ひろむ
「辞退します」
反射的にそう答えてから、いや、とサンジは口篭る。そう答えた理由はもちろん、ゾロの顔が頭を掠めたからだ。だけど、こんな簡単に自分の進路を決めていいのか、という思いが答えた後に襲ってきた。
口元に手を添えたまま黙りこくったサンジに、担任教官であるロビンは首をかしげ、その美しい唇の端を上げて微笑んだ。
「そう、急いで答えを出すことでは無いわ」
面談室の、小さなテーブルに向かい合わせで椅子が2客あるだけの狭いブース。テーブルの上に広げられた資料を、綺麗に丸く整えられた、アーモンド形の爪が、とん、と叩く。それは、先ほどの言葉とあいまって咎めるようでも、嗜めるようでもある仕草で。
「今日、初めてこの話を貴方にしたわ、サンジ」
「はい…」
サンジが素直に頷くと、ロビンは、ぱら、と資料をめくる。フランス語と、日本語の文字が躍る、カラフルなその資料に、ワクワクしないといえば嘘だ。
「けして悪い話じゃないわ、むしろ、貴方が入学したときから言い続けている、一流の料理人、を目指すには間違いなく良い話よ。もう内定が出ている今の時期に、こんな話が来て驚いているとは思うけれど…」
ロビンは言葉を切り、サンジをじっと見つめる。真っ黒な大きな瞳が、何もかもを見透かしているように光っていた。
「いったん、持ち帰ってご家族にご相談なさい…今は一人暮らし?」
どきり、と心臓が鳴る。しかし、まさか自分のプライベートがばれているわけはないと思い直して頷いた。
「じゃあ、ご家族と話し合って…そうね、遅くとも、2月中には返事してね。先方にも早めに連絡しないといけないの」
サンジを見て話しながら、ロビンは器用にテーブルの上の資料を片付けA4の封筒に入れると、サンジの目の前に差し出した。2月中ということは、あと2週間弱で答えを出さなければいけないらしい。
「わかりました」
受け取りながら、サンジはまた頷く。封筒に触れたら自分の指の跡が出来て、掌にぐっしょりと汗をかいていたことに今更気付いた。
半分は喜びと期待、もう半分は、不安と…よく分からないぐちゃぐちゃしたもの。いろんな感情が混じり合って、今だってどんな表情をしていいか分からない。
「じゃあ、よろしくね」
ロビンはさっさと立ち上がり、にこりと柔らかい微笑だけ残して職員室へ帰っていった。なんだか気が抜けたように椅子に凭れ、ロビンの颯爽とした美しい後ろ姿を眺めながら、サンジは自然と漏れてきたため息を、深く深く吐き出した。
封筒から、もう一度資料を引っ張り出す。
それは、サンジの通う調理師専門学校の、パリ校の入学案内だった。
多分上の空だったのだろう、いつもなら布巾で押さえるはずの、鉄のフライパンの取っ手に直で触れてしまって、サンジは舌打ちしながら慌てて手を引っ込めた。右手の人差し指と中指、先がほんのり赤くなっている。
「どうかしたか?」
ダイニングテーブルで夕刊を広げていたゾロが、かけていた銀縁の眼鏡を指で上げながらサンジに声をかけた。今日は取引先から直帰だったとかで珍しく早く帰ってきて、まだ6時前だと言うのに、サンジが即席で作ったつまみを肴に、既に3本目の缶ビールを空けるところだ。
「や、大したことねェから」
ちゅ、と指先を口に含む。ひりひりとはするが、水脹れになるほどでは無いだろう。ゾロは立ち上がると、キッチンのカウンターからサンジのほうを覗き込んだ。
「ビール」
手を伸ばしたゾロに、冷蔵庫からビールの缶を出して渡してやると、ビールを受け取ったのと逆の手が、サンジの、先ほど火傷をした手を捕らえた。
「赤くなってンぞ」
まじまじと見つめ、それからゾロはその細い指先を自分の口に含む。
にゅるりとした厚みのある舌先が、指先に絡んで、ひりひりと痛むところを擦り上げられて。思わず、あ、と小さく声が出た。ゾロは意地悪くにやにやと笑うと、惜しむようにちゅぽんとわざとらしく音を立てて指を離し、カウンターに肘を突く。
いざ付き合うことになって分かったことだけれど、ゾロは比較的スキンシップが好きだ。ただ抱きしめたり、優しく触れてくることもあるし、今みたいにあからさまなことを仕掛けてくることもある。だいぶ慣れたつもりではあるが、サンジはそれでも毎回なんとなく恥ずかしい。今だって舐められて、唾液の光る指をどうしていいか分からず、唇をとがらせてごしごしとエプロンで擦った。
ゾロはそんなサンジを、緩んだ顔のまま見つめていた。
「珍しいな、火傷か」
「うん、ちょっと…」
考え事してて、と言い掛けて、止める。何を?と問われたら、どう答えていいか分からない。なんとなく気まずくて、その手を背中に隠した。
「…ちょっと、ボーっとしちまって」
寝不足かな、と、適当なことを言ってから、そういえばフライパンを熱している最中だったと思い出してゾロから視線を外す。ゾロの視線が追ってきていることを感じながらもできるだけ気にしないようにして、サンジはかんかんに熱されたフライパンにバターを引いた。軽くにんにくを炒めてから取り出して、そこに牛肉のフィレを落とす。普段なら高くて買わないような良い肉だが、近所のすっかり常連になってしまった肉屋で、値引きしていたそれを更にちょこっとサービスしてもらったのだ。
じゅう、という油の跳ねる音と共に、にんにくと肉の焼ける良い匂いが漂う。
動物のように鼻をヒクヒクとさせ、にぃとゾロが笑った。
「ああ…腹が減るな」
カウンターに居座り、そこで飲むことにしたのか、ビールのプルトップを引き抜く。ダイニングテーブルに置いてあったグラスを取り注ぐと、グラスからビールをあおった。多分サンジがここで家政婦まがいのことをするまでは、缶から直接飲んでいたのだろうが、今はしっかり躾けられてちゃんとグラスに注ぐようになっている。
去年の4月に出会ってからこっち、家政婦をする関係から、11月のゾロの誕生日に正式に付き合うことになった以降も、サンジとゾロの生活は大きくは変わらなかった。週の半分はゾロの家で過ごし、家事全般をこなす。変わったことがあるとすれば、付き合う前はどんなに遅くても自分の家に帰っていたが、付き合って以降はそのまま泊まって朝まで一緒にいる事が増えた、というぐらいだ。
いっそ一緒に住めばいい、と何度か言われたけれど、とりあえずそれは保留のまま、今もサンジは週の半分は一人暮らしの小さなボロい部屋に帰っている。
短時間で焼いた肉を、塩コショウだけで味付ける。いい肉だから、焼きすぎず、シンプルなほうが美味しい。すでにマッシュポテトとソテーしたパプリカをセッティングした皿に肉を乗せ、ゾロの好みを考えて、醤油ベースのソースとわさびも添える。
それ以外の料理も皿に盛り付け、テーブルに並べた。
「豪勢だな」
ダイニングテーブルに戻ってきて、ゾロは嬉しそうに顔を綻ばせた。こういうときの表情は妙に幼くて、20歳も離れているということを一瞬忘れさせる。
「肉屋のお姉さまがサービスしてくれてさ」
いい肉はシンプルに食いたいじゃん?と微笑みつつ、サンジもテーブルにつくと、グラスにビールを注いだ。
ちん、とグラスを合わせる。
「いただきます」
声が揃った。
いつもの、なんてことはない、いつも通りの食事風景だ。
あらかた食事が終わったところで、飲み物をバーボンに切り替えたゾロは、ちびちびグラスを舐めるように飲みながら、ひょいとナッツをつまみ、ああそういえば、と口を開く。
「お前の、就職先、だったか?今日、その店の前、通ったぞ」
ぎくり、とサンジは肩を揺らす。
別に、店の場所も名前も伝えてある。何一つやましいことは無いはずなのに、今日の、ロビンから提案された話を一気に思い出して、頭の芯が冷えるような感覚を覚えた。
「高級そうなフレンチの店じゃねェか、お前、そんな口悪くて大丈夫か?」
最後の方はからかう口調だったので、サンジは揺れた感情を消すように、盛大にフンと鼻を鳴らして肩をすくめる。
「俺ァ柄も口も悪くないっつぅの、気ィ使やぁ、ちゃんと出来ンだぜ」
「へぇ」
ついでに足癖も悪いのにな、と言われて、ガンと脛を軽く蹴った。おお痛ェ、と、大げさに脛をさするから、逆の脛も足の裏でぐりぐりと押す。
ゾロがくつくつと愉快そうに笑った。
「まぁ、場所も麻布だからうちからも近いな」
ぽつり、と言ったゾロの言葉に、安堵みたいなものが混じっていて。サンジは胸の奥がぐっと詰まるのを感じた。
−会えないくらい、遠くに行くって、言ったら、ゾロはどうするのかな
サンジはゾロに見えないように俯いて唇を噛む。手の中の、濃い目に作った水割りの氷が溶けて、琥珀色の液体にゆるゆると渦を描くのを、じっと見つめた。その中に答えがあるわけでも無いのに、それでも何か答えを探すように。
「…どうした?」
ゾロの声に、はっと顔を上げると、サンジは誤魔化すようにごくりと水割りを飲んだ。かっと熱の塊を飲んだみたいに喉が熱くて、けほけほと軽く咽る。自分には、やはりちょっと濃すぎた。
「サンジ?」
「…や、なんでもねェ…就職すんだなァ、ってしみじみ思っただけ」
ひょいと肩をすくめ、マドラーでぐるぐると水割りを掻き混ぜた。早く氷が解ければいい。
ゾロは、へぇ、と相槌なのかよく分からない返事をして眼を細める。
「…てめえが、そんな愁傷なタマか?」
「うるせェ」
べェと舌を出せば、ゾロが笑う。
上手く誤魔化せたのだろうか。
ふと、ゾロの手がサンジの腕を捕らえた。
「…今日は、泊まって行くのか?」
コレくらいじゃ酔うわけも無いゾロの隻眼の奥が、ほんの少し酔ったみたいに揺れた。じっとりと、溢れてくるのは明らかな情欲の色。
それに絡め取られるように、目を離せなくなってサンジは視線を合わせたまま頷いた。身を乗り出してきたゾロに、ぐいと引き寄せられて、テーブル越しに口付けられる。触れて、離れ際に、ぺろ、と唇を舐められた。
「てめえが酔う前に…寝室行くか?」
「ん…」
触れただけなのに、唇がジンと熱い。続く行為を期待して、身体の奥まで疼いてきた。
すっかり慣らされた身体は、ほんの少しの刺激でも正直に反応を返す。サンジは諦めたようにグラスを置くと、白い指をゾロの、節の目立つ角張った指に絡めた。
「もう…行こうぜ…水割りが濃くて、酔っちまう」
伺うように見た自分はどんな顔をしているのか。ゾロは何だか酷くうれしそうに笑うと、指を絡めたまま立ち上がり、サンジの横に立つと、その腕の中に強く抱きしめた。
目を開けると、朝焼けの、鈍いオレンジ色の日の光がほんのりとカーテンの隙間から漏れている。立春をとうに過ぎた最近は、日が昇るのが早い。春が近付いているんだなと思いながら時計を見れば、6時を少し過ぎていた。
隣を見ると、珍しくゾロがいない。めくれた掛け布団の下で、ゾロの頭の形が残った、羽枕が斜めになっていた。トイレにでも行ったのかなと身体を起こして、シーツに手を伸ばせば、ほんのりと体温は残っているものの、大分冷えている。
いつからいないのだろうか。
サンジは裸の身体に、昨日脱ぎ散らかしたままのパーカーを拾って引っ掛け、部屋着の緩いスウェットのズボンを直接穿くと寝室を出てみた。電気のついていない廊下は薄暗くひやりとしていて、人の気配は無い。浴室やトイレのほうを見てみても、明かりがついていなくて、サンジは自然、リビングへ向かった。朝日のせいか、リビングに続くドアの向こうは仄かに明るかったから。
恐る恐るドアを開けると、ドアの意外と近くにぬっと立っている人影が見えてぎょっとした。思わずがたんとドアに額をぶつけ、慌てて後ずさるが、人影がびくんと大きく身体を震わせて振り返る。
それは、別に不審人物でもなんでもなくもちろん見慣れたゾロその人ではあったが、妙に表情が硬くて。ほんの少し、ばつが悪そうに唇が歪んでいた。
サンジはドアのノブを握ったまま首を傾げた。
「ゾロ?」
ゾロは無言で、ぼりぼりと頭を掻くと、ぱさりと何かをダイビングテーブルに投げ出した。その見覚えのある−嫌でも忘れられない−表紙の冊子に、サンジははっとしてゾロの顔を見る。表情の無いそれが青褪めて見えるのは、部屋が薄暗いせいなのか、それとも。
「ゾロ、それは」
「フランスに、行くのか?」
静かな声だった。感情の読み取れない、低い、落ち着いた声。でも、ごまかしなんて許さないと言われているような。サンジはきゅっと奥歯を噛んだ。
勝手に荷物を開けられたことを咎めるべきだろうかと思ったけど、これ以上ややこしい言い合いをしたくなくてサンジは大きく息を吐く。トートバックからはみ出すみたいに、無造作に突っ込んでいた書類だ、なんだろうと引っ張り出す可能性はそもそもゼロじゃなかった。
それとも、自分は見つけて欲しかったのだろうか。
「…行かねェ」
「じゃぁ、これは?」
改めて向き直るように、ゾロがサンジのほうに身体を向けた。筋肉のついた上半身が裸のままで、エアコンがついていない部屋では寒そうだ。
「…そういうガッコウが、あるって、昨日、担任に言われたんだ」
「それだけじゃないだろう、詳しく話せ」
ゾロはぺらりと資料の間に挟まった何枚かのプリントを抜き出す。
「特待生扱いであることも書かれていたし、推薦状のコピーまで挟まっていた…良い話、なンだろ?」
有無を言わせない口調。
きっと、適当な誤魔化しや言い逃れなら何を言い返しても効く耳を持たないのだろう。
こういうときは、悔しいくらい、自分はガキで、ゾロは大人だ。
サンジは後ろ手にドアを閉め、俯いたままそれに凭れた。
「…うちの専門学校で、年に一人だけ選ばれてパリ校に編入出来ンだ。本当はもうとっくに選ばれて決まってたみてェなんだけど、そいつが家族に不幸があったとかで辞退しちまって…何をそんなに見込まれちまったのか知らねェけど、俺に、行かねぇか、って」
「…学費も全部免除みてェだな」
ゾロはへぇと感心するように、プリントをめくり上げる。
「…学費も、渡航費も、寮費までタダだとさ。俺んちみたいな貧乏人にゃ、気持ち悪ィくらいの、良い待遇だ」
肩をすくめ、パーカーのポケットに入っていた煙草の箱から一本抜いて火をつける。最近はリビングじゃあまり吸わないようにしていたけれど、今は我慢が出来なかった。
ゾロと自分の間に、かちりとライターの音だけが響き、甘い匂いのする紫煙が、ふわ、と立ち昇る。
もっと、動揺するかと思った。ゾロも、そして自分自身も。どう話そうかと、昨日ずっと悩んでて話せなかった言葉を、淡々と告げる自分の声が不思議だった。顔を上げると、ゾロの、何も感情を映していないように見える、琥珀色の混じる茶色の瞳とぶつかる。
凄く大事な話をしているはずなのに、なんだか他人のことを話しているみたいな気分で。サンジはそれ以上、何を告げたら良いのか、思いつかない。
「行け」
しばらくお互い黙りこくった後、ゾロの口から、ぽつりと零れたのはそれだけだった。サンジが何か口を開こうとする前に、ゾロは視線を外すと、もう一度「行け」と言った。
それから、ふぅと息を吐くと緑色の短い髪をがりがりと掻く。
「…てめえには勿体ねェ位の、良い話じゃねェか。行かねェなんて選択、するんじゃねェよ」
何故行かないと言っているのか、その理由まで見通した上なのだろう。口調が少し柔らかくなった。その柔らかい声を聞いていると、何だか自分ひとりが我侭なガキになってしまったようで、情けなくて、サンジは鼻の奥がつんと熱くなる。
「…行かねェ」
思わず、そう言い返していた。
「おい」
咎めるような声に、サンジはゾロを睨みつける。
「…専門学校は、1年だけだ、けど、行っちまったら絶対ェ、現地の店で修行したくなンだ…何年かかると思ってる?5年?10年?そんだけ長い時間、離れちまっても…ゾロは、それでも良いのか?」
一気に言ってから、ああそうだ、と納得した。
言ってしまってから、分かった。
きっと、行ってしまったら、自分が1年じゃ我慢できなくなる。もっともっと学びたくなって、もっと、憧れの国に居たくなって。そうなることが見えていたから。
だから、行かない、と自分で自分に言い聞かせるように、繰り返していたのだと。
俺は「行きたい」んだなぁと、分かってしまった。
サンジは何だか打ちのめされたような気分になって、両手を握り締める。見透かされていたのだ、きっと、ゾロにも、ロビンにも。
顔を上げると、ゾロは穏やかに笑っていた。手が伸びて、くしゃりと頭を撫でた。
「行きてぇんだろ?」
今、口を開けば嗚咽が漏れそうで、サンジは歯を食いしばったまましばらくじっとしていた。何度か呼吸を繰り返してから、力の入っていた肩をすとんと落として、こくりと頷く。ころりと、目の端から涙が出た。
「良かったな…できたら本場でやってみてェ、って、お前、酔っ払ったときに、いつも言ってたからな」
ああ、そうだ、言われなくても分かってる。ずっと、外国でやってみたかった。
大して信じちゃいない神様にすら感謝したいくらいの、ありがたい話。
そうか、ゾロは分かってたんだな、と妙に安堵して、ほろほろと流れる涙を拭うことなく、サンジは目を閉じる。
くしゃくしゃと撫ぜる、ゾロの大きな掌。
ああ、でも。
この掌も、失いたくないんです、神様。
目を閉じると、そのぬくもりだけが感じられて。ぎゅうと胸が切なくなる。
「…ジジイにも、言わねェと」
「ああ、そうだな、喜ぶだろうな」
唯一の肉親である、祖父のゼフが料理人であることはゾロに話していた。
うん、と頷いて、それからサンジはゾロの手を取ると、自分の頬にあてる。
「…ゾロ」
「ん?」
「…なんでもねェ」
待ってて。
そう言えるものならそう言いたい。けれど。
別れよう。
そう言うべきなのか。
分からなくて、サンジは首を振る。
出発まで、せめて。二人でいる時間に、一点の濁りも落としたくなくて。
「お祝い、しねェとな」
ゾロはサンジの身体をぎゅっと抱きしめた。ゾロの匂いがして、また泣けてくる。
気付けば部屋の中はすっかり朝の白い光で満たされていて。聞こえてくる鳥の鳴き声とか、車の往来の音が本当にいつも通り過ぎるくらいいつも通りで。自分の人生において、とても大事な話をしているってことが、何だか不自然で現実味が無いことのように思えてくる。
だから、現実逃避みたいに、ここであと、何回二人で朝を迎えられるかな、って、頭の中で数えた。
祖父のゼフは、電話の向こうで、勿体ねェ位だと珍しく嬉しそうな声で笑った。
サンジはその声を聞きながら、何だかちょっとだけ愁傷な気分になって、戻ってくるまで死ぬんじゃねェよ、と言ったら、死んでたまるか、と返って来た。しばらく会っていないけど、その声が昔から怒鳴られた声と変わらなくて、ああ殺しても死ななそうだな、と思ったらなんだかホッとした。
ロビンも、もちろん喜んだ。
伝えに行った職員室の、回転椅子に座っていた彼女は、「貴方なら絶対行くと思ったわ」と綺麗に微笑みながら言ったので、やっぱり見透かしていたのかと苦笑する。
それからは急に忙しくなった。
去年の年末で辞めていた競馬場のバイトは良いとしても、既に内定を貰っていた店には、専門学校の、サンジにはよく分からないけど、エライらしい人と一緒に謝りに行った。店のオーナーは快く笑い、背中を叩いて、戻ってきたらもう一度おいで、と言ってくれた。お世辞でも嬉しくて、サンジは「はい」と力強く返事をした。
3月に入った、のは知っていた。
でも、サンジは平素の忙しさで、今日が何日かは忘れていた。
ゾロの家に行く回数は変わっていない、むしろ、意識して行けるときは行くようにしていた。ゾロとの関係を、どうしたらいいかの答えはまだ出ていなくて、きっと出発直前まで答えなんか出ないんだろうなと思いながら、サンジは通いなれた、ゾロのマンションのエントランスでぼんやりと下がってくるエレベーターを待っていた。
春雨、と言う言葉がぴったりな、温かい霧のような雨が降っている。そのせいか、こんな中途半端な時間帯の、人影の無いエントランスはしっとりと湿気に溢れていて、曇ったガラスの向こう側では目に見えない雨を遮るように、色とりどりの傘が横切っていった。
傘を持ってこなかったから、少し濡れてしまった。これくらいの雨だから、と油断したら、コートも髪もしっとりと濡れて、その湿気を吸ったシャツが身体に張り付いて重い。家事をやる前にシャワーを浴びて着替えたほうがいいかもしれない、と思いながら、サンジは開いたエレベーターに身体を滑り込ませた。
専門学校のカリキュラムはもう終わっている。3月からはほぼ春休みの扱いだった。サンジ自身も今日は書類の提出やら手続きやらで行ったら、思ったより時間を食ってしまったというだけで、明日からはぽつぽつと用事がある日だけ学校に行けばいいことになっている。
ぽーん、と音がして、開いたところでエレベーターを降りた。内廊下になっているので雨は吹き込まないが、その分蒸しているようで、ただでさえ濡れた身体に、じっとりとまとわりつく湿気が不快だった。サンジはシャツのボタンをぷつりと二つほど開けて、パタパタ手で仰ぐ。ゾロの部屋まで来て、合鍵を差し込んだ。と、手ごたえが無い。
−あれ?
鍵を掛け忘れたのだろうか?
ああ見えて時々抜けているから、ありえる、と苦笑し、帰ってきたら言っておかないとなァとドアを開けると、見慣れた革靴がきちんと揃えられて置いてあった。
「え?」
思わず声が出た。
今日の朝履いていった靴だ、間違いない。
「ゾロ?」
思わず室内に声を掛けると、寝室からきちんとスーツを着込んだゾロが出てきた。今朝着ていたスーツではない、もっと上等のもの。サンジが初めて見るスーツだ。ダークグレーに薄いグレーのストライプで、ゾロの身体にきっちり合っていた。きゅ、と、くすんだ臙脂のネクタイを締め直しているその姿は、自分の目にかかったフィルター分を差し引いても、いい男だ。ぼうっと見惚れたサンジに、ゾロはにっと笑い返す。
「おう、おかえり」
「た、だいま」
何が何だか分からないままのぽかんとしたサンジを、なぜかゾロは満足そうに見つめ、近付いてきたかと思ったらひょいと腕をとった。
「おし、行くぞ」
「は、え?ど、どこに?」
「良いから来い」
サンジの手にある荷物を取り上げて玄関に放ると、ゾロはさっさと外に出た。サンジも慌ててその後を追う。思わず小走りになって追いかけつつ、一緒にエレベーターに飛び込んだ。
「ゾロ、会社、は?」
ハァ、と息を吐きながら、ゾロを見ると、ああ、と返しながらニヤニヤとした笑い顔が向けられた。
「ああ、まぁいろいろな」
「はぁ?なんだよ」
「良いから黙ってろ」
ゾロの行動が不可解で、思わず荒い声を上げても、ゾロは気にすることもなく笑っている。珍しく、ものすごく機嫌がいいようだ。サンジは追求するのをやめて、口を閉じた。
にこにこ嬉しそうにしているゾロを見ているのは悪くない。
−よく分からないけど、付いて行きゃいいんだろ
両手を着ていたピーコートのポケットに突っ込み、エレベーター降りたサンジはゾロの横に並んだ。ゾロは外に出ると腕時計をちらりと確認し、雨が降っているのを仰ぎ見てからタクシーに手を上げた。自分に分からないように、なのか、先に乗り込むと運転手にメモを見せ、小さな声で会話してからサンジを手招いた。
サンジが乗り込むと、ばたんとドアが閉まった。
何だか尻のすわりが悪くてついモゾモゾする。こんな風に、サプライズみたいに、行く先も分からずどこかに連れて行かれる経験は初めてだ。ちらりと隣を見れば、ゾロは硬い表情でじっと前を見ている。さっきまでは機嫌がよかったのにどうしたのだろうと思ったが、どうせ何も答えてくれそうなのでサンジは何も聞かない事にした。
窓枠に頬杖をついて車窓に目を移せば、タクシーを使う機会なんてほとんど無いから、見慣れたはずの景色でも何だか目新しく見える。方向的には新宿方面かな、と思いながら、流れていくランドマークを目で拾っていく。視界を隠すほどでも無い春の細かい雨は、それでも窓をしっとりと濡らして、まだ黄昏時と言うにも早い時間だけれど垂れ込めたグレーの雲のせいで、早めに灯った街頭の黄色が煙って見える。
こんな景色一つ一つも、もしかしたらしばらくお別れかもしれないと思えば何だか大事なもののように見えてきた。
旅立つ日はもう決まっている。そして、一日一日、迫ってきているのだ。
ゾロに出発の日を告げたとき、ゾロは「そうか」とだけ答えた。
見送りに行く、と言う言葉の一つも無く、これからどうしようかという話も無い。
旅行に行くのと勘違いしてんじゃねぇだろうな?と、サンジが訝しむくらいに、平然とした「そうか」だった。
もう一度、ゾロのほうを見れば、ゾロは目を閉じていた。
眠っているのかどうかは分からない。腕を組んで、少し俯き加減でシートに深く座っている。その顔を盗み見していると、サンジの唇に苦笑が浮かんだ。
サンジは、例え遠距離でも、何年も会えなかったとしても、ゾロのことを思い続けるだろう。ずっと好きでいるだろう。その自信がある。
この大きな手も、筋の浮いた腕も、整った横顔のラインも、自分を見つめる熱っぽい隻眼も、上げたらきりが無いくらい何もかもが好きで。人生のうちで持てる、すべての好き−もちろん、愛、っていうほうの好きだけど−をゾロに持ってかれたんじゃないかって思うくらい、好きで。
−別れ話をしようってんだったら、どうしよう…
ふと、それを思って心臓の裏側あたりがひんやりと冷える。そう思うだけで、タクシーを飛び降りて逃げ出したくなった。それを分かってての、逃がさないための、タクシーなのだろうか。
「お客さん、ここでいいっすか?」
きゅ、と、タクシーが止まって、運転手の声。
サンジは沈んでいた思考から浮上する。ゾロはもう目を開けていて、返事をしながら千円札を数枚、運転手に押し付けた。ひょいと引っ込んだ運転手の背中に向かって、釣りは要らないと告げると開いたドアから降りた。
サンジもそれに続くと、さぁっと雨が打ちつけた。少し本降りになってきているようで、サンジは頭の上に手を乗せると、小走りで向かうゾロの背中を見てそちらに走った。すぐに庇があるところに入り、はぁ、と息を付く。
「大丈夫か?濡れたか?」
「ン、平気。元々ちょっと濡れてたし。それよかオッサンのほうが、濡らしちゃまずいんじゃねェの、良いスーツなのにさ」
ぱたぱたと、ピーコートについた水滴を手で叩きながらサンジがそう言うと、ゾロは肩をすくめる。
「…そういうモンなのか?着慣れないからよくわからねェな」
別に上等でなくてもスーツはそうそうびしょびしょに濡らしていいものでは無いだろうに、ゾロは無頓着で、普段でも雨の日に駅から走ってきたとか言って、スーツのクセに濡れ鼠で帰ってきたりする。サンジはぷっと吹き出して、「そういうモン」と返した。
「で、目的地はどこだったんだよ」
途中から考え事をしていたからか、どこを走っているのか分からなくなってしまった。
道路をはさんで正面に見えるのは、建設中のマンション。建設会社の名前が書いてある白いビニールシートの端が、パタパタと風にあおられていた。住宅地と繁華街の間くらいの場所なのだろう、商店とコンビニ、マンション、アパートに混じって民家がちらほら見える。
どこにでもありそうな風景なのに、妙に見たことがあるような場所だった。
「ここ」
ソロが親指を、肩越しに後ろに向ける。サンジはン?と振り返り。
「え…」
と絶句した。
久しぶりすぎて、周りの景色が大分変わってしまったけれど。
雨にけぶってはいるが、蒼い庇は、そうだ昔からずっと見ていたじゃないか。
『西洋料理 BARATIE』
ゾロの背中にあった看板は、サンジがとてもとても、見慣れたものだった。
「よう、きたな、チビナス」
ドアを開けたらすぐ、鋭い視線が飛んできてそう声がかかった。視線は自分が顔を上げるともう外れていて、祖父、ゼフの視線はもうテーブルに向いている。相変わらずシェフとは思えない筋肉質な、ごつい腕で、繊細なテーブルセットを流れるように行っていた。てきぱきとナプキンを折り、カトラリーをセッティングする。表には『貸切』の札が下げてあったから、今日はこれからパーティでもあるのだろうか。
「…うす」
離れたところで暮らしているわけではないのに、なんとなく直接会う回数が減っていたから、妙に照れくさい。隣に立つゾロは、神妙な顔つきで店の中をぐるりと見ていた。サンジもつられて、店内を眺める。
白い漆喰の壁にかかる油絵も、奥の石壁の前に置かれた、火を上げる薪ストーブも、クラシックな流線を描く木のテーブルと椅子も、真っ白なテーブルクロスにあわせたシックな臙脂のテーブルランナーも、何もかもサンジの記憶の中そのままで。
変わらない、それが何だかひどく嬉しかった。
「とりあえず座っててくれ」
かたん、と、奥まった席の椅子を引かれた。
「よろしくお願いします」
ぺこり、とゾロが頭を下げた。いっそう険しくなったゼフの視線が、じっとりとゾロを見つめる。サンジはそうだった、と身体をこわばらせた。
何故此処に、ゾロが自分を連れてきたのかは分からないが、少なくともゼフと自分の関係は伝えてある。店の名前も、何かのときに言ったような気がするから、ゾロが知らないで此処につれてきたわけでは無いだろう。だとして、ゼフは?
ゾロは、いったい何と言ったのか。
「ジジイ、このひとは…」
「話は後だ」
サンジの声を遮るように、ゼフはくるりと背を向けると厨房に消えていく。ゾロはふぅ、と小さく息を吐くと、先ほどゼフが示した椅子に座った。
サンジもその向かい側に座り、足をぶらぶらとさせながら横目でゾロを見やる。
「…なんで、ジジイの店なんだよ」
ふてくされて口を尖らせた。ゾロは片眉をひょいと上げると、ああ、と返事をしてから、またくるりと店内を眺めた。
「一度、来てみたくてな」
「言えよ…」
「言ったら、お前、素直に来たか?」
う、と言葉を詰まらせると、だろ?と笑いを含んだ声で返される。
確かに、最終的には来たとしても文句の一つや二つ、いや、10や20は言ったかもしれない。別に嫌なわけではないのだが、ゾロと二人で来るのは正直照れくさいし、心の準備が−今だってまだ−出来ていない。
「でも、今日貸切りみてェだな、残念だったなァ」
サンジが肩をすくめると、ゾロはうっすら笑って、そうだな、と答える。
ちっとも残念そうじゃなくて、サンジはちょっと面白くなかった。
−何考えてんだか、全然わからねェ
普段は分かりやすいのに、ゾロは時々、こういう感じになる。それが大人なんだといわれるから、サンジは余計に面白くない。歳の差なんて、と思うけど、歳ほどどうしようもないものは、無い。
あと、せめて10年、早く生まれたかった、と思う。
そうしたら、ゾロの隣にいて、釣りあうくらいになれただろうか。
ガキだって、言われない程度に。
「食前酒だ」
ゼフの声がして振り向けば、ゾロとサンジの目の前に、シャンパングラスが置かれた。ゼフは恭しく、サンジが今まで見たことも無いような優雅とも言える仕草で礼をすると、ワインクーラーに突っ込まれたボトルを引き出し、栓を抜く。そのボトルを見てサンジは息を呑んだ。あの、特徴的なエミール・ガレの花模様。間違うわけが無い。
「…キュヴェ・ベル・エポック」
「お、さすがだな」
ポツリと囁いたサンジの言葉に、ゾロはにっと笑う。とても高価なシャンパンだ。大好きだけど、それこそ客の残りをこっそり失敬したくらいしか飲んだ経験は無い。
「お前の爺さんのお勧めだ」
そう、知ってる。何か、特別なことがあるときはいつもこれをジジイは…。
サンジの髪の色みたいな、綺麗な金色の液体が細かい泡をふつふつと上げながら注がれた。それをぼんやりと見つめて、サンジは何が何だか分からなかった。
どうして此処に来たのか、どうして、ジジイがこのシャンパンを出してきたのか。
ゾロが、ひょい、とグラスを上げた。サンジもそれにあわせグラスを上げ、乾杯の仕草を返すと、ゾロは勿体無いくらい一気にグラスの中身を飲み干した。サンジは苦笑する。
「…勿体ねェな」
「とりあえず、アルコール入れなきゃこの先が続かん」
は、と大きく息を吐くと、思いつめたような顔のままゾロは胸ポケットから小さな箱を取り出して、とん、とサンジの目の前に置いた。
飾り気の無い、真っ白い箱。掌にすっぽり入ってしまうくらいの。
「何?」
「良いから開けろ」
見返しても、ゾロは目線を外したまま、少し怒ったような声でそういった。サンジは引き寄せられるように視線を箱に戻すと、手に取る。ゾロの体温が残っていて、少し温かい。箱を開けると、更に小さい、黒い箱が出てきた。どきん、と心臓が跳ねる。
見たことがある形状。贈られたことは、無いけれど。
手が震えた。
恐る恐る開けてみれば、それは、やっぱり思った通りのもので。
「…ゾロ?」
呆然と、目の前の、ゾロを見つめる。
伏せられていて顔が見えないが、少し伸びた緑色の髪の下、耳が赤い。
どきどきと心臓が早くて、真意を知りたくて、でも何を問うていいか分からない。
ゾロが顔を上げる、目が合った。
茶色の中に、柔らかい琥珀色の光を秘めた、綺麗な眼。形のよい、薄い唇が開く。
「誕生日、おめでとう」
そう告げられてはっとした、そうか、今日は誕生日。
ホッとしたような、ちょっと残念なような気分で、肩の力が抜ける。
誕生日プレゼント、か。なんだ、びっくりした。
それでももちろん、相当嬉しいけど。
へにゃ、と眉を落とし、サンジは微笑んだ。
「そっか、忘れてた」
「そうみたいだな」
「よく、覚えてたな」
「まぁな」
くすりと笑って、ゾロはまた目線を落とすと、まだ箱を両手で抱えたままのサンジの手を、包むように自分の両手を添えた。
「それだけじゃねぇんだけど」
「ん?」
ぎゅ、と、手の力が強くなる。あー、とか、うー、とか、珍しく、言い淀んでいて、サンジは首を傾げた。
「何?」
「ああ、だからな」
ゾロは片手を離し、ぼりぼりと頭を掻いた。クソ、と小さく口の中で呟くのが聞こえる。
「だからな」
「うん?」
サンジが更に首を傾げると、また、クソ、と呟いて。ゾロは意を決したように、サンジの顔を見る。正直、子どもが見たら間違いなく泣きそうなほど、怒った怖い顔をしていて。でもサンジは知ってる。これは怒ってるんじゃなくて。
「…結婚、しよう」
鬼みたいな顔の、食いしばった歯の隙間から、掠れた声。いっぱいいっぱいなのがわかる、その表情に。
言った瞬間、ホッとしたように力を抜いて、情けないくらい下がった眉も。
あまりにかっこ悪くて、思わず笑みが零れた。ついでも言葉も。
「…うん」
そして、涙も。
「「「「「おめでとうー!!!サンジー!!!」」」」」」
薄暗かった店内に、一気に明かりが灯ったかと思ったら、わっと厨房から人が飛び出てきた。ゼフをはじめ、サンジを昔から知るレストランのスタッフ、それになぜかウソップや、仲のよい友人の姿まで見える。
「せぇのっ」
ぱーん!!
店内に、クラッカーの弾ける音と、紙吹雪が舞って。
涙でぐしゃぐしゃになりながら、何が何だか分からないと言う表情のサンジの上に、歓声と、色とりどりの紙が降り注いだ。
「な、な…」
わなわなと震えているサンジの手を取り、ゾロは立ち上がると、サンジも立たせる。
全員が、注目するようにしんと黙り込んだ。
ゾロはサンジの左手をそっと掴むと、箱から取り出したそれを恭しく、その薬指に嵌めた。それは、ライトの下できらりと光る、プラチナのリング。
「幸せに、なろうな」
そっと耳元でそう囁された。見れば、照れくさそうにはにかんだゾロの笑顔に、サンジはもう、胸が一杯で。人が見ていることも、溢れる涙を拭うことも忘れて、ゾロに抱きついた。
「で、シメが高級ホテルとか、やりすぎなんじゃねーの」
呆れたようなサンジの声に、バーカウンターを物色していたゾロは振り返って肩をすくめた。
「プロポーズなんざ人生一度きりだからな、奮発してもバチはあたらねェだろ。安心しろ、来年の誕生日からは普通にしか出来ねェよ」
まさにそのプロポーズをしたときの、必死な表情がまるで無かったことのように余裕めいた顔で笑うと、適当にバーボンの小瓶を取るとグラスを持ち、サンジが座っていたソファの隣に座り込む。
セミスイートだという部屋は、キングサイズのベッドの横にソファとガラステーブルのセット、目の前には大きな壁掛けのテレビが設置されていた。バーカウンターにはアルコールだけではなくコーヒーなどもあったが、サンジは冷蔵庫からペリエの瓶を引っ張り出して、瓶から直接それを飲んでいた。
飲まされたせいか、まだ頭がふわふわするし、頬が熱い。
プロポーズ、と言う言葉が、まだくすぐったくて。
サンジは指にはまったリングを見て、緩んでくる口元を手で押さえる。
「…プロポーズ、とか…あんな、みんなの前で、ほんと、ありえねぇ」
思い出すと恥ずかしくて死にそうだ。ウソップや専門学校の友人とは多分卒業式でもう一度会うはずで、正直どんな顔して良いか分からない。
ゾロはバーボンをグラスからちびちびと飲みながら笑った。
「これくらいしとかねェと、お前ェ、俺に悪いから別れるとか言いかねねェからな」
「…っ」
ぐ、と言葉に詰まる。やっぱりな、といわんばかりにゾロがまた笑った。
「…断られるとか、思わなかったのかよ…」
唇と尖らせて、その気は全く無いがそう言ってみると、ゾロがちょっと驚いたように、そうだな、と首を捻る。
「…そういや思わなかったな」
「わー、自信家」
「断る気あンのか?」
くしゃくしゃと、ゾロの手が乱暴に髪を乱す。サンジはひゃははと笑った。
「残念ながら、全くねェ」
「じゃあいいじゃねぇか」
「うん…」
すり、と、ゾロの肩に頬を乗せる。自分より少し高い体温が心地よい。
窓の外は、せっかくの夜景のはずが雨で、ぼんやりと煙っている。曇りガラス越しみたいな鈍い明かりが視界に広がっていた。
全部、夢の中みたいだ。
「ゾロ…」
顔を上げて、ゾロの耳の下あたりに口付ける。ちゅ、と吸い上げて、舌でゆっくりと耳の後ろまで舐め上げる。首に腕を絡め、ゾロの半身に覆いかぶさるように身体を起こすと、ネクタイに指を引っ掛けてしゅるりと解いた。
ゾロの手が背中に伸びて、やわやわと背骨を沿うように撫でる。腰まで降りてきて、ぎゅっと抱き寄せられた。
サンジの顎に、ゾロの歯が立てられた。
「…積極的じゃねェか、奥さん」
「奥さんじゃねェよ、馬鹿」
ボトムからシャツを引き出し、隙間から背中に直接、ゾロの手が忍び込む。サンジの好きな、熱い掌が少し乱暴に背中を這い回った。
「ゾ、ロ…俺、シャワーを…」
雨に濡れたのを思い出して、ゾロの身体を軽く押してみたが、逆にがっちり押さえられる。
「アホか、止められるか」
は、とサンジの耳元に熱い息がかかる。いつもより余裕の無い掠れた声に、サンジの背が震えた。
ゾロはソファにサンジの身体を倒すと、にっと悪そうに笑って、自分の首からネクタイを引き抜く。そのままワイシャツも脱いで、ソファの下に投げ捨てた。
サンジもそれを見上げながら、自分のシャツのボタンを外していく。
間接照明の、ぼんやりと薄暗い部屋の中で。ゾロの、年中日に焼けている浅黒い肌の上にいくつも走る傷がはっきりと見える。肌と肌を直に合わせたくて、サンジは腕を伸ばし抱きついた。肌蹴た胸をその身体に重ねて、熱い素肌に触れると、熱が移ったみたいに勝手に息が上がってくる。
早く、身体の奥でゾロの熱を感じたくて。
腹の奥からぞくぞくと、疼きが上がってきた。
目を上げれば、ゾロの熱い目とぶつかる。そっと細められる動きを眼で追いながら、唇を重ねる。柔らかく、唇だけを何度も合わせるように触れてきた。我慢できなくてサンジから舌を伸ばせば、カプリと噛み付かれる。そのままゾロの口の中に誘うように舌を絡められ、じゅるりと音を立てて唾液ごと吸われた。
「…余裕、ねェなァ」
くつくつと、合わせた唇の隙間でゾロが笑う。外の景色みたいに霞がかった頭で、それでも酷くゾロが欲しくて身体中が沸騰したみたいに熱い。サンジは、唇が離れた隙に、は、と大きく息を吐いた。ぎゅうと、その首に抱きついて、肩口に顔を埋める。
むっとするほどの、ゾロの匂いにくらくらする。
「ゾロ…すげえ、欲し…はや、く」
思わずそう、懇願する声が出た。ゾロの熱を穿たれて、揺さぶられて、身体中満たされたくて仕方が無い。背中を抱いていた、ゾロの腕の力がぎゅっと強くなる。
「…煽るな、馬鹿」
俺まで余裕無くなる、と、囁く声に、荒い息遣いが混じった。身体を少し離し、視線を交わす。精一杯、大人びた笑みを浮かべて。
「余裕、なんて」
ハ、と、鼻で笑うような息を一つ。
『なくなっちまえ』
そう、声を出さずに、唇だけ動かした。
ゆらりとゾロの瞳の奥が、琥珀色に光る。獣みたいな、色。
いつも大人ぶったゾロが、余裕がなくなる瞬間が、サンジは好きだから。
もう一度、その瞳を見つめたまま、貪るように唇を重ねた。
繋がったところから、ぐちゅぐちゅと水音が響く。
一度出された精が、溢れ出て内腿を伝い、揺さぶられるたびにその漏れた液体で濡れたシーツが、ついた膝に絡んだ。顔を枕に押し付け、尻だけ高く上げる、獣みたいな格好のまま繋がって、唇から漏れる声を抑えたいのに、突っ込まれたゾロの太い指がそれを許してくれなくて、サンジはさっきから涎と嬌声を枕の上に垂れ流していた。
汗なのか涙なのか分からないものがサンジの顔を濡らして、快感を逃がすように金糸を振り乱すたびに水滴がゾロの顔まで飛ぶ。
「ゾ、ロ…っ」
腹の奥から一気に立ち上るみたいに、全身に甘い痺れが広がった。びくん、と、サンジのしなやかな白い背中が大きく反る。あ、あ、と漏れる声と、とろんとした恍惚とした顔。イったはずだけれど、もう精が出尽くしていて、ちょろちょろと濁った薄い液だけを漏らす竿は、半立ちのままひくひくと震えている。
「また、イった、か?」
穿った熱はまだ猛ったまま収まっているのに、裏腹な柔らかい労わるような言葉。
ゾロが背中をさすってくれる、温かい掌の感触だけはちゃんと感じられて、サンジはこくこくと頷く。もう限界なのに、繋がったところはずっと熱くて、身体の奥にあるゾロを、ずっと感じていたくて。
「…動くぞ」
そう問われたら、もう頷くしかできなくて。
サンジはまた目を閉じて、誘うように腰を揺らめかす。ゾロの手が腰に添えられ、また強く、大きく穿たれた。
ふ、と目を開ければ、朝なんてとっくに過ぎて、もう昼近いんだろうなァというのがすぐに分かるくらい、部屋の中が明るかった。
そういえばカーテンを引くのを忘れていたことに今気付く。
雨がやんだのか、目の前に広がる薄曇の空はそれでもところどころ青が覗いていて、控えめな日差しがぴかぴかと高層ビルを照らしていて、反射した光が太陽の光よりも強烈にきらきら跳ね返っていた。
ぼんやりとする頭を押さえ、身体を起こすと、ずるんと何だか重いものが身体を滑り落ちた。それが自分の身体に絡みついていたゾロの腕だと気付いて、隣に眠るゾロの顔を覗き込む。
ちょっと疲れたような、でも満足げな顔で、大きく口を開けて寝ていた。
その唇の端にちょんと口付けて、サンジはううんと大きく伸びをした。
身体が思ったよりさっぱりしているから、どうも意識を飛ばしてしまった後に風呂に入れてくれたみたいだけれど、それでもくっついて寝ていたせいかゾロがいるほうだけ微妙に汗ばんでいる。ベッドから降りると、シャワーを浴びにサンジは浴室へ向かった。
さっとだけ浴びて、バスローブを引っ掛けて戻ってくれば、ゾロが起き上がって丁度冷蔵庫を物色していた。
「俺も、水」
応えるように、ぽんと水のペットボトルが投げられたので、両手でキャッチする。
キャップを開けてごくごくと飲んだ。冷たい水が、ひりつく喉に気持ちいい。ああ、そういえば散々喘がされたんだっけ、と、思い出すとなんとなく恥ずかしい。
ふと見れば、ゾロは缶ビールを開けていた。
「…向かい酒かよ」
「別に二日酔いでもねェけどな」
笑いながら、どうせ休みだからな、と缶の中身を遠慮なく飲んでいる。そういえば有給を取った、と言っていたっけ。でなきゃ、あんな一晩中、どろどろになるみたいなセックスは出来ない。シャワーは浴びれたけれど、まだ身体のあちこちが軋んでいた。
サンジはペットボトルに蓋をして、サイドボードにおくとまたベッドにぽんと身体を投げ出した。ふわふわとした上質の、羽根布団に埋る感触が気持ちいい。
ゾロが、小さく笑った。
「…誘ってんのか?」
「は?」
顔だけ上げると、ベッドの端に腰掛けたゾロがちょいちょいとサンジを指差す。
「バスローブ」
「あ」
太腿まで肌蹴たバスローブを、慌てて合わせた。そういえば、まだ下着も身につけていない。そういうゾロも、ボクサーパンツしか履いていないが。
「…もう出来ねェよ、マジありえねェ、42歳…」
「さすがに俺ももう無理だな」
はは、と声を上げて笑って、ゾロもベッドに飛び込んできた。身体を抱きこまれ、くしゃくしゃと髪を撫でられる。
「…浮気、するんじゃねェぞ」
ぼそ、と、冗談めかして、でも全然冗談じゃない声で、ゾロが囁いた。
「そのまま返す」
サンジは巻きついてきた腕にしがみついて、笑いながらべぇと舌を出す。ゾロはフンと鼻を鳴らした。そして、ちょっとだけ表情を引き締めて、サンジの顔を覗き込んだ。
「まぁ、結婚つったけどな、籍にこだわってるわけじゃねェから養子縁組とかする気はねェが…」
コツ、と額が合わされる。
「誓い、みてェな、もんだな、俺ァ…もうこの先、てめえだけだ、から」
「ん」
鼻の奥がつんとした。
今までみたいに会えなくても、ゾロはずっと、ここにいる。
ゾロの手に指を絡めて、握り締めた。
「俺も、ゾロだけだ、このさき、ずっと」
「おう」
気がつけば、ゾロの薬指にもサンジと同じリングがはまっている。
サンジはそれに口付けて、そっと微笑んだ。
あっという間に日々が過ぎて。
卒業式も終わったその数日後、サンジは羽田空港の国際線ターミナルにいた。
あちこちに桜の装飾が見えて、ああ、ゾロと花見してからでも良かったなァ、なんてちょっとだけ寂しい気分になる。
荷物はもう、すべてパリの専門学校で用意してくれた寮に送ってしまった。手元には、大して物が入っていない小さなボストンが一つ。薄いカーキのナイロンコートのポケットに読みかけの文庫本と財布、携帯を突っ込んで、綿のニットにジーンズという、ちょっと出かけるだけみたいな格好でサンジはぶらぶらと空港内を歩いていた。もうチェックインは済ませてある。寮で配る用に御菓子をいくつか買って、それをボストンに突っ込んだ。
あえて夜間の便ではなく、昼間出発する飛行機にした。ゾロは案の定、その時間だと見送りに行けそうもねェ、と言った。見送られるのは嫌だったからあえてその時間にしたので、サンジはただ「うん」と頷いた。見送られれば、名残惜しくなる。その分、昨日たっぷり甘えさせてもらった。
朝、ゾロを見送るとき、その背中に抱きついて、行きたくないと縋りそうになったけど。でも、ふと振り返ったゾロが笑ってたから、大丈夫、と思えた。
大丈夫、離れていても、思いは通じているのだから。
時計を見れば、あと1時間くらいでフライトだ。
そろそろ搭乗ゲートに向かうか、と足を向けた、その時。
緑色の頭が見えて、サンジは足を止めた。向こうも、サンジを見つけたのか立ち止まる。
それは見間違えるわけも無く、ゾロ本人で。
朝見たものと同じスーツに、なぜか大きなスーツケースをごろごろと引っ張っている。
「え、ゾロ?」
「おう」
ひょいと手を上げて、ゾロは近付いてきた。
まさか見送りにくるとは思っていなかったので、サンジは慌てて駆け寄る。サプライズだとでも言うのだろうか。それでも、本当に来て欲しくなかったから複雑だ。心の準備ってやつもあるじゃないか、と、心の中で独り言ちる。
「何だよ、来るなら来るって…」
「手荷物カウンターがさっきからいっこうに見付からねぇんだが、お前ェ分かるか?」
「は?」
文句を遮るようなゾロの言葉に、思わず素っ頓狂な声が出た。
「スーツケースは持ち込み出来ねェらしいな」
それを気にした様子も無く、ゾロはめんどくせぇと呟きながら、スーツケースを軽く蹴飛ばす。
「あ、ああ、そのサイズは無、理、だけど、って、え?」
混乱してきた。
サンジは頭を抱えたい気分になりながら、ぶるぶると頭を振った。
「や、そもそも、オッサン、なんでいンの?」
「それは今説明すっから、時間ねェだろ、カウンター連れてけ」
やいやいと言い合いになりそうなところをぐっと堪え、確かに時間が無いと思い直してサンジはゾロのスーツケースを代わりに持つと、ごろごろ引っ張りながら手荷物カウンターまで連れて行った。ここ、と指差すと、ゾロは素直にその列に並ぶ。思ったより空いていて、すぐに済みそうだ。
列から離れようと、下がったサンジにゾロはぽんと書類の束を投げつけた。
「一応、社外秘だけどな、ちょっと読んでろ」
手の中のそれに目を落とせば、表紙に、ゾロの勤める建築会社の名前と、それに続いて
『パリ事業部設立計画書』
と記載されていた。
思わず、「え」と声が漏れた。どきどきどきどきと、心臓が早鐘を打つ。
ぺらぺらと捲ってみる。自分ではよく分からない文字の羅列の中に、ゾロ、の名前を見つけた。
「…パリ事業部…事業、部長?」
「おう」
独り言のように呟いたサンジの言葉に、戻ってきたゾロがあっけらかんと笑って返事を返した。
「…ゾロ?」
サンジが顔を上げる。泣きそうな気分と、笑いそうな気分が一緒に襲ってきて、今どんな表情をしているのか自分でも分からない。
「事業部自体は、まだ先の話だ…お前が、フランスに行くと決めたとき、すぐに会社に提案してみたんだ」
まぁ、もともと海外事業部を作ろうって話はずっと前からあったからな、と、いたずらっ子みたいに片眉をひょいと上げる。
「その計画書は、俺が作ったものだ。まだ未定事項だらけだが…それで、まぁとりあえず現地調査に行くことになってな」
ひら、とゾロはチケットと、パスポートをサンジに翳す。
「今日から2週間、俺もパリに行く。それ以降は、できるだけ早く、この話を実現化するからよ」
そこでちょっと言葉を切って、ゾロは肩をすくめた。
「…フランスで、暮らしてみンのも、悪くねェと思ってな」
ゾロの顔が、ゆらゆら揺れて、それからだんだん歪んでいく。
ああ、幻だったのかぁ、と思ったところで、目から熱いものがどっと溢れた。ぼろぼろ、涙があふれて頬を伝う。涙が止まらないのに、何だか無性に笑えて来た。
「米、食わねェと生きていけねェクセに…」
アホだろ、と震える声で言うと、ゾロの手が、サンジの髪をくしゃりと撫でた。
「俺ァ、てめえの好きなことを、好きにさせてやりてェと思ってる。追いかけてェ夢を、追いかけさせてェ」
くしゃくしゃと、少し乱暴に掻き混ぜる手。
ずっと掴んでいたいと、焦がれた手だ。
「でも、俺ァもう42だ、長生きするつもりだが、正直あとどれだけ生きられるかわからねェからな…」
「ちょ、ゾロっ」
何言ってんだと反論しようとしたサンジに、まァ待てと言うようにゾロは唇に指を当てる。それからにやりと笑った。
「だから、俺はてめえを追うことにした。てめえの行くところに、俺もついていく、そう、決めた」
ぎゅ、と、抱きしめられる。
「どうせ、一人でいたら俺ァ道に迷ってばかりだからな、てめえについていきゃ、間違いねェ」
でもな、とゾロは続ける。
「てめえが道を誤りそうになったら、後ろからふん捕まえて、ぶっ飛ばしてやるからよ…何たって、二人分の道だ、責任持って道を選べ」
「あはは、すげぇ、責任重大…」
ゾロの胸に顔を埋めたまま、サンジはくすくすと笑う。涙を指でぬぐって、はぁ、と息を付く。顔を上げれば、少し照れくさそうなゾロの顔が見えた。
「…ゾロ」
「おう」
「ゾロの、夢はねェの?俺の夢ばっか、追いかけちまっていいのか?」
ん?と目を見開き、そうだな、とゾロは呟く。
「…剣の道を、極められるモンなら極めてェ」
「すげぇ、かっこいいじゃん」
サンジが笑うと、ゾロは何だか納得したように頷いた。
「…俺はフランスで、大剣豪でも目指すか」
どこまで本気なのかも分からないような口調だったから、サンジはぎゃははと声を上げた。
「それ、サイコー!サイコーじゃん、ゾロ」
「そうだな」
ふと、フランス行きの便の、案内放送が入る。時計を見れば、そろそろ搭乗ゲートに向かわないと間に合わなくなってしまう時間だった。
「っと、やっべ、ゾロ走ろ」
「お、そんな時間か」
「追っかけてこいよ」
振り返りながら、に、と笑うと、ゾロが唇の端を上げ、フンと鼻を鳴らす。
「…間違えんなよ」
「間違えねェよ」
サンジが走り出すと、ゾロが後からついてくる気配を感じて。
自然と笑みが零れ、だんだん本当に笑いがこみ上げてきて。
草原を走り回る子犬みたいに、笑いながら、サンジはゾロと連れ立って、ゲートまで走った。
フランスでの専門学校が終わった後、二つ星のレストランに就職したサンジには、緑の髪の恋人がいて。休日は、剣道着を着た子どもたちと一緒に、二人の家でサンジのご飯に舌鼓を打つ。
その子どもたちが、彼を『ダイケンゴー』と呼ぶから、サンジは可笑しくて仕方が無い。
そんな二人の幸せな生活は、まだまだ先のお話。
けなげで一途なサンジが愛しいです…
愛されサンジ尊い…尊いよ…
ありがとうございます! ぱた
ひろむさんの作品のゾロの包容力ったら・・・!
夢と恋愛の狭間で悩むサンジに、沢山のサプライズプレゼント!
途中どうなっちゃうのかとハラハラでしたが、全部を諦めないという選択肢がとてもゾロらしくて素敵でした!
ラブラブな2人をありがとうございました!! ひか