キス・キス・キス




サンジはキス魔だ。

船上でさしたる理由もなく始まった宴会は、ひとり、ふたりと酔いつぶれてゆき、
なし崩しにお開きとなっていった。
自身も相当きこし召しているサンジが、おやすみ良い夢を〜、などと言いながら、
クルーひとりひとりの額と言わず頬と言わずキスをして、毛布にくるんで部屋へと運んでいた。

素面のときでもレディ相手にはキスをしたがるサンジだが、酒が入ると誰彼かまわずキスをし始める。
男でもトナカイでも頓着なし。
普段は喧嘩ばかりのゾロも例外ではない。

かなりの酒豪であるゾロは、ほとんど酔っ払っていなかったしもちろん起きていた。
自分たち二人以外の全員を部屋へと運び終えると、サンジが毛布を持ってゾロの元へと寄ってきた。

「ぞぉろー、おやすみぃ、・・・なんだー、起きてんじゃねえか〜」
呂律もかなり怪しい。
みーんな寝ちまったよー、俺らだけだぁー、うひゃひゃと笑う。

「てめえ、飲みすぎじゃねえのか、もう寝ろよ、」
ゾロが言うと、サンジは目を細めて、
「んー、じゃ、おやすみのキスー」
と言って顔を寄せた。

酔っ払いが、しょうがねえな、と頬か額へのそれを予想していたら、
濡れた感触が当たったのは唇だった。
「─────!!」

サンジの舌が上唇の輪郭をなぞり、さらに口内へもぐりこもうと合わせ目をつつく。
その壮絶なくすぐったさにゾロの背中がざわざわと総毛立った。
何しやがる、と抗議しようと口を開いた瞬間、舌が性急に入り込んだ。

そのまま滑らかな歯の表面をひとつひとつ確かめるように辿ったあと、歯茎に触れた。
その一種切ないような気色が悪いような感覚は、ゾロの背中を下りてゆき腰まで達した。
並びの良い歯の隙間から上あごの内側を舌先でつつかれて、
足の間の器官が芯を持ち熱を帯びたのが分かって、ゾロは激しく動揺した。

コ、コレはセクハラだ!
こいつ、誰にでもこんなことしてやがんのか!?

誰にでも、と考えてゾロは怖ろしいことに思い当たった。
サンジが他のクルーにしていたキスは額か頬。
唇に、しかも舌を絡めるほどのキスをしているのは自分にだけだ。

その意味に気づいて、ゾロはサンジから逃れようと身を捩った。
男のキスに感じて下腹部が反応しているのを知られるのはかなりマズイと直感が告げた。

けれどサンジは何かを隠そうとするその動きを見逃さず、ゾロの足の間に手を伸ばし
衣服の上から触れた。

「ゾロ、こんなになっちゃってんじゃん、」

サンジは目を細めて嬉しそうに笑った。いつもの皮肉っぽい、揶揄の混じったような笑みではなかった。
意地悪く焦らすようにゾロのものの形をなぞりながらサンジが訊いた。

「なぁ、やらせてくんねぇ?絶対気持ちよくさせてやるからさあ」
「─────な、何」

止せ、というゾロの制止の声も聞かず、サンジはゾロのズボンと下着の前を寛げさせて、
取り出したものを無造作に口に含んだ。

サンジの口の中は熱くて、それだけでもう気持ちが良くて達してしまいそうだった。
キスと同じくサンジの舌は巧みで、裏スジを舐め上げくびれの部分を扱くように吸う。
手淫とは比べ物にならない心地よさだった。
声を上げないようにするだけで精一杯で、ロクに抵抗も出来ない。

腹の辺りで揺れる金髪を掴みサンジの顔を見た。
とんでもなく淫らなことをしているのに、真摯な表情だった。
ああ、そうか、コイツは俺を味わっているのか、とゾロは思った。
職業柄か舌で確かめずにはいられないのだろう。
俺は食いモンじゃねぇぞ、と心の中で突っ込んだのが最後の理性で、
あとは翻弄されるままにサンジの口中に吐精した。

嚥下する喉もとを信じられない思いで見つめながら訊いた。
「マズイだろうが」
「んー、でもホラ、ちゃんと味わっておかないと」
身体を起こし、口の端から零れた分を手で拭い、へらっと笑う。

「何でこんなことすんだよ、」
息が上がったまま問いただすと、サンジは当然のように答えた。
「お前が好きだから」

「はあ・・・?」
「だからどんなモンか知りたかったんだよ」

サンジは照れ隠しなのか、少し目を伏せた。

「てめえ、相当酔ってんだろ、飲みすぎだ」
「うん、俺飲みすぎー」

酔っ払いらしく前後に頼りなくゆらゆらと揺れながら、でもさ、と続ける。
「酒の力を借りないと出来ねえこともあんだよ」

長い前髪の下の口元は笑っているけれど、指が小刻みに震えているのが見えた。
酒の勢いを借りても、大胆な行為の裏側に不安を隠していたと知る。

「てめえはやんなくていいのか、」
「んー俺は無理ー、飲みすぎで勃たねぇもん」

残念そうに言うサンジの顔はいつもより少し幼げで、無防備な感じがした。
自分だってお前のことは嫌いじゃない、むしろ好きだ。
だが酔ってもいない頭ではそう口に出すことは出来ず、抱きしめることも出来ない。

酔うことの出来るサンジがうらやましかった。
ゾロは酒の力を借りることも出来ず、自分の言葉で伝えるしかなかった。

「お前さ、飲みすぎで味覚も狂っちまってるだろ」
「えー?」

「それじゃわかんなかっただろうが。今度は素面で仕掛けて来い。そんでちゃんと俺を味わえ」
「へ・・・」

夜目に濃い青の瞳を見開いたサンジは、気の抜けたアホ面をしていた。
アルコール漬けの頭がようやく意味を理解したらしく、いいの?と訊く。
ああ、と答えると、サンジは今日何度目かの笑みを浮かべた。

「うん、そうする」





サンジが持ってきた毛布に二人で包まって男部屋まで歩いた。
狭いだの歩きづらいだのとお互いに文句を言い、小突きあいながら歩いた。
部屋に入るとサンジが毛布から抜け出て、小さめの明かりを残して照明を落とした。

床に入ったゾロのほうへ戻ってくると、今度こそおやすみ、と言って、
ゾロの額に、今度こそ、サンジは触れるだけのキスをした。





END




2008.2.1

酔って帰って殴り書き
甘い