入ってくるなと言ったのに



一戦を交えた後で、身支度を始めたサンジに問う。

「なぁコック、今度俺にヤらせてくんねぇか、」
「へ?」

鳩が豆鉄砲を食らったような、とよく言うけれど、
このときのサンジのアホ面はまさにそれだった。

「何言ってんの、マリモちゃん。お前が俺を?」
「おう」
「─────抱けんの?」

「わかんねえ。けどヤりてえ」

サンジのアゴが半分落ちかけた。
無理もない。
後ろからサンジを受け入れ散々に啼かされて、
ホンの少し前にようやく達したばかりなのだから。

自分で処理するよりは気持ちがいいからと、興味本位で始めた関係だった。
初めは互いのものを擦りあうだけだったのに、
気がついたらサンジが上に乗っかっていた。

サンジは愛撫が上手だった。

男は初めてなんだよね〜、などと言いながらゾロの身体をアレコレし、
へぇ、そうなの、ここ気持ちいいんだ?
と、反応を見ながら、実に楽しそうに感じるポイントを暴いていった。

怖かったのは最初のうちだけだ。
身体も心も慣らされて、これもアリかと感覚が麻痺させられていく。

けれど今日、自分の上で腰を振るサンジが
気持ちよさそうに、ああ、と声を上げた瞬間、
ゾロは唐突に、コイツを啼かせてみたい、と思ったのだ。


「ダメ」

取り付く島も無く、サンジが首を横に振った。

「───おい、ダメ、って話があるかよ、」
「ダメなモンはダメ。絶対ダメ」

相変わらずビックリしたような顔で、サンジは首を横に振る。
そんなことは有り得ない。
サンジの表情はそう語っていた。

───有り得ないって、どういうことだよ。

ゾロは少し腹が立ち始めていた。
突っ込むのは良くて突っ込まれるのは嫌だってのはどういう了見だ。

「ダメダメ。ぜーってぇダメ。俺ン中に入ってくんな」
「おい、てめぇふざけんな、どういうことだよそりゃ」

「ダメなんだってば」

サンジが奇妙な形の眉尻をさらに奇妙にへにょりと歪める。

貞操観念などもとから持ち合わせちゃいない。
男同士で関係することも、船乗りの間では多々あることで、
そこに格別抵抗はない。

けれど、男の自分が脚を開いて身体を委ね、
サンジの善い様に身体を変えられてゆく、そこに
男として全く屈辱を感じないわけではないのだ。

ゾロは憤然としてサンジに訊いた。

「そんなに俺にヤられるのが嫌かよ。」
「そうじゃねぇんだ。嫌なんじゃねぇ。」

絞り出すような声でサンジは繰り返す。

「ダメなんだ。」

嫌、じゃなくて、ダメ。
サンジはただただ困った顔で首を横に振る。

ワケ分かんねぇよ。とゾロは呟く。
サンジの顔が泣きだしそうに歪んでいるのを見て、ゾロはため息をついた。

そんなに嫌なら仕方ない。
無理矢理にはしたくないのだ。
気持ち良くさせて、自分に縋ってイクところが見たいのだから。

無理矢理にはしたくないけど、諦められない。

「そんなに嫌ならいい。」
「・・・嫌なんじゃねぇんだよ、」

ダメなんだ、とサンジは馬鹿みたいに繰り返す。

「けど俺はお前を抱きたいから。」
「・・・・・」
「俺は何度でも誘うから」

固まってしまったサンジを真っ直ぐに見つめながら、
素っ裸のまんまで、ゾロはキッパリと宣言した。





二人の間の空気が違っていることに、
聡い女性陣はすぐに気づいた。

「また、なんだかおかしな喧嘩の仕方をしてるのね」
呆れたようにナミが言う。

「どっちが原因か知らないけど、早めに仲直りしちゃいなさいよ?
 あんたたちが静かだと、なんだか気持ち悪いわ」

はは、とサンジが気のない笑いを返す。
ゾロの態度は変わらない。いや、むしろ少しだけ以前より友好的ですらある。
ふとした折に、さりげなくサンジに触れるのだ。

すれ違いざまに肩に触れる。
通りすがりに腰に。
頬に、腕に、首筋に。

周囲がその意味に気づくほど長い時間ではない。
それは、サンジがゾロを欲しがるときの誘い方だった。
もちろんサンジは意味を知っている。
知っているからこそ、その度に、唇を噛み締めて身を硬くする。

「形勢逆転、てとこかしら?」
ロビンが独り言のように言って笑った。

何もかも見透かしたような口調に、サンジはいたたまれない。






その日は見張りの当番はゾロだった。
他のクルーが眠りにつく頃、夜食を持ったサンジが見張り台へと上がってきた。
いつもならそのまま肌を合わせてしまうパターンだ。

相手とどんな状況にあっても、自分の仕事だけはキッチリと果たす。
サンジのそんなプロ意識は実際大したものだとゾロは思う。

「ゾロ、夜食」

バスケットの中身をゾロへ向かって突き出す。
ゾロは受け取るときに、わざとサンジの指先に触れた。
小刻みに震えていた。

ばつが悪そうに笑って、サンジはゾロの横に腰を下ろした。

ゾロが食べている間、サンジは黙って横に座っていた。
俯き加減の顔の表情は、長い前髪に隠れてよく見えない。
吸ってもいいか、と訊くので頷いた。

精神安定剤のようなものなのだろう。
火のついた煙草をそれほど吸うでもなく、手に持ったまま俯いていた。
その手の震えを抑えようとするかのように、もう一方の手が、きつく手首を握っていた。


この場所に来た、というだけでも相当な覚悟なのだろう。
やっぱり嫌なんだな、とゾロは思った。
諦めるつもりは無いけれど、今日はまだムリそうだ。

「ごっそさん」
箸を揃えて置き、両手を合わせる。
おう、とサンジが答え、少しの間沈黙が流れた。





アレ以来、セックスをしていない。
いつもどおりで構わないから、したかった。
どちら側でもいいから、サンジに触れたい。

どう誘おうかと少ない語彙から言葉を探しているうちに、
サンジが意を決したように顔を上げ、ゾロに向かって言った。

「・・・なぁ、ゾロ。お前、本当に俺を抱きてぇの?」

物凄く悲壮な顔をしていた。
いつもの小憎らしい余裕たっぷりの表情からは想像もつかない。

「ああ、だが嫌ならいい─────」
「嫌じゃねえよ」

嫌だなんて一言も言ってねぇよ。
そこだけキッパリと言って、サンジは目を逸らした。

「俺、お前がすんげぇ好きで。
 頭ン中いっぱいなんだよ」

「へぇ・・・」

すごい告白にゾロは間抜けな返答をしてしまった。
なんだ、知らなかった。
女のことで一杯なんじゃねえのか・・・。

「今でさえ俺ン中お前でいっぱいなのに」

「身体ン中まで入って来られちまったら」

「何か溢れて出る」



「・・・アホ。」

アホとは何だぁ、アホとはぁッ!と途端にサンジが切れる。
本当にコイツはアホだ。
あのぐるぐるした眉毛でそんなことをぐるぐる考えてやがったのか。

「出るのはザーメンぐらいだ。もし他に何か出たら
 俺が代わりに色々入れてやる」

「ザ・・・て、てめぇ。色々って何を」

「いつもの俺がどんなだか、てめえも思い知れ」

絶句したサンジに、ゾロが半ば強引に口付ける。
いいよな、と訊くと、しばらくしてサンジが小さく頷いた。

「拡声器のスイッチ、オフになってるよな・・・」
「ああ」

「声、絶対に連中に聞かれたくないし」
「アホ」



「聞かせねえよ」







ローションをたっぷりと絡めて、指を突っ込む。
息を呑むサンジには構わず、内部を探ってゆく。

中に感じるポイントがあるのは、自分の身体で知っている。
確か、このへん。

焦らすようなことはせずに早々に探り当てると、
サンジの身体が大きく跳ねた。
「・・・ッ、」

萎えたままだったペニスが、くん、と軽く芯を持ち、首をもたげた。
ゾロはすかさず咥え、唇と舌でぐにぐにと揉むように刺激した。

少しずつ硬度を増すサンジのものを口中に感じると、受け入れたくて尻が疼く。
俺も終わってんなぁ、と思いながら愛撫を続ける。

「んあ、ゾロ、・・・怖ぇ、怖えよ・・・」

サンジが涙目で訴える。
刺激を続けながら、なだめるように声を掛けた。

「大丈夫だ、お前の中にいるの、俺だから」

指が締め付けられる。
恥ずかしがっているのがちょっと可愛らしい。

「今、挿れるから。」

解れたのを見計らって指を引き抜き、ゾロは自身を入り口に当てた。
サンジの呼吸に合わせて、少しずつ進入してゆく。
あ、あ、と切なげな声が漏れる。

全部入ったぞ、と告げるとサンジが下腹に手を伸ばした。
自分で扱こうとしているのかと思ったが、ちょっと違った。
意図に気づいて、ゾロはその手を掴んで導いた。

「ホラ」

確かに、俺だから。
お前の中にいるの、俺だから。

繋がった部分を確かめ、サンジはきつく目を閉じた。
ゾロ自身も締め付けられて、気持ち良さに声が漏れる。

「入って、くんな、って、言ったのに、」

苦しい息の下、途切れ途切れに喘ぎまじりに。

「も、離れ、らんねぇ、よ・・・」










溢れて出たのは。










END.





2008.11.10

もの凄く久々のSSです。
リバは去年のサン誕以来?
すごく好きなのに!書きたいのに!ムズカシかった〜!!

かなり甘めとなりました。
一周年の記念作品。

2008.11.10(うぉい!)

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