不変的日常






「サンジ君、片付けくらい私たちにさせて」
「そうよ、コックさん、お誕生日くらい休んでいて」

嬉しい申し出をしてくれるレディ二人に、謹んでご辞退申し上げる。

「いいんだ、これが俺の仕事だからさ。
 寝不足は美容に良くないよ、二人とも。
 ここはいいから、ね、また明日」

でも、と言い募る二人の背を押してキッチンから追い出す。
「ホント、ありがと。おやすみ」
ちょっと悔しそうな笑顔を見せて女部屋へと向かう二人を見送って、
俺はキッチンのドアを閉めた。

自分の誕生日だろうが関係ない。
宴の後の片付けまでがコックである俺の仕事だ。

消えていくラウンジの灯り、寝室の話し声。
音を立てないように皿を洗い、簡単な明日の下ごしらえをする。

そんな俺の後姿をじっと見ている緑髪の男。
変わらない日常。





一仕事終え、タオルで手を拭く頃合を見計らってゾロが俺の腰に手を回してくる。
「おい、この後いいか、」

このタイミングが一番断られにくいと知っているのだ。
もう少し早いと、がっつくな馬鹿、と蹴られ、もう少し遅いと、だりぃからまたな、
と言われることが多いからだ。

先に触れられてしまうと火がついちまう。
いい加減回数を重ねて開発されまくった身体は、少しの愛撫でも簡単に開くし、
挿れられて感じさえする。

事実、わき腹の辺りを撫でさすられて、下腹が反応しかけていた。
「しようがねえなぁ」
と笑って自分の服に手を掛ける。

ゾロも嬉しそうに少し笑って、俺が服を脱ぐのを手伝う。
変わらない日常。





抱かせろ、と初めて言われたときは少しだけ驚いた。
海賊という稼業では男同士で処理をするのも珍しくはないと知っていた。
だけど、大剣豪への道を目指して自分に厳しい鍛錬を課している姿からは、
性欲みたいなドロドロしたものを想起させられなかったからだ。

バラティエで見たゾロと鷹の目との戦いは目に焼きついて離れなくて、
俺を海へと駆り立てる大きな要因となっていた。
その鮮烈な生き様に正直惹かれていた。
だが普段は、俺の態度が気に食わないのか話らしい話も出来ない。

俺は二つ返事で承諾した。
この男をもっとよく知ることが出来るのなら悪くない、と思った。

自分が女役になるのはちょっと抵抗があったが、
試してみるとまあそんなに悪くなかったし、慣れてくると気持ちよくもあった。

ゾロが何を思って俺を抱こうと思ったのかは分からない。
あいつは言わないし、俺も聞かない。
ただお互いの身体にだけは詳しくなっていく。
弱いところとか、イイところとか。

繰り返されるセックス。
変り映えのしない日常。





ゾロの舌が首筋から胸元へと降りてゆく。
いつだったか戯れに乳首を甘噛みされて、思わず喘ぎ声が漏れたのをきっかけに、
ゾロはそういう愛撫をするようになった。

「止せ、くすぐってぇよ」
笑いながら頭を押しやると、「うるせえよ」と言って唇を塞がれた。
ゾロも喉の奥で笑う。

キスを初めてしたのは、俺が初めて後ろでイッた時だ。
正面から表情を一部始終見られていて、物凄く恥ずかしかったのを覚えている。
初めての経験に怖さが先にたって、泣きながらゾロに縋って達した。
余韻でビクビクと震える俺をぎゅうっと抱きしめながら、ゾロは長い長いキスをした。
俺は照れ隠しに「息苦しい、馬鹿」と言ってゾロの頭をボカボカ殴った。

慣れた手つきで俺の身体を開いて、ゆっくりとゾロが押し入ってくる。
一旦砲身を収めて味わうように時間を置いた後、徐々に動き始める。

最初は女を抱くときと変わらないやり方だった。
今はインサートを伴わないこともある。
まぁ、稀にだが。

変り映えのしない日常。
それでも身体の関係は少しずつ変化してゆく。





後始末だとか、ゾロはそういうものに意外とマメだ。
行為の後でぐったりしていることが多い俺の代わりに
身体を拭いたり床を掃除したりと甲斐甲斐しい。

身支度を始めると、正面に座ったゾロが切り出した。

「この間のことだが、」
「─────?」
「済まなかった」

ああ、あれか、と思った。
常に事件の絶えない麦藁一味だが、先日の事件では
お互いの海賊としての覚悟とか、仲間への忠誠だとか、
そういうものを試されるような出来事があった。

だが、あれについてどうこう言うつもりは俺には無かった。

「この間ってどれのことだ?
 お前、俺に謝んなきゃいけねぇことって、もの凄ぇいっぱいあんじゃん」

朝食時に起きてきた例がねえとか、寝てばっかりだとか、
今だって無体を働いた直後じゃねえか。

はぐらかすように茶化しても、ゾロの目は真剣で揺らがない。

「どれについての謝罪なのかは好きなように取って貰って構わねぇ。
 だが、どれのことだかてめえはわかってる筈だ」
「─────、」

真摯な口調に気圧される。

「お前の覚悟は分かってた。
 俺の野望を尊重してくれたのも正直嬉しかった。
 だがあそこはああするしか無かった。

 お前の覚悟をないがしろにしたわけじゃねえ。
 許して欲しいわけじゃねえが、それだけ言っときたかった」

わかってるよ、畜生。
だから俺も言わねぇんじゃねえか。

こんなふうに正面切って謝罪なんかされて、
何て言っていいかわかんねえよ。

「───許さねえよ」

「ああ」

「俺の怒りが解けるまで、お前キッチリ奉仕しろよ」

一瞬の間のあと、ゾロがニヤリと笑う。
「ああ、キッチリ啼かせてやるよ」

「ばーか、ソッチじゃねえ、おシゴトのお手伝いをしろっつってんだ、エロ親父」

ソッチもだろうが、と言ってゾロが破顔する。
俺も笑う。
変り映えのしない、だが賑やかで楽しい日常。





「サンジ」





─────へ?










変わり映えのしない日常。
だが少しずつ確実に時間が流れ、さまざまな出来事を乗り越えて、
俺たちの関係は変化してゆく。





ゆっくりと、確実に。









END






2008.3.20











B'zの「オレとオマエの新しい季節」より。
あれってゾロサンっぽいと、イヤ、まんまだと思う。
未聴の方はゼヒ!

うッしかし甘いな、おい。
サン誕だからいいか。

今現在、WJでスリラーバークの一件が描かれた直後です。
まあ、そんな萌もチラリと絡めて。


素材は 戦場に猫 様からいただきました