コックとリーマン 果報は寝ないで待て

  

「悪ィ、てめェの誕生日、休み取れねェわ」
そう言われたのは10月も半ばの頃だった。
経済界の重鎮の夫人が、サンジが料理長を務めるレストランで食事会をするらしい。
「あのギョロ目のおっさん(…経済界の重鎮をサンジはそう呼ぶ)が食事会するならコック共に任せてもいいんだけどよ、マダムがいらっしゃるなら俺がお迎えしねェとな!」
左目を覆う長い前髪を梳りながら、サンジはそう言った。

サンジが、恋人(男)よりも女性を優先するのは今に始まったことじゃない。
ここで「そのババアと俺とどっちが大事だ?」と言ってはならないこともわかっている。
ゾロは、誕生日くらい自分の恋人を独占してぇと思う気持ちを抑えて「そういう事情なら仕方無ェ」とものわかり良くうなづいて見せた。

とはいえ。
朝から誕生祝のコールもメールも無いのは酷ェだろ、とゾロは思う。
誕生日に恋人に放って置かれるというのは、気持ちの良いものではない。
気を紛らわすように仕事に没頭し、残業し。
今日のロロノアさん、怖い…などと囁かれていることは感づいているが、眉間の縦皺は寄ったままだ。
紙コップがポコンと落ちてくる自販機のコーヒーをすすっていると、どうにも裏切られたような気になってくる。
なんで誕生日に自販機のコーヒーだよ!
思わず自販機を蹴飛ばしたくなったが、深呼吸してネクタイを締めなおして仕事に戻る。
サンジと違ってゾロはネクタイなんて外したい人間だが、ストイックに仕事に打ち込むには効果的アイテムだ。

時計の針が9時を回ったところで携帯がメールの着信を告げた。
ゾロの心がピクンと跳ねる。
この着信音はサンジからだ。
『帰りに裏へ寄れ』
7文字の短いメール。それも命令口調。
それでもゾロの顔は自然とほころんだ。




裏…それはサンジのレストランの裏口のことだ。
一流レストランともなると、裏口も綺麗で整然としている。
そこから現れた若いコックはゾロが名乗る前に「今、シェフを呼びますので」と丁寧に答えた。
サンジはコックたちに自分のことをどのように伝えてあるだろう。
友人? それとも恋人?
自分の想像に自分で照れくささを覚えて赤面しそうになる。

そこへ、サンジが引き出物袋のような大きな手提げを持って出てきた。
「もうちょっとかかる。これ持って、先に帰っててくれ」
「待ってる」
「待ってられると、俺が落ち着かねェ。帰ってくれ」
ゾロがむっとしたのが伝わったのだろう。
サンジはおもむろにゾロの首根を掴んで引寄せた。

果報は寝ないで待てイメージイラスト

抗議の間もなく、口付けられる。
熱い舌がゾロの舌に絡んで、優しく強く愛撫する。
角度を変えてもう一度深く長く口付けられる。
「これ、前金な。残りはあとでたっぷり払ってやるよ」

その言葉に、今度こそ本当に赤面した。
口づけに兆してしまったのが、絶対バレてる。
そんなゾロを、サンジはブルーの瞳でいとおしそうに見つめた。
「そんな顔すんな。マダム放って帰りたくなっちまうだろ」


女性至上主義のサンジにそんなセリフを吐かせることができるのは、世界でただ1人しかいない。
当の本人はサンジのセリフの重大性に気付くより、火照った熱を沈めようと必死だったけれど。



end



金色アガペーの恋川珠珠さまよりSSいただきましたvv

いやぁ頂いたのは何月でつか。
ええ、12月の初めですよ奥様!

・・・・・ホント申し訳ございませんでした(深々)

これぞゾロサン!という感じの作品を書かれる珠珠様ですが、
拙宅の三周年企画にサンゾロを寄せてくださいましたvv

作中にはキスシーンしか無いんですが、
これお家に帰ったら、ゾロたんてばもうトロットロになるまで
可愛がられちゃうんだろうな〜、と

サンちゃんの夜のテクニシャンぶりを垣間見るようなワンシーンでしたvv

珠珠様からは、2人の設定を↓の感じでいただいてまして、

ゾロ・サンジ、ともに30代前半
ビジュアル=19歳ズを少々渋くした感じ

オッサンサンジとオッサンゾロ、という点でも楽しく描かせていただきましたv
何でこんなに遅くなったのかというと、光と影の一大ページェント(は)
を演出したくて、彩色に無駄にこだわっていたからなのでした。


珠珠ちん、素敵な投稿作品をありがとうございました!!

2011.9.9 拙絵完成

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