人生は上々だ 〜ケンカップル・青春篇〜

わぬこ

ゾロとサンジはお隣同士。
物心ついた時からどこに行くのも何をするのもいつも一緒、とーっても仲良し♪と言いたいところだけれど、残念ながら寄ると触るとすぐ喧嘩の一触即発のライバル関係だった。
だからと言ってお互いを嫌っている訳でもなく、どちらか一方が不在の時にはなんとなく相手を気にして寂しくなってしまう(?)と言う面倒くさい間柄。
いわゆる喧嘩するほど仲がいいという、世間によくありがちな幼馴染の悪ガキコンビだった。幼いころは。

二人は共に両親から離れて育てられていた。
ゾロは母親を病気で亡くし、母方の伯父コウシロウに引き取られてシモツキ道場にやって来た。3歳の誕生日を迎えた直後の事だった。ちなみにゾロの父親は鷹の眼のミホークと言う男でドイツのジュラキール家の御曹司である。そのミホークが日本に留学生としてやって来た時にコウシロウの弟子として道場に出入りしていた。そこでコウシロウの妹と恋仲になりゾロを授かったのだが、家柄の差を理由に結婚は叶わなかった。そのことでミホークは実家を継ぐことを拒否し『暇つぶし』と称して世界中を放浪する日々だ。そんな弟子の性格をよく知るコウシロウは、彼に端から父親としての役割は期待しておらず、早くから覗いていたゾロの才能の片鱗を見抜いて自分の手で育てたいと望んだ為、二つ返事で彼を養子に迎えた。
一方サンジは両親を事故で失い2歳で天涯孤独になった。ゼフのレストランに住み込みで働いていたサンジの両親は、駆け落ちで日本にやって来ていた。遠く異国まで逃れてきた彼らの事情を生前ゼフは特に聞き出さなかったし彼らも話すことはなかったので、手がかりなど一切ないままサンジの親族を探しだすことが出来なかった。一時は施設に預けることも検討されたが、彼を実の孫の様に可愛がっていたゼフの鶴の一声により、サンジは彼の養子になった。
 似たような境遇でほぼ同じ時期に養子としてやって来た二人は、ゼフが仕事でサンジの面倒を見られない間シモツキ道場に預けられていたため、幼いころは実の兄弟の様に育てられた。学年では同学年の二人であったが、ゾロが11月、サンジが3月に誕生日を迎えるのでどうしてもゾロが先に一つ歳を取る。三歳児にしては発育が良かったゾロと、幼少期は天使のような外見で女の子に間違えられるほど愛らしかったサンジの見た目も相まって、周囲はどうしてもゾロを『おにいちゃん』として扱った。
 外見によらず負けず嫌いのサンジにはそれが悔しくて仕方なく、何かにつけてゾロに突っかかる。ゾロはゾロで本当は突っかかってくるサンジが悪いのに『おにいちゃん』として我慢を強いられるのが納得いかない。そんな二人の争いは毎年ゾロが誕生日を迎える11月からサンジが追いつく3月の4か月間特にひどくなった。

そんな二人の一番最初の戦いは『どっちが先におむつを外せるか』だった。
4才から保育園に入園する為の準備としてトイレトレーニングに励んでいた二人であったが、これは話し始めるのが早かったサンジの方に軍配が上がった。うまく尿意や便意を伝えることが出来て褒められ嬉しそうにするサンジを、ゾロはいつも唇を噛みしめて悔しそうに見つめていた。はじめは大喜びではしゃいでいたサンジだったが、度重なるゾロの失敗に次第に喜びを前面に出すのを遠慮するようになった。どうしたらゾロも上手くできるようになるのかと、サンジがなんとなく観察していると、ゾロはおしっこの時にはなんとなく動きが鈍くなること、うんちの時にはいつもより口がほんの少しへの字になることに気が付いた。
 それに気が付いてから、サンジは『じょろ、しゃんじちっこしたい』とか『うんちでたい、いっしょいって』と言ってはゾロの手をひき大人に知らせるようになった。そうして一緒に連れて来られたゾロもついでにトイレに入れられているうちに、自然とタイミングがつかめるようになって、4月の入園時には二人ともおむつなしで保育園に通うことが出来た。ちなみに二人のお気に入りのパンツの柄は、ゾロが『あいあんふらんき』でサンジが『ちょぱまん』であった。
 
次の戦いは『どっちが自転車の補助輪を外せるか』であった。
こちらは体格の大きいゾロの方が地面に脚を着けることもあって、最初から両方の輪を外して足こぎのできた彼の方が早く達成できるかと思われた。しかし片方の輪を外したサンジは早々に足を着けるのを諦め足を着かずにバランスを取ることを覚えた。その為サンジはバランスを取るのに邪魔になったもう片方の輪を取るとスイスイと乗りこなし、あっというまに上達してゾロに追いついてしまったので、この勝負はイーブンとなった。
もっともゾロはサンジとどこまでも遠くに(町内限定)遊びに行けるようになったことが嬉しくて、勝負のことなどどうでもよくなっていた。鉄砲玉のように飛び出していってしまうふたりを心配して大人たちはお揃いのヘルメットを買い与えた。おんなじデザインでも見分けがつく様に、後頭部の部分にゾロには『ぎらー』のサンジには『ろぷす』の絵が描かれた。

小学校入学後最初の戦いは『どっちが先にひらがな・カタカナ50音をマスターするか』で、これは道場で書道も教えていたコウシロウを伯父に持ったゾロの方が有利だった。書をしたためる伯父の横で新聞紙に真似事の字を書いていたゾロは、入学前にはほとんどのひらがなが描けた。後はカタカナだけだったからゾロの圧勝。サンジだって一緒に真似事をしていたはずなのだが鏡文字連発で、コウシロウに直しを入れられているうちに飽きてしまい興味を失って、ゾロのおばや姉たちのいる厨房にすぐ逃げ出してしまっていたのが仇になった。

逆に『どっちが先に九九をマスターするか』はサンジに軍配が上がった。
先の50音対戦でサンジが大差をつけられて負けたのを悔しく思ったバラティエの面々が、商売人のメンツをかけてサンジに猛特訓をしたからだ。お風呂場やトイレにはもちろん九九一覧表をはり、各段ごとに担当者を決めてスタッフ総出で教え込んだ。1の段2の段は簡単だが、段が上がるにつれて難易度は上がる。店で使う食材を並べて見える化したり調味料まで使って特訓したので、入数の多い食材の12の段や16の段、18の段なんて必要のない段まで覚えてしまったぐらいだ。サンジが九九の暗証テストをクラスで一番に突破したときなんかは、それこそ店を休んでバラティエ一同で盛大にお祝いした。その時の照れくさくてぶすっとしたサンジを中心にした写真が、賞状(担任手作り)と共に金ピカで立派な額に入れられ未だに店内に飾られているのを、いい加減外してほしいとサンジはいつもジジィに訴えるのだが、外して欲しければもっと凄い手柄を立ててこいとゼフに一蹴されてしまう。

周囲も巻き込んで毎年恒例で勃発していた競争はさらにエスカレートするかに見えたが、その後二人が成長するにつれ次第に開催される頻度が減って行った。小学校高学年になるころにはシモツキ道場の壁面と床の間は剣道で頭角を著したゾロの賞状やトロフィー、楯がずらりと並び、手柄だけならゾロの圧勝となってしまっていた。幼いころから四六時中つるんでいた二人も、ゾロは剣道の稽古で、サンジは店の手伝いで忙しくなり、学校以外では一緒に時間を過ごすことも少なくなっていった。二人が子供時代を終え、大人の階段を上り始めたのはそんなころだ。

小学校5年生の初夏、7月に行われる林間学校に先だって、保健体育の授業で性教育のビデオを見せられた。先輩からこの授業の事を聞かされていた男子たちはどこか照れくさいような浮かれた気分でぎゃあぎゃあ騒ぎながら視聴覚室に入って行く。はじめは男女一緒にスライドを見せられ、その後女子だけ視聴覚室に残されて男子は教室に戻され自習になった。
男子だけの教室は予想通りカオスになり、『女子だけ残されてどんな話を聞いてるんだろう』とか、『スゲーな!チンコってあーいうことに使うために付いてんだな、俺びっくりだぜ』なんて声があちこちから聞こえてくる。兄弟に兄がいる児童なんて、『そんな事今頃知ったのかよ』なんて馬鹿にしたような事を言っているが、コーフンした顔を隠せない時点で似たようなものである。
ゾロがサンジの様子をチラリと伺うと、彼には授業の内容がよほど衝撃的だったと見え、耳まで真っ赤で俯いていた。普段大人に囲まれているのにそっち方面は全く疎かったようだ。そのうち誰それのチンコがデカいとか誰はもう毛が生えているとかと言う方向に話がいき、ロロノアのはデカそうだなとか、サンジのチン毛はやっぱ金髪なのか?とかいつの間にか自分たちが話題にまきこまれ始めた。ゾロはそんな級友たちを鬱陶しく思いスルーする構えだったが、その中の一人がサンジにパンツの中を見せろとしつこく迫っていた。これにはさすがにゾロも無関心は貫けず、サンジを囲んで囃し立てている輪の中の、そいつの首根っこを掴んでこっちを向かせると、おもむろに自分のズボンを下着ごとずり下げ、ドヤ顔でこう言い放った。
「そんなに見たけりゃ俺のを見せてやる。ほら、毛だってもう生え始めたんだぜ?」
どんなもんだと言わんばかりに堂々と股間を曝すゾロに、クラスの男子全員度肝を抜かれた。囃し立てていた面々もほかの児童も一言『スゲー…』と言ったきり言葉を無くしている。サンジも大きく目を見開いたままゾロの股間を凝視して固まっていた。咄嗟にそんな行動に出てしまったが、サンジと目が合い我に返ったゾロは急に恥ずかしくなり内心慌てながら何食わぬ顔を必死で取り繕い下半身をしまうと席に戻った。
それ以来ゾロは同じクラスは勿論、同学年の男子すべてから一目置かれる伝説の存在となった。ただ、残念なことにサンジとはそれから長い間一緒に風呂に入ることはなくなった。

サンジがゾロと風呂に入らなくなったのはやはりあの事件が大きく関係していた。あの日サンジが目にしたゾロの股間は、幼い日一緒に風呂にはいったりしていた頃とは大きく様変わりしていた。自分もそれなりに成長していたが、ゾロのは完全に大人のそれに近かった。しかも毛まで生え始めていて、当たり前だけどそれが濃い緑だったことにも衝撃を受けた。ゾロに庇われたのも何だか悔しかったけれども、それだけが一緒に風呂に入らない理由ではない。
問題はゾロの下半身を見たときに自分に起きた変化だった。ゾロのチンコを見た瞬間、衝撃のあまり頭が真っ白になり気が付いたら失禁していた。そのあとすぐ休み時間になったので、サンジはあわてて教室を飛び出し始末をしにトイレに向かった。漏らしたのは少しだからセーフかな。それともパンツだけ脱いでハーフパンツで過ごすしかないかな、と絶望的な気持ちでパンツを下ろすと、そこは白っぽい粘液で汚れていた。
漏らしたのは尿ではなく精液だった。さっき勉強したばかりだから間違いない。先端に纏わりついたそれを一掬い指に取り、ねばねばしたそれを目の前で観察してみる。これが赤ちゃんの素か。少し独特の匂いがする糸を引くそれを指でこすり合わせながら、ゾロはもうこれが出るようになったのかなとか、ゾロも俺もいつか女の人とあんなことして、お父さんになるのかなとかぼんやり考えた。自分のそれは全く想像できないし、ゾロの想像するのはできるけどなぜか泣きそうなくらい嫌だった。
それから給食の時間が始まっても戻ってこないサンジを心配したゾロが担任の先生を連れトイレにやって来た。事の顛末をゾロから聞いていた先生は、ゾロを教室に返したあと扉越しに事情を聞いてサンジを保健室に連れてってくれた。保健室で替えのパンツをくれた養護の先生は、『ちょっと刺激の強い話だったかしらね、こうなったのは今日が初めて?』と尋ねてきた。サンジがこくりと頷くと、『そう、じゃあサンジ君も無事大人になったということね、決して恥ずかしい事ではないのよ?おめでとう』と言ってくれた。
支度が終わって教室に戻るかと尋ねられたが、サンジが首を横に振ったため、養護教諭はバラティエに連絡を入れ、サンジは迎えに来たパティとそのまま帰宅した。養護教諭から簡単に事情を聞いたパティは帰り道サンジの頭を無言で何度も撫でてくれ、帰宅後こっそりパンツの洗い方を教えてくれた。その日はジジィに何も言われなかったから折をみて話してくれたのだろう。


中学校に入って最初の対決は秋に行われた『クラスマッチのリレー対決』だった。
クラスが別れたゾロとサンジはどちらも足が速かったのでアンカーに選ばれて久しぶりの対戦となった。対戦前クラスメイトには『あんなケンドーバカの藻っさいマリモに俺が負けるわけないじゃん』とか『あんなヒョロヒョロで女にデレデレのグル眉に俺が負けるなんてありえねェ』なんてお互い悪態をついていたが、久々に戦えることを二人は密かにとても楽しみにしていた。
二人のクラスはどちらもスタートから飛び出て抜け出したものの、走者が変わっても順位はお互いのクラスの間で入れ替わり続け、結局勝負はアンカー戦に持ち込まれた。緑のはちまきをした3組のサンジと黄色のはちまきをした4組のゾロはバトンを受け取るためレーンに出る。バトンを受け取るまでのほんのわずかの時間、視線が交錯しお互いの鼓動が聞こえるほど体が近づいた。あ、これヤバいとサンジが思った瞬間、わずかにリードした4組のゾロがバトンを受け取るため助走を開始した。すぐ後を追う3組のサンジも一拍おいてスタートする。4組の選手がゾロにバトンを手渡し、速度を落としてレーンをはずれていく。サンジもバトンを後ろ手に受け取ると前に掴み直し必死でそれを追う。
先ほどまで聞こえていた歓声は耳に届かなくなり、自分とすぐ前を走るゾロの呼吸の音だけしか聞こえてこない。思えばいつでも自分はゾロの背中を追ってきたのに、いつからそれをしなく、いやできなくなったのだろう。そう考えたら胸が苦しくなった。でも今だけは、リレーと言う口実のある今だけは追いついて再び肩を並べたい。その気持ちがサンジを後押しする。
最終コーナーを回ってあと少しゴール直前でゾロに追いついたサンジはそのままゴールテープをきり大歓声が二人を包んだ。その後も二人の勢いは急には抑えられず、数十メートルほど走ったところでお互いバランスを崩し、もつれ絡まり二人はグラウンドに転倒してしまった。
サンジは痛みと息が切れたせいでなかなか起き上がることが出来ず青い空を見上げるしかなかった。ゾロも同じなのだろう荒い息で激しく胸を上下させ必死で呼吸を整えながら片手でサンジを探し、その手を探り当てるとぎゅっと掌を握って来た。ただでさえ激しく鼓動を打つサンジの心臓は今度こそ止まってしまうかと思った。
サンジは思わず目を閉じて、この時間が少しでも長く続きますようにと願ったが、間もなくいつまでも起き上がらない二人を心配したクラスメイトと養護教諭が二人のもとに駆け寄り、あっけなく終了した。
声を掛けられる直前、自分からつないだ手を離したゾロは、素早く起き上がるとサンジに手をさしのべ起き上がるのを手伝ってくれた。転倒の際足を痛めたサンジに肩を貸すと体育委員が持ってきた第一位の旗を片手に表彰台へ向かった。
その時に撮影された写真が今も壁のコルクボードに飾られている。それが純粋に幼馴染としてした最後の対戦になった。

中学2年になってゾロとサンジは再び同じクラスになった。
このころにはサンジは修行の為毎日店の手伝いがあったし、ゾロは全国レベルの剣道の選手になっていたから学校の授業時間以外の接触はほとんどなくなっていた。
彼らの学校は中学からは弁当持参だったので、サンジは修行を兼ねて毎日自分で弁当を作って持って行っていた。
ある日4時間目に家庭科実習があってそれを食べたら弁当が入らなくなってしまった事があった。まあ、一つ下の学年のルフィにでも持って行ってやるかと思っていたら、午前中は大会の予選に出ていて午後だけ授業を受けに来たゾロが弁当を忘れて登校してきた。ちょうどいいからこれやるとそれを渡すと、ゾロはさっそく包みを解いて蓋を開け、お!と少し嬉しそうな顔をして中身を掻き込み、あっという間に食べ終えてしまった。
「あー旨かった。助かったぜ。コレお前が作ったのか?」
「あ?あぁ…そうだけど。一応コック見習いだからな」
「ふーん、そうか。これからコレ俺が学校に来る日は毎日作ってくれ」
「え?………」
「あー、無理にとは言わねえけどな。どうせ食うならうまい飯の方がいいだろ」
「仕方ねェ、修行の一環だ。ついでに作ってやる。どうせ1個も2個も変わんねえし」 
小さいころおばさんには散々世話になったからな。お前に返すのはなんか変だけどまあいいや。大会で弁当いらねえ日は前の日までに言えよと、サンジは照れ隠し全開で矢継ぎ早にまくしたてた。
この日からサンジが毎日ゾロの弁当を作り、昼休みは二人で過ごすことが日課となった。
 
 そんなある日に持ち上がった新たな対決は『どっちが早くファーストキスを経験するか』
 こんなバカなお題を出すのは勿論サンジに決まっている。実際このお題を言い出した時のサンジの脂下がった顔を見て、その余りの馬鹿面にゾロは思わず遠い目をした。王子様の様にイケメンな俺と汗臭いマリモ君が勝負じゃハンデがあり過ぎて、なんか俺卑怯だったりする?なんてのたまわっていた。恋に恋するサンジは、女の子とキスするってどんななんだろうなぁ、イチゴの味がするのかなあなんて呟きながら馬鹿な妄想で頭を一杯にしているんだろう。だからそんな対決を思いつくし、自分の方が女子にモテると絶対的な自信で鼻の穴を膨らませている。サンジは知らないが、剣道で有名になったゾロは一見端正な顔立ちと硬派な印象も手伝って、正直結構モテる。しかも全国的に。ファンレターや差し入れも大会の度に相当な数が集まるのだが、サンジに言うとまた僻んで面倒くさい事この上ないからゾロは黙っていることにしていた。
対決も放置の方向で行こうと思ったが、このお題が出てから昼は毎日この話題になり、お花畑から帰ってこないサンジにゾロはいい加減うんざりしたので、対決を強硬手段で強制終了することにした。弁当を食べ終わってなお、夢の世界から戻ってこないサンジの顔をくいっとこちらに向かせて、その煩い唇をおもむろに塞いだ。
「!!!!!!」
突然の出来事にサンジは目を見開いて一瞬固まった。しかしすぐに状況を把握しじたばたと暴れ、ひるんだゾロを蹴り飛ばして自身も数メートル後ろに後ずさる。
「何してくれてんだ!!!テメェ!!!!!」
「あ?何ってファーストキス。お前があんまり煩いからだ。コレでお相子だし文句ねぇだろ。良かったな」
 「お相子って…おま…おまッ…良い訳ねェだろ!!こんなのノーカンだ!!ノーカン!!初キスがから揚げの味だなんて……こんなの絶対認めないぞ!!!」
別に認めてもらわなくて結構。俺のファーストキスの味はお前のから揚げの味で決定だ。大好物の弁当のおかずだなんて最高じゃねえか。そんなセリフを頭の中で呟いきつつゾロは喚くサンジを一人置いて、すっきりした顔で教室に戻った。

サンジがノーカウントと言った初キス対決は、その後もリベンジマッチが行われることなく中学生活が終了し、ゾロは推薦で剣道の強豪校へ、サンジは将来に活かそうと食品加工科のある高校に進学した。別々の高校に進学したことで二人の接点はほとんど無くなってしまったが、なぜか弁当作りだけは継続されていた。朝、サンジが出来あがった弁当を隣の道場に届けてから登校し、夜、食べ終わった弁当箱をゾロがバラティエに返しに来る。朝も、夜もお互い忙しくほとんど会話をすることはなかったけど、サンジは弁当の中身のバリエーションで、ゾロはそれを全部平らげることでコミュニケーションはなんとなく成立していた。
11月のある日の夕暮れ、学校から戻ったゾロがいつも通りバラティエに弁当箱を返しに行くとそこにサンジの姿はなかった。聞くと何でも熱っぽいと言って今日は仕事を休み、自宅で安静にしているという。
ゾロはサンジの部屋のある店の裏手の建物に回り、小さいころから来ているの勝手知ったる他人の家とばかりにずかずかと上がり込んで、サンジの部屋を目指した。寝ている所を起こしてはいけないので一応中の様子を伺うと、サンジの息遣いが聞こえた。なんだかとても苦しそうだ。心配になったゾロは最初の気遣いも構わずいきなり勢いよくドアを開けた。
「おいお前!…大丈夫…か…?」
「なッ!!!!!」
声を掛けたのと、サンジが驚いて毛布を引っ被ったのはほぼ同時だった。
同時だったが、室内に漂う匂いにサンジが苦しそうにしていた理由がわかってしまった。
「あーーー……その…スマン……弁当箱ここでいいか?」
あまりのタイミングのマズさに頭を?き掻きその場に立ち尽くすゾロだったが、サンジが毛布を更に引き上げた拍子にはみ出してしまった雑誌に目が留まり、部屋に入ってそれをヒョイッとつまみ上げた。
「これって……」
手にした雑誌をぺらぺらと捲っていくと何か所か折癖が付いていた。その写真のどれにも自分が写っていたことにゾロはとても驚いた。
「軽蔑しただろ?…分かったらもう出て行ってくれ…」
サンジは毛布を被ったまま消え入りそうな声でそう言ったが、ゾロは部屋に入るとドアを閉めて鍵までかけてしまった。その音に驚いたサンジが飛び起きると、ゾロはとりあえず制服のジャケットを脱いで、ベッドの上のサンジの隣に座った。
「いつからだ……」
「……………」
「責めている訳じゃねえ……ただちょっと驚いているだけだ。で、いつからだ」
「言いたくない」
「そうか……ならいい」
そう言うとゾロはサンジをうしろから抱き抱え、毛布を手繰り寄せて一緒に包まった。
こんなに身体冷えちまって…と呟き、むき出しの脚と肌蹴られた胸を掌で摩り続ける。
毛布の中で二人の身体がだんだん熱を持ってくる。
背中に押し当てられたゾロの鼓動が伝わってくる。
無意識にだんだん荒くなるゾロの息がサンジの耳元を擽る。
ゾロも興奮してるんだとわかって、サンジは気が遠くなりそうになりゆっくりと後ろのゾロに凭れ掛かる。それを受け止めるようにゾロが腕を廻して抱きしめてくるとサンジの腰のあたりに何か固いものが当たったのがわかった。ビクッと身体を震わせるサンジに「悪い…お前にもっと触れてもいいか?」とゾロは尋ねる。彼が無言で頷くとゾロはやわらかい体毛の生えた脛と腿に掌を這わせてきた。その手はそのまま中心に向かっていき、サンジの陰嚢と再び力を取り戻しつつあるペニスの輪郭を確かめるように触れてきた。
「お前のココ、熱いな…」
左手で袋を受け止め、右手で竿の付け根から指の腹で形を辿ってから、先端のくびれをくるりとなぞるとサンジは「あ…」っと小さく吐息を漏らした。その声を聴いていてもたっても居られなくなったゾロが俺も脱いでいいかと聞いてきたので、サンジは毛布の中で向き直るとゾロのベルトを外し、スラックスを脱ぐ手伝いをした。そこで触れたボクサーパンツの膨らみの大きさに息を呑む。上を向いた先端のグレーの生地が濃く色を変えているのをゾロは「お前を見てたらこうなっちまった」少しばつが悪そうに言い訳した。
サンジが意を決してパンツを下ろすとそれはプルンと大きく弾かれて糸を引いて飛び出してきた。おずおずと手を伸ばし、そっと包みこんでくるその仕草があまりにも可愛らしくて、ゾロはサンジを抱え上げると胡坐をかいた自らの上にサンジを座らせる。二つの起立が交差して触れ合う。幹もごつごつと太く雁首が張り出し、青筋を立ててそそり勃つゾロのそれにくらべ、サンジのペニスは太くてもすんなりとかなり長く綺麗なピンク色の幹に薄紅色の果実のような先端が蜜を零し佇んでいた。同じ男性器でもこうも違う物かとお互いとても驚いた。
「お前のそれ、相変わらずすげえなぁ…」毛が緑だから何かキノコ狩りみたいだな、へへッ!とサンジは照れ笑いしながら両手でそっと握ってきた。
「お前のは、なんか綺麗だな。舐めたらイチゴかなんかの味がしそうだ」と言うと、そんな訳ないだろ?バカ…。とサンジは抗議し、ゾロはまるで繊細な砂糖菓子のようなそれを、竹刀を構えるときのような厳かな気持ちで握った。
 自分自身では慣れた行為でも他人のを高めるとなるとなかなか要領も掴めず、始めはぎこちなく扱きあっていた。しかしお互いの鼓動、荒い息遣い、ニチャニチャと響く水音に煽られ、次第に興奮が高まってきた。
二人はどちらともなく手を伸ばし片手で身体をきつく抱き締めあうと、2本を纏めて握りしめたサンジの手にゾロの手を重ね激しく追い立て、遂には同時に温かい迸りを高く長く弾けさせた。
 血管が切れたかと思うような激しい快感が二人の身体を貫いた後、お互いの肩に顎をのせ乱れた息を整えつつ腰に残る甘い痺れに身を任せる。
 やがて乱れた息が収まり、汗が冷えて身震いをした二人は顔を上げてどちらともなく唇を重ね、照れくさそうに視線を交わすと腕を解いて上半身を離す。
 そして下を見下ろした二人はその惨状に呆然とする。
「いや……まあ、凄いことになってるな……」
 「うん……二人分……の量じゃないよな」
 どうするか、と考えあぐね、とりあえず胸に飛び散った精を慌ててふき取る。その時、少し力を失ったサンジのそれに纏わりつく精を指先で掬ってゾロが口に含んだ。
 「やっぱ甘くはねえんだな…」
 「ちょッ!おまッ、当たり前だろ!なに舐めてんだよ」
サンジは怒ってゾロにティッシュボックスを投げつける。ゾロは笑いながらそれを受け止めて、サンジの性器を丁寧に、自分のそれをぞんざいに拭うと丸めたティッシュをゴミ箱にシュートした。
 「今度からは雑誌なんかじゃなくて生身の俺を使え、いつでも付き合うから」
身支度を整え、荷物を担いだゾロは、いまだ脱力してベッドに横たわるサンジにそう言い残して部屋の扉を静かに閉め部屋を出て行った。

ゾロが部屋を出て行ったあと、壁に掛けられているカレンダーをボンヤリと眺めていたサンジは今日が11日であることに気が付いた。意図していなかった事とは言え、思いがけず濃厚な時間を過ごしてしまった事にサンジは頭を抱えた。今日が誕生日だって、あいつは分かっていてあんなことしたのだろうか?ってか、これってもしかして友達のラインを越えちゃったりした?よりによってあの筋肉マリモと。百歩譲って俺はよくても、あいつはどう考えてるのだろう。
ぐるぐると考えていたら、本当に熱が上がってきてしまったみたいだ。原因は何処にあるのか不明だが、真っ赤な顔をしたサンジはその日そのままベッドから出ることが出来なかった。

うっかり友達の一線を越えてしまうことを躊躇しないでもなかったが、俺、今日誕生日だしまあいいかと都合よく考え、思いがけずやって来た『サンジ獲得 』と言うチャンスを辛くもあるがモノにし、一歩前進したことをほくほくとした気持ちでいた確信犯のゾロだったが…。そうは問屋がおろさなかったと思い知る。

サンジの部屋を出て階段を下りると、仕事をしているはずのゼフが玄関で仁王立ちしていた。ゾロは思わずぎょっとする。
「チビナスの具合はどうだった」
 「あ…。少し熱っぽいみたいでしたが、寝てればたぶん大丈夫かと…… 」
 「そうか…世話かけたな」
 「いえ……」
 後ろめたさを隠すように俯いたまま急いで靴を履き、軽く会釈をして失礼しますと玄関を出ようとしたゾロにゼフはこう言った。
 「野暮な事ァ言うつもりはねェが、あれでもウチの大事な一人息子だ。成人するまではお互い大事にしろ」


誕生日の僥倖で浮かれる気持ちにしっかり釘を刺されたゾロは、目指す道がまだ遠く険しい事を思い知った。だが、元来楽天的な彼は、『俺はまだまだ強くなれる 』と気持ちを新たに、サンジ獲得への道を進むことを決意する。目指す道はそれ!?と言う気が若干しないでもないが…。まあいいや。

ロロノア・ゾロ 17歳 新たな波乱の日々の幕開けであった
人生は上々だ 〜ケンカップル・青春篇〜《完》


迷子マリモ君お誕生日おめでとう!君と眉毛に幸あれ!
2015年11月11日

とてもお母さんの気分で読んでしまいました…
ある時「ストン」と落ちていく幼馴染カップル、良いですね〜
これからもずっと肩並べてイチャコラ人生歩いていってほしい2人ですv
ありがとうございました! ぱた

同い年の二人が、一緒に大人になっていく過程というのも良いものですv
ワンピの原作世界はなかなかに苛烈なため、幼馴染のふたりが生別死別する展開が非常に多いのですが、
現代パラレルはシアワセな二人を堪能することが出来る素敵設定ですv
芳賀は親戚のオバちゃん感覚で楽しませていただきましたw
素敵な作品をありがとうございました!! ひか