12月の声を聞くと、街はイルミネーションに包まれ、
クリスマスムード一色になる。
同時に、年末となると工事が増えるのも世の常で、
華やかな街の様子をよそに、おれたちはバイトに精を出すことになる。
「今日ばっかりは早めに上がるか。」
イブの夜、現場監督が言った。
遅くまで作業することを覚悟していた皆は、一様に喜んで三々五々家路に着く。
おれとゾロもそそくさと帰り支度をする。
もっとも、帰るところは同じなんだけどさ。
「おッ、お前ら今日も一緒か。仲良いよなぁ。
まさかイブの夜だってぇのに一晩中一緒か?」
周囲の揶揄する声に、
「ま、野郎同士気の置けない感じで過ごすのも悪く無ぇすよ」
とさらりと返す。
へへ、おれらはこれから熱い夜を過ごしちゃうんですけどね。
このバイトでゾロと知り合ってから1年と半年。
身体を重ねるようになってから1年と少し。
ゾロと過ごす、2度目のクリスマスだ。
同じ職場だから、お互い忙しいのは了解済み。
遅くなっても一緒に夜を過ごそうと、前から約束していた。
思いがけず早く帰れることになったので、
駅前の商店街で急遽ローストチキンを買い込む。
ワインは家に準備済み。
ああくそ、前からわかってれば自分で料理準備したのになぁ!
狭苦しいおれのアパートへと帰り着き、
出来合いの料理を食卓に並べる。
ささやかだけれど、2人だけのディナーの始まりだ。
今年は何が欲しいかと聞かれて、おれは何も要らないと答えた。
おまえだけ欲しい。
他には何も要らない。
ゾロに聞くと、「酒」と一言答えた。
全く色気が無えったらねえよなぁ・・・。
なので今夜は酒だけはいつもより上質なものにしてある。
それともう一つ。
「はい、コレ」
「何だ?」
手渡したモノは小さなアパートの鍵。
「合鍵か?」
何で今頃?というようにゾロは首を傾げる。
相変わらずヘンなところで仕草が可愛らしい。
「ここへ来る時は一緒に来るんだから、必要無えだろ」
うん、そうだな。
おまえ何回来ても1人じゃ辿り着けないしな。
「ここの鍵じゃねえよ」
「?」
「もうちょっとだけ広いところ、新しく借りた」
「え・・・」
「一緒に暮らそうぜ」
ゾロはしばらくぽかんと口を開けていたが、
言われたことがようやく理解出来たのか、頬を紅潮させて目線を泳がせた。
「・・・こんな簡単に、その、同居とか決めて、いいのかよ」
「同居じゃねえよ、同棲」
ゾロの頬がますます紅くなる。
「おれ、今まで付き合って一年以上続いたのっておまえだけだし」
ゾロの目に、喜びの表情と一緒に嫉妬の色が浮かぶ。
口元が僅かにむっと引き結ばれてる。か、可愛い・・・。
「・・・おまえ妬いてんの?」
「別に」
「過去に嫉妬してんじゃねえよ。今はおまえだけなんだし」
「・・・」
ゾロがぎゅうと抱きしめてきた。
バイトで鍛え上げられた腕で力任せに。おいおい、身体が軋む。
恋人同士とはいえ男同士、そんなに普段の関係は甘ったるいものじゃない。
おまえがおれの腕にすがるのは、行為の際のホンの一瞬。
達する瞬間だけだ。
だから、この抱擁だけでも十分だ。
おれは何も要らない。
おまえだけ、欲しい。
おれはゾロの背中をぽんぽんと叩いた。
「ほら、食おうぜ、チキン、冷たくなっちまう」
さあ、乾杯しようぜ、ゾロ。
これからは毎日愛してあげる。
メリー、メリー・クリスマス!
End.
去年のクリスマスに書いた、ガテン系ゾロサンSSの続編
早々に身体の関係だけは出来ちゃった2人だけど、
気持ちの方はゆっくりと寄り添って行けばいい。
2010.12.22