メリー、メリー・クリスマス! 3


今年もまたこのシーズンが巡ってきた。
イルミネーションに彩られた街の雑踏の中を、ゾロと二人、足早に歩いていく。

お互いに大学は順調に進級し、いよいよ3年、専門課程に入った。
ゾロと知り合うきっかけになったバイトは、まだ2人とも続けているが、
単元を落とせない授業も増えてきて、流石に回数は減らしている。
文系のおれでもそうなのだから、理系のゾロは毎日実験に追われ、眠る暇も無さそうだ。

今年は本当に忙しくて、コレというプレゼントは用意出来なかった。
恋人なのだから、やはり指輪やネックレスなどを贈りたい、
という気持ちも無くはなかったが、相手はゴツい男だ。
贈り贈られる場面を想像したらかなりウソ寒い映像が浮かんだので、とりあえず止めておいた。

とは言えピアスは付けて居るのだから、意外とアクセサリー類でも喜んでくれるのかも知れない。
もっともそのピアスも着たきり(と言うか付けたきり?)雀だから本当のところはよく分からない。
訊いてみれば良いんだろうが、それじゃプレゼントがサプライズにならない。

散々悩んだ末に、プレゼントを決めた。
ゾロへのプレゼントというより、おれ自身へのプレゼントに近い。
喜んでくれるかどうかは全く見当もつかない。
色んな意味でドキドキだ。
おれは忙しいゾロの、貴重な1日を強引にもらい受ける。


夕餉の買い物を終えて家路に向かうゾロの横顔を、幾度となく伺い見た。
年明け提出の課題があるから、今年は帰省しないというゾロ。

でもおれは知っている。
ゾロが帰省を渋っている理由。
決してそれだけのためじゃ無いってことを。



駅改札近くの緑の窓口はごった返していた。
「ちょっと寄って良いか?」

ゾロは一瞬訝しげな表情を浮かべたが、こくんと頷いた。
入り口近くに置かれたパンフレットの中に、一面の銀世界のパンフがあった。
ゾロの故郷だ。

「お前、本当に今年は帰らねぇの?」
分りきっているけど、数度目かにもう一度訊ねる。最後の確認だ。

「ああ、冬休みは短ぇしな。
 それに、ウソップたちと正月明けすぐに課題やることになってる。」
「そっか。」

カウンターから長く続く列の最後尾に並ぶ。
ゾロは荷物をぶら下げたままで付いて来る。

「お前、帰るのか?」
「ああ」

おれの返答を聞いたゾロは、とても複雑な表情を見せた。
寂しそうな、何か言いたそうな、でもムリヤリに諦めようとするような。

ゾロが帰省しない理由、それは多分、おれとの時間を取るためだ。

交通の便の関係で、首都圏からはもっとも時間のかかる場所にあるゾロの故郷。
一日がかりで帰省する、その時間を惜しんでいるのだ。
もちろん課題が山積みで残っているというのが一番大きいのだろうが。


やがて順番が回ってきた。
カウンターのレディがおれにどちらまでですか?と訊ねる。

「熱海まで」
そこまでで一旦言葉を切って。

「2枚往復で」

驚いた表情でゾロがおれを見る。
サプライズには成功だな。

「2枚?」
「ああ」

何で?誰と?
ゾロは眉間にしわを寄せ、クエスチョンマークを一杯浮かべた表情でおれを見ている。
か、かわいい・・・。

「おれんち」
「あ?」

「おれんち熱海だから。
 そんなすげぇ距離じゃねえから、行かねぇか?」

「おれ・・・が、おまえんち行って、どう、すんだよ・・・」

ゾロはそわそわと目を逸らしながら、口の中でもごもごと呟いている。
らしくねぇのが動揺の程度を表してて、おれはプレゼントの成功を確信した。

「ジジィの年越し蕎麦食って、初詣して帰ってこよう。
 うめぇぞ、ジジィの手打ち蕎麦。」
「─────何で、」

ゾロは俯いて搾り出すような声で言った。
耳まで真っ赤だ。

「ジジイに、いや、親父にお前を紹介したい。」

「─────」

「おれの、大事なひとですって──、・・・うおわっ!」

2011 X'mas

ゾロが思い切り首っ玉に縋り付いて来た。
頬にゾロの髪がさわさわと触れる。

痛え痛え痛え!つか苦しい!

カウンターの内側では、対応していた男性客2人がホモカップルだと気づいたおねーさんが
あっけにとられてこちらを見ていた。

う、嬉しいけどこれはかなり恥ずかしい!

おれはそっとゾロの後頭部を撫でた。
そのまま耳もとで囁く。

後期の試験が終わって、無事進級が決まったら、
春休みはゾロの実家へ連れてってくれ。

おれは、お前のご両親に─────。


2人分の往復切符を受け取ったら、まっすぐ家に帰ろう。
3度目の、2人で過ごすクリスマス。

これからも、いつまでも一緒に居られますように。


メリー、メリー・クリスマス!




End.


一昨年、去年とクリスマス恒例になっている、ガテン系ゾロサンSSの続編

きっとサンジはサプライズが大好き。
ゾロは振り回されて、でも本当は嬉しくてたまらないはず。


2011.12.28(おい)