酒菜あみ
船の揺れとは違う空気の揺らぎに気づいて、ゾロは体を起こした。丈夫な硬い毛布に包まってるとはいえ、吹きっさらしの見張り台で体が冷えている。直前の記憶では空は漆黒のはずだったが、今は背後がほのかに淡い。朝が近いのだろう。
男部屋からのハッチが開いている。ゾロの感じた揺らぎは、そこからのそのそ上がってきた黄色い頭だった。緩慢な動きでハッチを閉めると、這うように階段を上がってキッチンの扉の前で座り込んだ。三角にした足の上に黄色い頭を乗せて、時々顔を上げては、いつの間にか火を点けていた煙草の煙を吐き出す。1本の煙草をそれなりに時間をかけて吸い切ると、ぐーっと両手を上げて、それから飛び上がるように立った。よし、と自分を鼓舞するような声を出して、キッチンへと消える。
新たに仲間になった男は料理人で、誰より早く起きる。だが、朝に強いわけではなさそうだ。さっきみたいに時間をかけて目を覚ましている様子のサンジを、ゾロは不寝番のたびに目撃している。
しばらくすると、キッチンからサンジが出てきた。もうすっかりいつもどおりの軽い足取りで、階段を下りるとマストを上ってくる。
「お、起きてたか。感心、感心」
サンジは持ってきた水筒をゾロに差し出した。ついさっきまで寝ていたようだが、もちろんゾロは言わない。
「酒か？」
「コーヒーですぅぅ！ てめェ、朝っぱらから酒飲む気か」
早朝の冷たい空気の中、ぼんやりした頭では言い返すのも面倒なので黙っておく。指を口に突っ込んでイーッという顔をして、サンジは見張り台から下りていった。
「ガキか……」
あれでゾロと同い年だというのだから驚きだ。普段からスーツを着て、煙草ばかり吸っているくせに、ゾロからすればサンジはかなり子供っぽく見える。
ひとまず、ひとり起きてきたのなら見張りはもういいだろうと、ゾロはその場で目を閉じた。それまで居眠りをしていたことを、気づいて咎める者はいない。
「サンジー！ 肉ーーー！！」
「もう十分食ったろうが！ ほら、これで終いだぞ」
朝食とはおよそ言い難い量を食べて、ルフィの腹は存分に膨れ上がっている。
嫌いなキノコを肉の上に乗せてわざとルフィに狙わせたウソップの皿には、サンジによって倍のキノコが乗せられた。ウソップは涙目になっている。
「このデザートおいしい！ ありがと、サンジ君」
微笑まれて、サンジはくるくる回って喜びを表現した。リンゴのコンポートで作ったゼリーは、ナミにだけ供されている。朝食のデザートは、いつもナミにしか出ない。
ゾロはルフィに取られないよう肉を先に食べてから、ゆっくりパンを齧った。
料理人が仲間になって、食事の時間が賑やかになった。もともとルフィのせいで食卓は戦場のようでもあるのだが、美味い食事を、みんな味わって楽しんで食べている。緊張感がないようにも思われるのだが、そう考えるゾロだって、食事の時間を楽しみにしているのだった。
「サンジ君、かわいいわよね」
本人に聞こえないように、ナミがゾロに囁く。
「アァ？」
「か、わ、い、い、でしょ？ サンジ君」
「お前にだけだろ……」
忠実な僕のように動くのだから、そりゃあかわいくも見えるだろう。ゾロはそう思ったが、「そういうことじゃないわよ」とナミは頬杖をついた。その手がぐっと頬を押す。「ブサイクになってんぞ」とゾロが言うと、ナミは頬杖をついたままでベーッと舌を出した。ついでにサンジがガツンと脳天に蹴りを入れる。
「おい、何すんだ！」
立ち上がりかけたゾロの耳を、ナミがぐいっと引っ張った。
「あんたが悪いんでしょ」
この船の仲間は、みんな乱暴だ。ゾロは、自分のことはまるきり棚に上げて、そう思った。
*
島に着くと、みんなバラバラにメリー号を降りていった。前の島を出てまだ2日しか経っていないので、足りないものを買い足したらすぐに出航するようだ。ゾロは特に買うものもないし金もないので、船に残ることにした。トレーニングでもしていたほうが、有意義に過ごせる。
薄曇りの空の高いところを、鳥が群れを成して飛んでいく。群れ全体が、大きな鳥の形に見えた。おそらくはわざとなのだろう。大きく見せて、敵を威嚇する。そういうのが、ゾロは嫌いではない。鳥はゾロみたいに強くなる鍛錬ができるわけでもないのだろうから、代わりに頭を使うのだ。仲間と一緒に、というのもいい。そんな風に思うのは、ルフィの影響かもしれない。
ゾロは黙々と錘を担いでスクワットを繰り返した。922、923。このまま2000までスクワットにするか、それとも1000で切り上げて腕立て伏せに変えるか、700ぐらいから考えはじめて、まだ決めかねている。930、931。
ふと、懐かしい映像がゾロの頭を過った。祭りの屋台。ヨーヨー釣りや金魚すくい。すると、ひょいと黒いスーツが姿を現した。
「なんか、いい匂いがする」
「あー、コレか？」
サンジは担いできた大きな荷物を甲板に下ろして、小さな茶色の紙袋から白いパックを取り出した。
「キャベツ焼きだってさ。こういうの、食ったことねェんだよなー」
ソースの香りが懐かしい。祭りを思い出したのはコレのせいか、とゾロは思った。少ない小遣いでなるべく食いでのあるものという基準で選んだから、キャベツ焼きは屋台でよく買って食べた。944、945。
「おれも食いてェ」
「やーだね。簡単に作れそうだから、ソース研究するんだ」
パックを紙袋に戻して、サンジは荷物を担ぎなおして、ラウンジに消えた。
結局、スクワットで1000を数えたところで、ゾロは休憩を挟むことにした。さっきの匂いで、腹が減ったのだ。キッチンに行けば、何か食べられるだろう。ラウンジの扉を開けると、まだソースの匂いがしていた。
「お、やっと来たか」
冷蔵庫に買ってきたものを詰め込んでいたサンジは、ちょうど全部入れたところだったのだろう、パタンと扉を閉めた。テーブルには茶色の紙袋と、茶の入ったマグがふたつ置いてある。サンジは紙袋からさっきのパックを取り出すと、小ぶりのナイフで半分に切った。
「ほれ」
「いいのか？」
「どーぞ」
差し出されたパックから遠慮なく半分を手で掴むと、キャベツがこぼれそうになって、ゾロは慌ててそれを口に運んだ。やっぱり懐かしい味だ。
「へー。なかなか美味いな」
宣言どおり口の中で研究をしているのだろう、もぐもぐとキャベツ焼きを食べながら、サンジの目は真剣だ。
「見てろよ。もっと美味ェの、食わせるからな」
「あー……、けどよ、これは安っぽいのがいいんだ」
「それはわかる気がするな」
ウソップも好きそうだなとか、ルフィは肉入れろって言うだろうなとか、サンジはぶつぶつ言いながらメモに何かを書き留めている。
メモの内容には興味がないが、サンジがページの右上に書いた日付が、ふとゾロの目に留まった。
「ん？ 今日、11月10日なのか？」
「そうだよ。てめェ、今日が何日かも知らねェのか」
「んなの、いちいち気にしてねェよ。そうか、じゃあ明日、誕生日だ」
メモに目を落としていたサンジは、その言葉に顔を上げた。ぐるりと巻いた眉が、ひくっと吊り上がっているように見える。
「……待て。お前、何才になる？」
とても重要なことを訊くように、サンジはそれを一音一音丁寧に発音した。
何を今さら、とゾロは思う。ココヤシ村から5人で出航した直後、サンジは全員に年齢を訊いていた。だからゾロも、サンジが同い年だということを知っているのだ。
「決まってんだろ。19だ」
――ハァァァァ。
何度目かの大きなため息がゾロの前に吐き出される。
非常に面倒くさい。早く誰か帰ってこねェかなと思う。
「まさか……年上だったなんて……」
「同い年だろうが」
「年上になるじゃねェか！ おれ明日になってもまだ18だぞ」
この会話も、何度目だか。
8才で客船に乗って下働きをしていたサンジは、まわりには大人しかいなかったと言う。オービット号の頃から10才は年の離れたお兄さんやおじさんばかりで、バラティエではおっさんやジジイばかり。早く大人になりたかったけれど、どれだけ誕生日が来てもまわりも同じだけ年を取っていくから、いつまで経ってもチビ扱いだった。メリー号の仲間は全員が同年代で、サンジはウキウキした。しかも、ルフィ、ナミ、ウソップは年下。一番上のゾロだって、同い年だ。はじめての一番お兄さんな立場に、サンジは張り切った。朝食を作るのはコックの仕事だから当然だが、寝ている仲間を起こすのも年上の自分の役目だと思った。しょうがねェな、ガキどもめ。そう思うと、ルフィもゾロもウソップもちょっと可愛く見えてしまう。
ゾロは同年代の子供たちと一緒に育ってきたから、サンジの言い分はよくわからないが、それで朝早くに起きるのかと、その点については納得した。
「クソ、てめェが年上なんてよー」
「同い年だ」
「おれ明日も明後日も18だしよー」
そもそも、ちょっとの差でぐちぐち言うのが非常に子供っぽいではないか。何がお兄さんだ。
「じゃあ、てめェはいつ19才になるんだ」
「おれ？ 3月2日」
「――3月！？ ハ、」
アホじゃねェのか。と、ゾロは思っただけのつもりだったが、どうも口に出ていたらしい。サンジがキッと睨んできた。
「お前な、3月生まれだったら、同い年のヤツはたいがい先に誕生日来るだろうが」
「へ？ ……そう、か。同い年ってはじめてだから、ンなの考えたことなかったんだよ！」
わぁわぁ言いながら、サンジはテーブルに突っ伏した。泣いてはいないが、非常にうるさい。普段からそうだが、今日は一段とガキっぽく見える。ゾロは、なんだかサンジが不憫になった。
「あー。じゃあ、あれだ。てめェ、誕生日プレゼント寄越せ」
「イヤだよ。何で裏切り者の誕生日を祝わねェといけねェんだ」
「てめェの誕生日、もらってやる。代わりにおれのをやるから、そんでいいだろ」
「――ハ？ てめェ、何言って、」
いつの間にか裏切り者とまで言われているが、ゾロは流してやることにした。
ちょうど、賑やかな声が聞こえてきた。ルフィだ。ゾロがラウンジの扉を開けると、ナミとウソップも一緒だった。もっと早く帰ってこいよと思うが、それも流す。
「おい、船長！ 明日、コックの誕生日らしいぜ」
後ろからけっこうな数の疑問符が飛んできたが、無視しておく。これから3月になるまで延々と恨み言が続きそうで、それを思えば誕生日などいつでも別に構わない。とりあえず問題解決だと、ゾロは息を吐いた。
*
おめでとうと何度も言われて、そのたびにサンジは居心地悪そうな顔をしている。
出航直前、ルフィが明日は宴だと騒ぐので、食料の買い足しをしたから、ラウンジのテーブルには随分と豪勢な食事が並んでいる。料理をしたのはもちろんサンジだが、主役だからと乾杯の後は席を立つことを許されず、追加の皿はウソップと時々ナミが運んでくる。キッチンはすぐそばで大した距離でもないのに、ナミが皿を持ってくるとサンジは大げさに恐縮した。
「いいのよ。プレゼントが用意できなかったから、その代わりね」
ウインクまでされて、サンジはメロメロと蕩けそうになっている。
酒も樽でふたつ追加したので、ゾロは気兼ねなく飲んだ。
今の風なら大丈夫だとナミが言うので、錨は下ろしていない。時々交代で見張り台に上る。そろそろ、とサンジが行こうとするのをウソップが押しとどめるので、おれが行くとゾロが立った。木のコップいっぱいに樽から酒を注いで、飲みながらマストを上る。
宴はまだ明るいうちから始めたのに、もう星が見えている。ラウンジの中は暖かかったが、見張り台では風が冷たい。置いてある毛布は、たぶんさっき来たウソップが持ってきたのだろう。ゾロはぐるりとまわりを見渡して、それから空を見上げる。一番大きい星に向かって立ったときに、あんたのピアスの方向に船が向かっていたらＯＫよ。ラウンジを出てくるときに、ナミに言われたことを確認する。メリーはちゃんと、正しい方向へと進んでいるようだ。ゾロは毛布をかぶって座った。とりあえず持ってきた1杯を飲んで、それから下りるつもりだ。
見張り台が揺れて、誰かがマストを上ってきた。キラキラの丸い頭が覗く。
「よく出てこれたな」
「トイレぐらい行かせろって言ってきた」
見張り台に座り込んだサンジは、ふーっと息を吐いて、それから煙草に火を点けた。食卓に座っていては吸えなかったのだろう、深々と吸い込む。ジャケットを着ているのでゾロよりは厚着だが、それでもぶるりと震えるのを見て、ゾロは毛布をずらして、端をぐいと突き出した。
「おめー、意外と普通に優しいとこあるな」
ふにゃり、と、笑っているのか寒いのか微妙な顔をして、サンジは毛布の端にもぐりこんだ。また深く煙草を吸い込んで、長く吐き出す。
意外は余計だと言おうとして、優しいと言われたのもなんだか照れくさく、ゾロはそれに突っ込みそびれた。手持ち無沙汰に、酒を流し込む。遠くで星が流れるのが見えた。ゾロはそれで、昨日見た鳥のことを思い出した。仲間と一緒になって、大きな鳥の形になって飛ぶ群れ。
「ルフィが、助けてもらわねェと生きていけねェって言ってただろ」
「ああ」
「おれもそうだと思った」
そんなこと、ゾロは考えてみたこともなかった。でも、ルフィが言うのを聞いて、確かにそうだと思った。そのルフィが一番に仲間にしたのが自分であることが誇らしかったし、だから自分はルフィの仲間になったのだと実感した。
サンジは頷いて、ぷっと笑った。
「まあ、みんなそうだろ。でも、ルフィとかてめェみてェなヤツは、特にな。ひとりで生きていけそうな顔して、ひとりだと一番無理なタイプだ」
「てめェだって無理だろ」
ごく軽い気持ちでそう言ったのに、ほんのわずか俯いたサンジの前髪の作った影が、ゾロの胸をざわつかせた。「うん、無理だ」という声が、波の音に溶けるように沈んでいく。
「大丈夫だ、みんないるし。おれもいる」
慌てて焦って、ゾロは柄にもないことを口走ってしまった。ふと、ウソップの顔が浮かんだ。あれは不安になるから、余計なことまで喋るんだな。そう思って、いま自分は不安になったのかと驚いた。
「何言ってんの、お前」
サンジは困ったように、でも出会ってから一番の優しい顔で、ふわりと笑った。うわ、とゾロは心の中で叫ぶ。いや、これもまた声に出てしまったかもしれない。なんだかものすごくマズイものを見たような気がした。こんな顔するなんて、ちょっと、反則だ。
「ま、てめェはおれの弟分だからな。今日から」
「同い年に弟分もねェだろ」
「へへっ。さーて、そろそろ行かねェと、愛しのナミさんに大だと思われちまう！」
ナミの名を口にしただけで目をハートにして、唐突にサンジは見張り台から下りて、「ナミっすわーん！」と叫びながら走って行った。無造作に捲りあげられた毛布に風が送り込まれて、ひんやりとする。
「――やっぱりただのアホだ」
ゾロが出会った同年代の中でも、群を抜いてアホ。ゾロはそう結論づけた。目が乾いてひりつくのに気付いて、慌ててぱちぱちと瞬きをする。閉じてしまうとさっきのサンジの顔が浮かんでしまいそうで、知らず瞬きを我慢してしまっていた。
*
それから数日。
「ほんっと、てめェバカだな。その頭、植物っぽいもんな。人間様の言葉はわからねェんだな」
「なんだと！ たたっ斬ってやる！」
「ほーう、おもしれェ。三枚にオロシてやるぜ！」
外甲板で喧嘩が始まって、ウソップは早々に逃げ出した。ナミはラウンジか女部屋だろう。
そろそろ島が見えてくるかもとナミが言ったので、ルフィは船首の特等席に座って、じっと前を見ている。基本的には動かないでいるのが苦手な船長だが、これだけは特別らしい。それでもちょっと飽きたのか、胡坐のままでばたんと仰向けになった。
「おめーら、また喧嘩してんのか」
刀と脚という武器をそこそこ本気で使っているふたりに、咎めるでもなく、のんびり言う。
また、と言われる程度には、ゾロとサンジの喧嘩は頻繁だった。原因はいつも取るに足らないことだが、どうもお互いが相手だとムキになってしまう。
「サンジは、ゾロと喧嘩すんの、好きだなー」
仰向けの、メリーの頭の形に沿った見た目にはしんどそうな体制で、ルフィはしししと笑った。
「別にっ！ そんなんじゃねェよっ！」
ゾロの刀を躱し、サンジは顔を赤くして、船首に向かって怒鳴った。激しく体を動かしていたせいで、妙に言葉尻が跳ねている。ゾロは隙を突くでもなく、その横顔を見た。サンジの表情は、けっこうわかりやすい。図星だと顔に書いてあるように見える。
「サンジくーん！ 紅茶飲みたい」
ラウンジの扉からナミが呼ぶと、ゾロとの喧嘩もルフィの言葉も一瞬で忘れたように、サンジは両手を胸の前で組んで返事をし、スキップして行ってしまった。
「――そうなのか？」
ゾロが訊くと、ルフィは「んん？」と首を傾げた。言ったことをもう忘れてしまったらしい。まあルフィはうそが吐けないと言っていたことだし、思ったことをそのまま言っただけだろう。喧嘩が好きだなんて変わった趣味だが、ナミはもちろんのこと、ルフィやウソップと喧嘩をしているのも見たことはない。ルフィより本人に訊けばいいだろうと、ゾロはラウンジに向かった。
フルーツっぽい匂いがラウンジに漂っている。ナミの前に置かれた紅茶が湯気を上げていた。
「どうなんだ？」
いろいろ端折った言葉も、サンジはすぐに理解したらしい。
「だから別に、そんなんじゃねェって」
また、顔を赤くしている。
ナミはゾロとサンジの顔を交互に見て、それから「部屋で海図書くわ」と紅茶のカップを持って出て行った。ちょうどいい、とゾロは思う。ナミがいると、サンジはそっちにばかり気を取られる。ナミが気を利かせたなんてことは、残念ながら思いつきもしなかった。
「これも、あれの一環か？」
「――まったくわからねェ。ちゃんと人語を話せ」
「今まで年上ばっかだったってやつ」
それは、ゾロがラウンジに入る直前、ふと見張り台を見上げてそのことを思い出したのだ。もしかして喧嘩なんてしたことなかったんじゃねェのか、と思った。レストランのオーナーとは仲良くはしていなかったようだが、あれだけ年が離れていたら喧嘩にはならないだろう。
だからって、喧嘩して喜んでいるのもどうかと思うが、経験のないことをして嬉しくなる気持ちはわからないでもない。サンジは、頷きはしないが、否定もしない。肯定したのと同じことだ。
「あー……。まァいい。おれも茶をくれ」
「おう」
ほっとしたように息を吐いて、サンジはヤカンを火にかけた。後ろからちらりと見える耳がやっぱり赤い。
ゾロは、ピンと来た。サンジがルフィやウソップがかわいいと言っていたのは、コレだ。誕生日はサンジと交換してしまったから今は違うが、もともとはゾロの方がちょっとだけ年上だったのだ。同い年だけど。
サンジは紅茶の入ったカップをふたつ持ってきた。自分も飲むつもりなのだ。ゾロの前にカップを置いて、テーブルの角を挟んでゾロの斜めの席に座る。ゾロはその黄色い頭をガシゴシと撫でた。丸くてつるつるしている。
「な、な、な、」
サンジはいっそう顔を赤くして、硬直している。目を白黒させていて、面白ェなとゾロは思った。
「お前、かわいいな」
年下だ（った）から。
「か、か、か、」
赤みがどんどん強くなって、何だか火を噴きそうに見える。言葉をうまく発せられないのか、サンジの口は微妙に開いていた。
同い年、というのを、ゾロはその時うっかり忘れた。サンジがあまりに真っ赤なので、赤ん坊みたいだと思ったのだ。
シモツキ村にいた頃、近所で赤ん坊が生まれた。大人は口々にかわいいと言っていたが、その顔は真っ赤で、サルみたいだとゾロは思った。だが、ちょっと年上のくいなには、赤ん坊はかわいらしく見えたらしい。かわいいね、そう言って、赤くぷくりと膨らんだ頬に、くいなはちゅっとキスをした。
「うん。お前、かわいい」
今なら、あの時のくいなの気持ちがわかる。ゾロは頭を撫でていた手でそのまま後頭部を掴んで引き寄せ、右の頬にちゅっとしてやった。
「――……あ？」
石のように固まって動かなくなったサンジが、しばらくして動き出すとともに、ものすごい絶叫がメリー号に響き渡った。
うるせェな、と思ったけれど、ゾロは非常に満足していた。かわいいのが、こんなにいいものだなんて、知らなかったのだ。サンジが右の頬を手のひらで押さえているので、ゾロはその前髪をちょっとだけ持ち上げて、左の頬にもちゅっとした。瞬間、サンジがぎゅっと目を瞑ったのがまたかわいい。
もっと年下のルフィやウソップにはそんなことをしようとも思わないし、かわいいとも思わない。そのことに、ゾロはまだ、気づいていない。
「たかが4か月。されど4か月」
なんでしょう？この4か月がデカイんですよねー
時が経って、大人になれば大したことのない4か月なのに、このモヤモヤってなんなんでしょう？(笑)
力量を認めざるを得ない相手がと考えると、いろんな思いが湧くのでしょうねｗ
かわいいコックさん大好きです！
ありがとうございました！ ぱた
いやぁ、可愛いｖｖ
作中のナミさんの台詞ではありませんが、一番年上でありたいサンジくんが可愛らしすぎて身悶えしましたｖ
あみさん、可愛いサンジくんをありがとうございました〜！ ひか