不実な指

  

サンジの指が好きだ。

常に忙しいサンジの、最もよく働く部分。
白くて、細くて長い、節くれだった指。
滑らかで冷たそうに見えるけれど、意外にもその表面は
間近で見ると水仕事で荒れていて、実際に触れられると、熱い。

ゾロは、こんな関係になる前から、忙しなく動くソレを眺めているのが好きだった。

だって面白いじゃねえか─────。

魚を捌き、野菜を刻み、フライパンを振り回し、大鍋をかき回す。
出来上がった料理を手際よく盛り付けていくさまは本当に見事で、
本人には内緒だが、見惚れたりすら、した。


その手がおれに触れた───。


女達に美辞麗句を並べ立てるその唇が、ゾロに、好きだ、と告げた。

そらぞらしい、とゾロは思った。
街に着く度にナンパだなんだと浮かれて騒ぐくせに、何が「好き」だ。


おれだけを 見ない くせに。


そんなことをつらつらと考えていたら、
あの日も抵抗するタイミングを逃してしまったのだ。
深く口付けられて息が上がり、その煙草臭い熱い舌に翻弄される。

そんな行為の際にも、サンジの指はかいがいしく働いていて、
目で追ううちに身体はすっかり追い上げられていた。

サンジは不実だ、と思いながらも身体だけは従順に拓いてゆく。
好きだ、なんて口先だけの言葉を囁きながら自分に触れるサンジを
好きで好きで堪らなくて、


おれだけを 見ない それでも。


自分に触れる指の熱さだけは本物だろうかと、それだけを、
それだけを頼みに、為すがままに抱かれたのだ。





2年ぶりに見るサンジの姿。
以前より少し長めに整えた髪、大人びた表情、濃く蓄えた口髭。

ゾロは自分の記憶にあるその姿と変わらない場所を探した。

2年の間にこいつには何が起きたのだろうか。
おれが鷹の目と修行に明け暮れていた間に、こいつは何をして過ごしていたのだろう。

何人の女を抱いた?
おれ以外の男とは、寝たのか?

そして、おまえは今でも、おれのことを─────。



自分は何を期待しているのか。
この、不実そのものの男に。

ゾロ以外のものばかりを目で追っていた、この男に何を。

2年前とは違うサンジの姿。
ゾロが好きだった指だけが、2年前と変わらない。



ルフィと合流して乗り込んだ、2年ぶりのサウザンドサニー号。
仲間達との再会を果たし、慌しく出航を終えた後で、

酒でもどうだ、と誘われるままに訪れたラウンジで、
再会以来、あしらうように素っ気無かったサンジが初めてゾロに触れた。

「悪ィ・・・もう我慢出来ねぇ・・・」

ゆるりさまイラスト

腰掛けていたソファに仰向けに押し倒された。
絡められる指。
震えるその指先の熱さにゾロは息を呑む。

「2年ぶりだ、ゾロ、もう待てねえ」

耳もとでささやくサンジの甘く低い声に、
早く欲しいと身体は疼くのに、心だけが追いつかない。

「嘘吐け、おまえはおれのことなんか・・・ッ」
「嘘じゃねえよ、ゾロ、会いたかった、ゾロ・・・」

圧し掛かるサンジの鼓動が聞こえる。
早鐘のようなソレは、サンジの言葉が真実か否かを雄弁に語る。

「良いよな、ゾロ、ダメか?
 それとも、他に好きなヤツでも出来ちまったか?」
「ばッ・・・!そんなモン・・・!!」

あやすように、諭すように。
サンジはいつだって、甘やかな言葉で絡め取るようにゾロを追い詰める。
逃げ場を失くしたゾロが、サンジに身体を差し出しやすいように。

「ゾロ、好きだ」
「───ッ」

首筋に顔を埋められ、熱い息がかかるともうダメだった。
自分からサンジの背に腕を回して抱きしめる。

サンジは嬉しそうに笑うと、ゾロにキスをした。
ああ、煙草の銘柄は変えていないのだと安堵しながら口腔を探ると
サンジの薄い舌が応じる。

ゾロに触れるサンジの指は、2年分の熱を閉じ込めたみたいに熱かった。
触れられた部分から身体に火が点いてゆき、脚の間の器官はすっかり立ち上がって、
はしたなく涙を溢れさせる。

変化に気づいたサンジは、器用にゾロの衣服を脱がせ、
ひくひくと立ち上がっている部分の先端に口付けると、
その奥にある菊門にそっと触れた。

「こっち、だれにも許してねぇよな?」

入り口の狭さを確かめ、嬉しそうに言うサンジに返す言葉もない。


サンジの何が不実だ。

この男の指恋しさに、鷹の目に身体を拓こうすらした、
おれの方こそ不実じゃねえか。


「入れるよ?」
「・・・訊くな、早く───ッ、んう・・・」


身体の力を抜き、待ち焦がれたものを2年ぶりに受け入れる。
不実なはずのサンジの、誰よりも誠実な、指。
愛しいそれに中をかき混ぜられ、ゾロは大きく喘いだ。

「あ、ああッ───!」

「う、キツいよ、締め付けすぎだ、バカ」
「うるせぇ、早く、とっとと───、とっとと突っ込めよッ」

指よりももっと待ち望んで止まない、サンジの雄。
早く、早く欲しい───。
あれでおれの身体を早く満たして欲しい。

「ちぇ、ムードねえの」

口ではそう言いながらもサンジは嬉しそうに指を増やした。
ああ、と大きな息を吐いて、ゾロはそれを受け入れる。


不実な、身体で。



End

2011.3.13


*Snowdrop*のゆるりさまよりイラストいただきましたvv

ちょ、このサンジのやけにオットナ〜な感じどうですかッ!
(オトナというよりむしろオッサ・・・モゴモゴ)

そしてこのゾロのかわいらし〜ことvv

どうにもこの2人はリバと言うよりも、
ドコまでもサンゾロな2人という印象ですv

このゾロの手首に絡めた、サンジの指のいやらしさ・・・うへへ
タイトルだけがもう真っ先に決ッ定〜でした!

余裕ぽく攻めながらも、実はいっぱいいっぱいなサンちゃん、
そんな感じを目指してみましたv


ゆるりさん、素敵な投稿作品をありがとうございました!!

2011.3.13 拙文完成

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