夕飯の後、みんなでお茶を飲んでいるときだった。
給仕をしているサンジに何気なくナミが聞いた。
「ねえ、サンジくん」
「なんだい、ナミさん」
「あんたとゾロ、寝るときどっちが下なわけ?」
ウソップのあごががぼーんと外れ、サンジが手にしていたポットを取り落としかける。
ゾロが口に入れていたお茶をぶーと吹き、チョッパーはぽかんとナミを見た。
「な、ナミさんッ何を言ってるんだよ、正常位とか騎乗位とかそういうこと?!
そ、それともタチかネコかって話?!おおお、俺等そんな関係じゃないよ!」
サンジが大層取り乱して答え、ロビンが、あらあら、と口を押さえて笑う。
誰もそんなこと聞いてねーよ、何墓穴を掘ってんだ、とゾロは苦々しく聞いていた。
「何言ってるのよ、男部屋は二段ベッドみたいな感じなんでしょ?
眠るときどっちが下で寝るのって聞いたのよ」
ナミはにっこりと笑ったが、目が笑っていない。
明らかにそういうことを聞き出そうとして訊いている。
サンジは、ああ、そういう話なら、と答える。
「俺が下だよ。朝飯の支度で早いからな。起こしちゃ悪いだろ」
「へええぇぇぇ、優しいのね、サンジくんて」
ナミの笑顔に黒いものがよぎる。
一同背筋に寒いものを感じたが、ルフィだけは動じずに鼻をほじっていた。
「で、眠るときは下、てことは、セックスのときにはサンジくんが上なわけ?」
「ななななな、ナミさんッッ、だから俺らはそんな関係じゃないって」
「なー、ナミ、その辺で勘弁しといてやれよー」
気のなさそうにウソップが口を挟む。
「プライベートな問題じゃん。そっとしておいてやれよー、
二人ともその辺のところは隠しておきたいんだろうからさー」
口を挟まれたナミがぎっとウソップを睨んだ。
「だまんなさい、ウソップ!女部屋は格納庫のすぐそばなのよッ!
ほっとんど毎日のように悩ましげな男の喘ぎ声が聞こえるわけよっ!
さすがに誰の声だかまではわかんないけど、こいつら二人のどっちかなのは明らかでしょ!?
あたしたち安眠を妨害されてるんだから、どっちがどっちなのかくらい知って
弱みを握っておきたいじゃないの!!」
「強請んのかよ!?」
ウソップのツッコミにもナミは怯まない。
「あんたたちはどっちがタチでどっちがネコなのか、知りたくないの?!」
一気にまくし立て、ナミはハアハアと肩で息をした。
ウソップは、うっと息を詰めて固まってしまった。
ルフィが鼻をほじりながらこれまた気のなさそうに言う。
「知りたいも知りたくないもなぁ、ウソップー。」
「?」
「俺ら知ってるもんなー」
「なんだと─────!!」
サンジがルフィに詰め寄り、胸倉を掴んでまくし立てた。
「なんでお前らが知ってんだよ、どういうことだよ、
バレないようにうまくやってたつもりだったのに!!」
「あのなー、お前らが見境なく盛ってるから見ちまうんだろうが」
「みみみ、見境なく〜?!」
「─────だから言ったんだ、バカ眉毛」
ゾロの低い声が響いた。
「てめえは所構わず盛るんじゃねえって、何度も言ったろうが。
昨日が甲板、一昨日が見張り台、その前がキッチンで、そのまた前がまた甲板、
だいたい4回中3回がアオカンじゃねえか!」
「このアホまりも、レディの前でアオカン言うな!
月明かりの下での愛の交歓とか、せめて屋外セックスと言え!」
「バカか、てめえは!どう言い繕ったってアオカンはアオカンだ!」
「うるっさいッ!!」
ナミが一喝するが、ルフィが構わずのんびりと問題点を二人に指摘する。
「お前ら自分以外のヤツが見張りのときに甲板でヤるなよな〜、丸見えだろが」
「ああっ、そうか!」
「だからてめえはアホだっつってんだ!」
アホ呼ばわりされたサンジが眉間に青スジを立ててキレた。
「お前のほうこそ時間を選ばねえじゃねえかよ!
朝っからだったり真昼間からだったり!
俺は場所は選ばねえけど時間は夜と決めてんぞ!」
自慢になるか。
「仕方がねえだろうが、てめえが忙しそうにしてっから、
ヒマを見つけたら襲うようにしてんだよ!」
「お、お前はケダモノかッ」
「うるっっさいッッ!!」
ゾロとサンジの双方に鉄拳が落ち、ようやくキッチンに静けさが戻った。
チョッパーはぽかんと成り行きを見ていたが、一同が静かになったのを待って口を開いた。
「あー、ゾロとサンジのあれか!あれは野生の動物にもよく見られるものなんだ。
オス同士で力関係を誇示するためとかな。ただ二人の珍しいところは─────」
「頼むよー、チョッパー、蒸し返さないでくれよー」
ウソップがチョッパーの口を塞いで泣いた。
しらっとした雰囲気の中、もう半分どうでも良くなってしまったのだけれど、
どっちがどっちなのかを聞き逃していたことにナミは気づいた。
騒ぎのあいだずっと微笑んで見守っていたロビンにそっと聞いてみた。
「ねえ、ロビン、あなたあの二人のどっちがどっちだか知ってるの?」
ロビンはオトナの女性を思わせる笑顔を湛えて言った。
「知ってるわ」
どっちなの?と問うナミに、
「でも航海士さん、知らないほうがいいことってあるのよ」
ふふ、と含み笑いをする。
ナミはその言葉に薄ら寒いものを感じ、そうね、と苦笑いをして会話を切った。
ナミは甲板を吹き抜ける風を感じながら思った。
そうだ、あんな恥知らずどもはもうどうでもいい。
せめてあいつらが決まった時間に、人目につかない場所で
コトに及んでくれることを祈るばかりだ。
END
「アオカン」という言葉をゾロに言わせたかった。
ただそんだけ。(えー?)
どっちが受なのかは芳賀も知りません
2008.2.21