二年経っても変態で。

  

「…あ?それ、マジで?」
夜更けのサニー号。今夜は珍しい面子が揃っていた。フランキーとブルック、それにサンジだ。
三人は大きな水槽を優雅に泳ぐ魚を横目に酒を飲み交わしていた。二年ぶりに集結してからというもの、何かにつけて宴会ばかりだったが、こんな風に静かに飲むのは久しぶりだ。
いい酒手に入れたんだと酒瓶を携えてキッチンに顔を出したフランキーに、サンジは手早く酒の肴を用意した。キッチンでバイオリンの手入れをしていたブルックは、じゃあ私も…と広げていた松脂を片付けた。一番誘いに乗りそうなゾロは、残念なことに今晩は不寝番だ。
ゾロがいないことで、これも珍しいことに猥談に花が咲いた。グラスを傾けながらノースの女は肌のきめが細かくていいと、誰を思い出しながら言ったのか。フランキーの表情はひどく懐かしそうだった。
「おれ自身がやったわけじゃねぇからわかんねぇけどな。酒場のねぇちゃんが言ってたぜ?」
杯を重ねた頃フランキーがサンジに話したネタは、肌のきめ細かさなどとは違い、ひどく下世話なものだった。

『恋人に毛を剃ってもらうと興奮する』

どこの毛か、なんて無論聞くまでもなく、サンジはアンダーつるっつるな緑髪の恋人を想像して、胸の辺りがざわりとするのを感じた。
「あー…剃られるのは嫌ですけど、剃ってさしあげるのは何だかワクワクしますねぇ」
ま、私剃られる毛ないんですけど!
ヨホホホホー!と高笑いをするブルックにサンジも確かに、と小さく頷いた。嫌がるゾロに剃刀を当てて毛を剃り落とす行為はひどく背徳的に感じられて、想像しただけでワクワクする。素直にゾロがそれに応じるとはとても思えなかったけれども。
「だろ?おれも一度やってみてぇとは思うんだが、なかなかそれをよしとする女はいなくてな」
話を聞いていると割と経験豊かそうなフランキーでさえ、やらせてもらえる相手には巡り会えなかったようだ。そうなるとますますやってみたいと思うのは男の性なのかもしれない。
「…おい、コックのにぃちゃん、何考えてやがる」
「…え?」
聞かれて持っていたグラスを置くと、サンジはフランキーに目を移した。そこには呆れ顔の船大工がいる。
そんな顔をされる理由が分からずに何だよ、とサンジが尋ねれば、ひでぇ顔だぜ、と指差される。
「鼻の下が伸びきってる。…まさか『魔獣』ロロノアに試そうってんじゃないだろうな」
サンジとゾロがそういう関係だということは、別にふれて回っている訳ではないが、クルーは察しているようで、二人が籠って出てこなくても深く追求したりはしない。フランキーも、サンジが想像した相手がゾロだと予想がついたのだろう。
「…え?だめ?」
「…だめというか…無理ではないですかねぇ。ゾロさん、多分サンジさんのこと斬りにかかりますよ」
骸骨だというのに妙に表情豊かなブルックが苦笑を浮かべているのに、サンジはやっぱり?と同じく苦笑で返す。サンジだって、ゾロがそんなことあっさりさせてくれるとは、到底思えなかった。ただ、やってみたら楽しいだろうなぁ…と想像しただけで。
「…ま、無理だろうがもし出来たら報告会でも開くか」
人の悪そうな笑顔を浮かべたフランキーに、他人事だと思って!と噛み付けばギャハハと大笑いで肩を叩かれた。まぁ頑張れや!なんて言われたってどう頑張れというのか。
ハハハ…と空笑いを溢しつつ、不寝番の恋人を思いため息をついた。



「ま、これくらいしか方法はねぇよな」
ダイニングテーブルでクルクルとコインを回しながら、サンジは不敵な笑みを浮かべた。コインの横にはゾロお気に入りの米で作ったイーストの酒。しかもとっとき一級品だ。上手にやりくりして貯めたサンジのヘソクリで買ったもので、キッチンの棚の奥に、誰にも見つからないようこっそりしまってあった。何かの折にゾロに飲ませてやろうと思っていたのだけれど。
「…フェアなやり方じゃねぇのは分かってんだけどさ」
指先でピンと高い音を立ててコインを弾き上げる。目の前に落ちてきたコインを軽やかに空中で掴むと、サンジは笑みを深くした。
「ご愁傷さま、ゾロ」
そんな不穏な台詞を知ってか知らずか、キッチンにタイミングよくゾロが入ってきた。
「おいコック、酒…」
扉を開けながら言ったゾロが、テーブルの上の酒瓶をめざとく見つけて目を見開いた。酒瓶のラベルは『新世界』。実は前々からゾロが飲んでみたいと言っていた酒だ。『名酒百選』というお気に入りの本をめくっては高いんだよなぁ…とため息をついているのを、サンジは何度か目にしている。
「これ…っ!」
驚いた表情を隠そうともせずに酒瓶に手を伸ばしたゾロに、待て待てとたしなめてサンジはぱちんと軽くゾロの手をはたいた。
手をはたかれたゾロは不服そうな顔をして、何だよ、と眉間の皺を深くする。
「何だよ、じゃないだろーが。何をさも当たり前のように酒瓶に手を伸ばしてんのかな、マリモちゃんは」
「…っ、み、るくらい別にいいだろ…っ!」
ぐっと詰まった後、別に飲もうとしたわけじゃないと言い訳するゾロが子どもみたいで、思わず飲んでいいよと言いそうになるのを堪える。タダでくれてやるほど安い酒じゃないんだから。
「…飲みたい?」
「…くれるのか…っ?」
パッと表情が明るくなるゾロが可愛くて少し後ろめたく思いつつも、サンジは握っていたコインをゾロに摘まんで見せた。
「?」
首をかしげるゾロに、サンジは満面の笑みを浮かべて条件を出した。
「おれがコイントスするから、どっちの手に持ってるか当てられたらタダでやるよ。その代わり…」
「その代わり?」
「外したらおれのお願い一個聞け。そしたらくれてやる」
サンジの示した提案に、ゾロはきょとんとした顔をする。どちらにせよ飲める条件に驚いたのだろう。
それでいいのか?と聞き返してくるゾロに、もちろんだと頷いて見せる。
「…おれの動体視力、分かってねぇわけじゃねぇよな?」
「あぁ。知ってるぜ」
飛んできた弾丸だって斬り捨てるような男だ。並外れた感覚の持ち主だなんて、言われなくても知っている。
「だったらそのままくれりゃいいじゃねぇか」
自分が負けるなど露ほども思っていないようだ。ゾロの言葉にサンジは笑みを浮かべると、まぁやってみようぜ?とコインをちらつかせる。
「それとも負けんのが怖いとか?ま、それならそれで…」
「んなわけねぇだろうが!!」

乗ってきた…!

サンジは心中ガッツポーズをした。負けず嫌いで勝敗にこだわるゾロのことだ。絶対にちょっとつつけば乗ってくるだろうと思っていたが、ここまであっさりいくとは。
サンジとて勝算なしにこんな話を持ちかけたりしない。
この試合、端からサンジの勝ちが決まっているのだ。
「そうこねぇとな。…んじゃいくぜ?」
よーく見てろよ、マリモちゃん

ピーンッと高い音を立てて、コインがクルクルと回りながら中空を舞う。ゾロの目が真剣にコインを見つめているのが分かる。
サンジの手のひらにコインが吸い込まれるように消えた。
ゾロの勝率は

0%



「どうなってんだよ!納得いかねぇ!お前、絶対ェ何か仕込んでんだろ!」
結果。
サンジの予想通り、ゾロは黒星。二人の戦績ではっきりと勝敗がついたのは初めてかもしれない。
ぎゃんぎゃんと噛みついてくるゾロに、サンジはと頷いてしれっと答えた。
「そうじゃなきゃこんなゲームふっかけねぇよ」
イカサマ前提だ、負けるはずがない。
「なっ…!正々堂々やれよ!ペテン師!」
「何と言われても結構。勝ちは勝ちだし、おれ、ズルしねぇなんて一言も言ってねぇし」
このコイントスはバラティエ時代に年上のレディに習った技だ。港にしばらく停泊する間、何度もお誘いをかけるサンジに、そのレディは件のコイントスで勝てたら、と笑顔でサンジに言った。もちろんゾロ同様サンジも、何回やっても勝てなかった。港を離れる日、最後に種明かしをしてキスをしてくれた彼女は素敵だったな…とサンジは思い出して頬を緩めた。
「…何をニヤついてやがる」
「…いや、別に!」
するどく突っ込まれたサンジは慌てて表情を取り繕って手をバタつかせると、テーブルの上の酒瓶をゾロに差し出した。
「もちろん男に二言はないよなぁ、ゾロ」
サンジの言葉にゾロは悔しそうに顔を歪めると、乱暴に瓶を引っ掴んでサンジをぎろりと睨み付けた。
「わぁったよ!テメェの汚ぇやり口は気に入らねぇが約束しちまったもんはしょうがねぇ」
何でも言うこと聞いてやらぁ!
盛大に啖呵を切ったゾロが後悔するのはその日の晩になってからだ。



酒によく合うつまみを持ってサンジが上にあがると、至極機嫌の悪そうな顔をしたゾロが件の酒瓶を携えて待ち構えていた。男に二言はない!と言い切ったその言葉に嘘はなかったようだ。
逃げなかったんだ?と聞いたサンジに、ゾロは眉間の皺をますます深くすると当たり前だ…と小さく呟いた。
「ま、まずは飲もうぜ?」
話はそれからだ、とサンジが笑いながらつまみを差し出したのを見て、ゾロはわずかに表情を緩めると無言でサンジに酒瓶を手渡した。
酒と一緒に揃いで用意した猪口は青い硝子製で、表面には細かくカッティングがされている。初めて見たと言ったサンジに、店主はイーストで有名な『切り子細工』だと教えてくれた。
サンジがグラスを差し出すと、ゾロは驚いたように目を軽く見開いた。
「切り子じゃねぇか。わざわざ買ったのか」
「やっぱ知ってんのか。いい酒飲むならいい器からだろ」
栓を開けて並々と酒を注いでやれば、嬉しそうに顔をほころばせる。無邪気な表情が魅力的で、サンジは思わず生唾を飲み込んだ。
今すぐにでもむしゃぶりつきたい衝動を抑え込む。今日はあの目的を達成させねば。
「じゃ、乾杯」
「ん」
かちんと澄んだ音で硝子が触れあう。ちびりと口をつけたサンジとは相反して、ゾロはくっと一息で杯を空けた。
「てめぇもったいねぇな!味わって飲めよ!」
「うまい。十分味わってるから黙ってろ」
言われて改めてゾロの顔を見ればひどく満足そうで、サンジはふんとひとつ息を吐いた。空いた猪口にもう一度酒を注げば、今度は味わうように表面をペロリと舐める。その舌でおれのも舐めて…なんて言えないけれど。
「てめぇに飲ますには上等すぎんな」
「あ?何だと、マリモちゃん」
ゾロの言葉にかちんと来て噛みつくと、ゾロはニヤリと笑って唇についた酒まで惜しむように舐める。
「てめぇすぐに酒にのまれておちちまうからな。酒の味は分かるのかも知れねぇがいい酒飲ますのはもったいねぇ」
また一息に酒を煽る。サンジから見れば、ゾロの方がよほどもったいない飲み方をしているように見えた。
「こら、つまみも食え」
今日釣ったばかりの蛸で作ったタコワサを差し出すと、一口つまみ、うめぇと嬉しそうに笑う。
そんな顔をされると、もうあの目標もどうでもいい気がしてきた。ゾロの嬉しそうな顔を見られただけで十分じゃないか。何を欲張ることがある。下種い欲望なんて別に…
「で?てめぇのお願いってのは何なんだ?」
「…あー…」
ま、そうなるよな。
サンジは整った指先で頬をかくと、苦笑を浮かべた。あとちょっとで改心するとこだったのに。
惜しかったなぁ、ゾロ。
内心そんなことを思いながら、サンジはネクタイをスルリと外した。
「?」
その行動の意味が分からずに首を傾げたゾロの両手をすばやく頭の後ろで纏めると、サンジは手早く手にしていたネクタイでゾロの手をひとつに縛り上げた。
「なっ!?」
「いや、お前が約束破るだなんて思わねぇけどさ。嫌がるのは目に見えてるから、対策?」
にへらと笑えばゾロの眉間の皺が深くなり、サンジは軽く汗を浮かべた。この段階でこれでは実際事に及べばどうなることやら。先が思いやられる。
「…てめぇの頼みなんてろくなもんじゃねぇだろうとは思っちゃいたが…結局シモ系か」
呆れたように言われてサンジはムッとして顔をしかめた。その言い方ではまるで自分がそんなことばかり考えているかのようではないか。…実際 そうなのだけれども。
「んな言い方しなくてもいいだろーが」
とは言え、ゾロの言い分を認めるわけにはいかないので反論しつつ、サンジはかちゃかちゃと音を立ててゾロのベルトを外しにかかる。ゾロはその様子を呆れたように見下ろしている。
下着とズボンをいっしょくたにして脱がせ、満足そうにふぅと息を吐いたサンジに、ゾロは怪訝な顔をした。
「…結局何がしてぇんだ、てめぇは。おれのズボン脱がせて」
んなこといつも勝手にやってんだろうが
呆れたように言ったゾロに、ちっちっとサンジは指を振って見せると、スーツの胸ポケットから用意しておいた剃刀を、ズボンの後ろポケットからシェービングムースを取り出した。普段サンジが髭を整えるのに使っているものだ。
「…?」
「大人しくしててくれよ?怪我させたくねぇからな」
小首を傾げるゾロに笑顔を向けて、サンジはあらわになっているゾロの股間に直接ムースをかけた。じゅわっと音を立てて、泡がゾロの若草色の陰毛を隠す。
「なっ…!?」
「今日のおれのお願い、分かった?」
剃毛プレイ
満面の笑みで言ったサンジを、恥ずかしさからか赤みの差した顔で信じられないと言わんばかりにゾロが見ている。その顔を見ただけで妙に興奮してしまい、サンジは自分の下腹部がじわりと熱くなるのを感じた。
「ふ、ふ…」
「ふ?」
「…ざけんな…っ!!な、何が…もうプレイだっ!」
口にするのも恥ずかしいわけね、とサンジが言えば、当たり前だ!と怒鳴り返され、サンジは声を立てて笑った。こういうたまに見せるうぶなところがまたそそるのだとゾロは分かっているのだろうか。
「だけどよー、約束は約束だろ?」
「…っ」
剃刀をちらつかせながらサンジが言うと、ゾロは顔を引きつらせて言葉に詰まる。『約束』という言葉にゾロがめっぽう弱いのは分かっている。一度決めたら揺るがないのがゾロの漢気であり信条なのだ。
「じゃ、いいよな」
ニッコリ笑って訊ねれば、それ以上は何も言わずに、ゾロは顔を横へ背けた。イエスと言うだけの余裕はないのだろう。
サンジはその仕草を同意と捉えることにして、剃刀の刃にかけてあるカバーを外した。
「動くなよー」
頭の後ろに纏めた拳をぎゅっと握りしめているのが見えて、サンジは笑みを溢した。そんなに嫌なら蹴り倒してでも逃げればいいのに。律儀な男だ。
ゾロの下腹部に剃刀を当てる。妙な快感がある。征服欲が満たされるような不思議な感覚だった。
毛を削ぎ落とす独特の音が夜の静寂に広がる。ポケットからチーフを取り出して、剃刀についた泡を拭い取る。
剃刀をスライドさせた部分は泡が消えて、日に焼けていない、だが健やかなつるりとした肌が露になった。
「こりゃ…確かに…」
ぞくりと背中を走る感覚に、サンジは口角をやんわりと上げた。思っていた以上に興奮する。普段隠れている部分を自分の手でさらけ出させるというのは、今までにない感覚をサンジにもたらした。
「…んまりジロジロ見るんじゃねぇ…っ!」
言われて顔を上げると、相変わらず顔を横へそらしたままのゾロがぎゅっと目をつぶって顔を真っ赤にしている。どうやらそうとう恥ずかしいらしい。こんなゾロも初めて見る。新鮮だった。
「見るにきまってんじゃん。そのためにやってんだから」
にっこり笑いかけてやれば、薄目を開けたゾロの顔が悔しそうに歪む。あんな賭けをしたことをひどく後悔しているに違いない。そう思うと、してやったり、とサンジは笑みが浮かぶのを止められなかった。
一度目とは違う所に刃を当てて、また下へとスライドさせる。繰り返せば、次第にゾロのそこを覆っていた繁みは影もなくなり、つるりとした皮膚だけが残った。
「おぉー…綺麗に剃れた」
「てめぇが剃ったんだろうが!」
ヒステリックに怒鳴るゾロに笑いながら、サンジは毛のなくなったそこにぴたりと頬をつけてみた。滑らかな肌の感触の向こうに、とくんとくんと脈打つ音が聞こえる。
「な…にして…」
「ん?頬擦り。だってつるっつるで気持ちよさそうなんだもん」
「ひ…髭が当たってちくちくするから…やめろ…っ」
腰を捻って逃げ出そうとするので、わざと髭をこすり付けてやる。
「…ん?嫌なんじゃねぇの?」
ぴくんと反応したゾロのものを見て笑い含みでサンジが言えば、ゾロはうるさいっ!と子供のように怒った。
毛のないそこにちゅっちゅっと音を立ててキスをして、ぺろりと舐めあげる。それに応えるように身体を跳ねさせるゾロがひどく愛しい。
「ちょっと罪悪感だな、これ。子どもに手ぇ出してるみてぇ」
「…バカか…っ」
「あぁ、どうせバカですよ、おれは。つるんつるんのゾロにこんなに興奮しちまう変態の、な」
太ももにぐっと硬くきざしたものを押し当てればゾロの頬に朱が掃く。たまらなかった。ズボンの前を緩めてそこへ擦り付けると、先走りでぬるりと滑り、サンジははっと小さく息を吐いた。
「…っとに変態だ…っ!二年経っても変わりゃしねぇ…っ」
そういいながらも、ゾロも反応しているのだから人の事を言えた身か、と思ったが口には出さなかった。そんなことよりも、このこどものような愛くるしい、だがとてつもなくいやらしい身体を早くかき抱きたかった。
「変態上等。こんなん、興奮すんのはテメェだからだろ」
小さく呟けば、バカか…とまた繰り返したゾロの顔が少し嬉しそうにほころんだのを、無論サンジが見逃したはずはなかった。



「は?マジか…?」
「おぅ。報告会つったのはそっちだろーが」
酒の入ったグラスを揺らしながら笑ったサンジに、そりゃそうだが…とフランキーは呆れたように苦笑を浮かべた。まさか本当にやるとは。驚き以外の何を感じろというのか。
「いやぁ…まさかサンジさんが本当に試してみるとは思いませんでしたねぇ。…ん?ということは、ゾロさん今、パイパ…」
「想像するじゃねぇよ」
すぱんと後ろから頭をはたくとブルックは、よほほほほーっと楽しそうに笑った。
「で?どうだったんだ、実際のところ」
「ありゃ一回やってみる価値はあんな。ハマるぜ、正直」
征服欲が満たされるっつうか
グラスを傾けながらそう言えば、フランキーてブルックはほほぉ…と興味深げに声を漏らしたあと、顔を見合わせて苦笑を浮かべた。
「…何だよ」
微妙な顔をした二人にサンジが尋ねると、フランキーは小さく笑った。
「いや、試してみてぇとは思うが、実際その状況まで持ってくのがしんどいだろうな、と思ってよ」
「そうなんですよ。サンジさん、一体どうやってゾロさんを説き伏せたんです」
首を傾げて不思議そうに聞いてくるブルックに、サンジは曖昧な笑顔でまぁな…と言葉を濁した。まさか酒で釣ってペテンでだまくらかして…とは言えまい。これはゾロだから使える技であって、女性相手には通用しない。
それに。
「ま、ポイントは相手選びだろうな」
「え?」
サンジの言葉に二人が声を重ねて聞き返してくるのを可笑しく思いながら、サンジは自分が感じた相手の条件を小さな声で呟いた。
「マゾっ気があるやつ限定だ。じゃねぇと相手側が盛り上がらねぇから面白くねぇよ、ありゃ」
「ゾロさんが…」
「マゾっ気…か…?」
理解できないと言わんばかりに眉間に皺を寄せたフランキーに、サンジは声をたてて笑った。
ゾロのような隠れMは確かに端から見ても分からないかもしれない。
「後は今後に期待…ってとこか?」
ハマったのはおれか、それともゾロの方か
「またやるつもりか、兄ちゃんよぅ」
「ん?まぁ…今度はおれが仕掛けなくても向こうから来るさ」
「はぁ!?」
驚きに立ち上がったフランキーに、サンジはにやりと口元に笑みを浮かべると、まぁ見てろ、と一言呟いた。



それから一週間。
サンジはゾロに何のモーションも掛けないままに静かに日常を過ごした。それこそキス一つせず。
ゾロが焦れるのをじっと待った。飢えた獣が罠に掛かるのを待つように、じぃっと。
「どうだい、塩梅は」
「ん?ま、あと一息ってとこかな。ほら、見てみろよ」
様子はどうだと寄ってきたフランキーに、サンジは芝生の上にいるゾロを顎でしゃくった。
サンジに言われるままにフランキーがそちらに目をやると、ゾロは錘を構えたままの姿勢で、ぼんやりとしている。いつものように威勢よく振る気配もなく、何か考え込んでいる風だ。
「…何やってんだ、ありゃ」
不思議そうに首を傾げたフランキーに、サンジは笑いを溢した。
「…伸びてきた毛が刺さるんだと思うんだよなぁ」
「あぁ…なるほどな。それが気になってアレか」
サンジの言葉にフランキーが可笑しそうに笑った。
「自分で剃るとも思えねぇし。我慢するか、言ってくるか」
ここが勝負所だと言ったサンジにフランキーは肩を竦めた。


その夜。サンジのもとを訪れたゾロがひどく不服そうな表情を浮かべながら剃刀を差し出したことは、フランキーもブルックも知るところではない。



End



君といるための100の方法 まかろんさまよりいただきましたvv

拙宅絵茶に参加してくださった際に、何故かゾロの剃毛の話になったのですが、
(もう前後の経緯とかわっかりましぇん。
 忘れてるというよりいつも突拍子も無いもんで)

何でかしら、もうまかろんさんたら書く気満々で(ホントですよ)

出来上がったという一報いただいて、さっそく拝読して、もう、なんだこりゃ!ww

すっげぇ萌えるのにぐふぐふという笑いが止まらない、
とっても素敵な作品にしてくださいましたww

だってゾロってばあいつ!
カッコつけてても実はパイパンなんだぜ!

もういろんなところでゾロを見るたびに
「ぐふふ、でもあいつってば・・・w」
とニヤニヤする怪しい人になってしまいましたww

・・・というか、ねぇ、これ本当にこんなタイトルでイイの・・・?


まかろんさん、素敵な作品をありがとうございました!!