そんなの、分かってる」
「…クソッ!人がせっかく…」
サンジが腰を引き、ゾロに打ちつける。

「っく!」
ゾロが眉間を寄せたが、サンジは早くもゾロのいい場所を見つけていた。

「ここだろ?…てめェ、余裕あり過ぎだから…もう、いくぜ?」

「…バカ野郎…誰が…余裕かよ!!」
その言葉通り、ゾロはサンジの攻めにあっけなく陥落した。

そりゃそうだ…。

ゾロは全身を貫くような快楽に、ぶるりと胴震いした。

どちらかが貰えればラッキー。そう思っていたゾロだったのに、サンジの言葉も、相手に体を開くその意味を知ったサンジの気持ちまで手に入れたのだ。そして、この天の邪鬼な男がどんなに全身で自分を受け入れてくれていたのかを…。


サンジもゾロの胸に凭れかかり、その鼓動を聞きながら、ゾロが本当に欲しかったものが分かった気がした。



ゾロが自分を抱く度に感じていたであろう、強烈な喜び。

だから、あんだけ欲しがったのかよ?


恋愛音痴だと思っていたゾロにそんな簡単な事を教えられ悔しい気もするが、それを返上するべくサンジはゾロの汗で湿った髪に手を入れた。
「ゾロ…、ヨカッタぜ。愛してる」

ゾロの頭の中で、第三ラウンドの鐘が鳴った。

ただ、欲しいから抱き締める。お互い理由なんていらない。



end


月色パンダの夢音優月さまよりSSいただきましたvv

普段はかなり激しい感じのゾロサンを書かれる夢音さんですが、
この度なんともガッツリとリバ書いて下さいましたvv

どうですかこの、初々しくもしっかりとゾロをいただいちゃうサンちゃん!
そして漢らしくサンジを受け止める艶っぽいゾロ!

もうね、描くシーンはここしか無いわよね、といただいた当初から
構図その他決まってたんですけど、

一戦交えた後なんだから萎え状態よね、と勝手に読み違えをしていたらしく、
ペン入れ前の段階でもう一度SSを読み返していて、うお!?とビビった次第でして(大汗)

・・・画面中央に臨戦状態のナニ、という構図となっております。
だって、だって萎え状態だとばっかり・・・いやぁ言い訳ですけどね・・・。


夢音さん、素敵な投稿作品をありがとうございました!!

2011.5.7 拙絵完成

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