灯りの落とされた室内は窓から入り込んでくる月明かりだけで照らされているがそれでも見渡すのには支障は余りない。
元々夜目は利くし、もう既にゾロの目はこの明るさに慣れていた。

傍から見れば寝ているのかと思われそうだが。
ベッドの上足を投げ出し両手を組んで枕代わりに頭の後ろに置いた体勢のまま。
もうずっと同じ体勢のまま。
ゾロは珍しくも起きていた。

ただ。ひたすら、その時を待って。





欲しいものはないのかと聞かれ。
そう言えば自身の誕生日が近いらしいとまるで他人事のように思い至る。
一年の内のその日だけを特別だとはどうにも思えないし、もっと言えば今が何月で何日なのかと言う事にもさほど興味はない。
ましてや季節感の全くないグランドラインに於いては秋なのか春なのかすらも最早怪しい。
とにかく前に、そして先に進んでいればそれでいいのだ。ゾロにとっては。

欲しいものと言われても。
思い浮かぶのはすぐさま消費してしまうようなものか、もしくは誰かに貰うようなものではないものばかりで。
聞いた者からすれば可愛げのない事この上ない答えしか思いつけない。
貰うのでは意味が無いのだ。と。

欲するものを手に入れる為には努力は惜しまない。
それは何も強さを追い求めるだけに限った事ではない。
それ以外何も考えていないように思われているだろうが実はそんな事はないのだ。

警戒心も露わな野良猫を懐かせるためには。
適度に構い、自分の存在を知らしめながらも構いすぎない。
そこに在るのが当たり前。そんな風に徐々に浸食していかねばならない。
駆け引きだって大事だ。
都合がよすぎる存在になってしまっては元も子もない。ナメられても困る。
怖がらせてもいけない。

そんな風にいけない尽くしで制約の多い中。
ゾロを知る人物ならば誰もが目を疑うだろうほどの慎重さでゆっくりと距離を縮めてきた。
そろそろ。一息に懐に入ってきてもいいんではなかろうか。
勿論、それは自ら進んで入ってくるのが理想だが。

焦ってはいけないと、またしても出てきた、いけない事柄にちょっといい加減うんざりしながらも。
溢れ出る期待感も押し止める事は出来ない。





誕生日だなんだとそんなものにはかこつけずに。
ゾロが欲しがったからくれてやると言うのでもなく。
自らその心の扉を開け。

開いたドアの向こう側。
廊下の灯りは落ち着いた色合いながら、暗がりに慣れたゾロの目を灼いた。
逆光で影だけを浮き上がらせ、佇む人物を細めた眼で眺めながら。
光を纏ったサンジが後わずかな距離を詰めるのを。ゾロはただ待っている。
さっきまでよりもっと。流れが遅くなったように思える時の中で。





+++++





息すらしていないのではないかと疑ってしまうほどの静寂に包まれた室内。
そんなに殺す必要がどこにあるのかとサンジは首を傾げたくなる。
息を殺し過ぎて逆に息が詰まるような緊張感でいっぱいだった。

きっと本人にそこまでの自覚はないのだろう。
自然体を装いすぎて不自然になっている事なんて。
サンジは唇の端を上げるだけの動作でこっそり笑みながら暗い室内を眺めた。

どちらかというと何気なさを装うのはサンジの方が得意なことだ。
野性の猛獣の目の動きにまで気を配りつつもまるで路傍の石のように気配をなくす事だって。

欲しい欲しいと鬱陶しいくらい気配で叫んでいるだけじゃなく。
実際声に出せばいい。
食いたけりゃ勝手に食えばいいけれどそれ以上の事は決定的な言葉があってからの話だと思う。





誕生日だからといって特別扱いしているつもりはないが。
もうそろそろ一度くらいは掴まってやってもいいから。
いい加減その手を自ら伸ばせ。

まだ暗がりに慣れず、視界の悪い中。
それでも明確に察知できるだけの気を発して。
闇の中、牙と爪を研ぐ猛獣の方に体の正面を向けて。
纏わりつくような重い気配の中、サンジは一歩踏み出した。





求める結果は同じなのに。
どこかが決定的にすれ違っている二人。

意思の疎通までには程遠いけれど。
詰められた距離、入ってしまった懐の中。色んな事を悟るまではそう遠くはない。





[END]






エロ10のお題5 【配布元:Abandon様】
自ら開かせるように。


昨年のゾロ誕、サン誕企画で、
エロ10のお題に沿ってイラスト、SSを書く、というのをやってたんですが、

Dag en Nachtの流音さんから、こちらのお題でSSをいただけることになっていました。

今回のゾロ誕に合わせて、お忙しい中書き下ろししてくださいました!
ありがとう!!

「自ら開くのは心だよ!足じゃないよ!(爆」
というコメントを頂いております。

ちっ、素直じゃないなぁ(お前


流音さんちのサンジは、可愛くてエロティックなのに男らしくて大好きです。
そんなサンジに振り回されるゾロがまた不憫でねぇ・・・;;

お互いがお互いを探り合ってる緊張感がイイです。
これからぶつかり合う様にして愛を確かめて行くんだね!!



自分で取り組んでるお題なのに自分が何も書かないのもオカシイので、
僭越ながらイラストつけました。

ゾロ誕前の早い時期に提出いただいたのに、
すっかり展示が遅くなってしまったのはひとえにアタクシの遅筆の所為です
スンマセン・・・。